恵泉女学園大学

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本学について

2007年5月

「平和の人」

2008年度の受験者の皆さん方のための爽やかで美しい表紙の「恵泉女学園大学・Campus Guide」が刊行されました。その表紙のトップには、「平和をめざす女性の大学」という、私たちの大学のキャッチフレーズが書いてあります。
先月のフェローシップアワーで、私は、新入生の皆さんにぜひ、本をたくさん読んで下さいといいました。そして、4冊の本のタイトルをあげました。
その最初にあげたのがルドルフ・フォン・イェーリングという人の「権利のための闘争」という本です。この本は今から113年も前に刊行された本ですが、人間が人間として尊ばれるべきことを力強く主張した本として、当時から現代にいたる迄、多くの人々に影響を与えた本です。
その最初の一行目には、このように書いてあります。「法の目指すところは平和である。しかし、それに至る手段は闘いである」。これは、とても大事な内容を含んでいる表現だと思います。
一般の多くの方々と同じように、私たち、殆どのクリスチャンは「平和」が大好きです。したがって、「闘い」が大嫌いなのです。しかし、この「権利のための闘争」という本の中に書かれてあるのは「平和をめざす」ためには「闘い」が必要だというのです。
平和のために、自分と闘い、社会と闘い、正義を求めて悪と闘う、そのような意味での「平和を目指す精神」は「闘う」精神です。理不尽な考えや、不正義のはびこる社会の動向に対して、ハッキリとノーと言うことをしないで、真の平和のために闘う精神を捨て去ってしまうと、大変な時代になります。そのことは、1920年代の終わり頃、恵泉女学園ができる頃から戦時中に至る日本が経験したことでした。
現在も、平和をめざす私たちが、見のがすことの出来ない事態が起りつつあります。5月14日には憲法改正に必要な手続きを定める「国民投票法」が成立しました。今、本当に大変に危機的な状況になってきました。私たちは、現在の平和憲法の精神の否定に至るような動向と闘わなくてはなりません。
河井先生は、かつて、こう言われました。「人々は、戦争をする時にはどれだけ本気になるのでありましょうか。生命がけであるから、真剣であります。その戦争を防止するための平和運動は、音楽を聴いたり、お茶を飲みながらでは出来ません。生命がけで戦争をする人の意気(気概・あふれる元気さ)が無ければ平和をもたらすことは出来ないのであります。」これは、1927年5月21日に行われた第7回婦人平和協会総会の講演のなかで言われている言葉です。今から丁度80年前も前の昔のことです。
河井先生は、戦時中に警察に出頭を求められ、留置場で数日間厳しい取り調べを受けられたことがありました。それは、恵泉女学園の生徒が戦地の兵士に送った慰問袋の中に「お互いに殺しあうことを早く止めて下さい」と書いてあった責任を問われたからです。しかし、河井先生は、決してこの生徒の言葉を否定しないで、生徒を守り、自らの平和の意思を貫いたのです。当時の日本の政府と社会とマスコミが戦争を全面的に支持し、実際に日本の軍隊が中国や東南アジアで戦争を闘っていた時に「平和のために闘って」おられたのです。
「戦争」は、恐ろしい結果をもたらすことを私たちは、20世紀に体験し、それは21世紀の今も続いています。しかし、平和のために、平和的手段によって、正々堂々と「闘う」ことを河井先生は示してくださったのです。
これは、河井先生がおっしゃり、実践されたように、命がけのことです。ですから、多くの人々は沈黙させられてしまいました。国民の多くは、日本の「戦争」が正しいという理由を信じ、日本の勝利を願って、教会でも学校でも、「戦争」に勝ち抜くための、重苦しい生き方を強いられていました。私も、子どもでしたが、小学校では天皇陛下の写真に礼拝し、教育勅語と軍人勅諭を暗記させられました。そして、天皇陛下の命令の下、世界最強で負けたことのない大日本帝国陸海空軍により、戦争には必ず勝利すると教えられ、それを堅く信じていました。
でも、日本は負けました。戦争が終わった時、私は東京の小学校の集団疎開で山梨県のお寺にいました。当時11歳だった子ども心にも、学校の先生も、父母も、勿論、天皇陛下も何もかも信じられなくなりました。しかも、正義の戦をしていたはずの、日本の軍隊が中国をはじめ、アジアの各地で、どんなにかその国の人々を苦しめ、罪のない人々を巻き込み、多くのいのちを奪ってしまったか。戦争が終わってから、知らされた数々の事実に、目や耳を塞ぎたくなる程でした。
しかし、私達は、正確な歴史の事実をしっかりと見つめ、何故そうなってしまったかをじっくりと考え、狭い日本中心の見方では無く、世界の歴史の動向の中で共有される価値観、すなわち国連の「世界人権宣言」などの国際的スタンダードに沿って、日本の過去の歴史を批判的に分析し、理解し、反省することが大事なのです。
「平和」のために「戦争」をするような方向に決して向かってはならないのです。しかし「平和」をめざして、平和的手段によって「闘う」人になりましよう。「平和をめざす女性の大学」としての恵泉女学園大学こそは、平和を実現する人をつくる大学なのです。
皆さん、聖書全体のメッセージは「平和」です。私達の救い主イエス・キリストは「平和の主」なのです。河井先生は、そのことを戦争中にハッキリとおっしゃったのです。そして、神への礼拝を止める時は、恵泉が終わる時なのですといわれ、戦時中も礼拝を決して止めませんでした。
聖書の中には、神の正義のために、悪や不正と闘うという表現が数多くあります。神にあっての、本当の「平和」のために、平和な手段によって正々堂々と発言し、時にマスメディアやこの世の指導者の意見や社会の動向と異なることがあっても、ハッキリと自らの信念に基づきつつ、悪と「闘う」人になりましょう。
「平和を実現する人々は、幸いである、その人たちは神の子と呼ばれる」とイエスキリストは語られました(新約聖書・マタイによる福音書・第5章9節)。
平和を実現するのは本当に大変なことです。しかし、諦めないで、どのように小さな試みであっても、平和を実現するために努力しましょう。
そして、神の子となるために、神の正義のために、弱者のために、差別されている人々のために、私達自身のためにも、大胆に、神による「平和」をめざして「闘う人」になりましょう。日本の社会や制度、そしてグローバルな世界に存在する不公平、不正義との闘いはもちろん、私達自身のうちにもある不正義や怠惰な思いとも闘う精神に満ちた「平和の人」になりましょう。
神にある「平和」が、世界の全ての人々の上にありますように。

平和をめざす女性の大学 恵泉女学園大学 Story ~世界でたったひとつの物語~
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