皆さん、ご卒業おめでとうございます。
恵泉女学園大学は、今年開学20周年の記念すべき年を迎えました。本学は、皆さん方が学ばれたように「キリスト教」「国際」「園芸」の学びを統合することによって、人間形成のための教育理念として来た極めてユニークな大学です。このような建学の精神を具体的な教育カリキュラムによって展開している大学は、世界中でも恵泉女学園大学だけなのです。
皆さん方も御存知のように、私たちの大学は2006年度、2007年度と2年連続で、文部科学省の『特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)』に応募して、厳しい競争を勝ち抜き、研究と教育のための補助金を獲得しました。昨年度のテーマは『専門性をもった教養教育としての体験学習』で、1990年以来導入された体験学習、短期・長期のフィールドスタディを取り組んだ教育プログラムでした。
そして、今年度は「教養教育としての生活園芸」の全学的な取り組みが高く評価されました。皆さんが体験した教育農場での作業や協力の精神、自然を慈しみ育てる心は、生活を豊かにすると言う点で、いかにも恵泉にふさわしいカリキュラムです。
今日、めでたくご卒業される皆さんにお贈りしたい聖書のメッセージは 「これらのことを話したのは、あなたがたがわたしによって平和を得るためである。あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている。」(新約聖書ヨハネによる福音書、16章33節)です。このように聖書の教えによれば、イエスキリストがスト-リーを語ったのは、「平和」を得るためなのです。
良く知られているように、第2次世界大戦の大きな惨害の中から生まれたユネスコの憲章前文には、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と記されてあります。旧約聖書の箴言(4章23節)には「何を守るよりも、自分の心を守れ。そこにいのちの源がある。」と書いてあります。
私は、今年度は、「現代社会とキリスト教」と「教養ゼミ」を担当し、課題図書を四冊読んでブックレポートを提出してもらいました。 その本の一冊は、イェ-リングという人の古典「権利のための闘争」という本でした。この本の一行目に、「法の目標は平和であり、それに達する手段は闘争である」と書いてあります。日本の社会での平和と秩序の法しか知らない学生の皆さん方には「平和」のための「闘争」という考えに違和感をもった人もいたようでした。
実は、聖書には、悪との戦い、不正義との戦い、自己正当化やエゴイズムとの戦い、など「戦い」と言う言葉が数多く登場します。これらとの暴力によらない戦いを通して、神による本当の平和、平安を得なさいと語っているのです。これが、神の前に本当の人間となることだと語りかけるのです。
キリスト教の精神は神による平和です。平和のうちにあるからこそ、人間のいのちは自由に展開されるのです。そして、聖書との出会いの中で、自分の心の内に起こる神の声の囁きに静かに耳を傾けて下さい。
続いて、「あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。私は既に世に勝っている。」とキリストは語られました。この世における生活で、苦難がなくなるとは言われないで、苦難がある、「しかし、勇気を出しなさい。私は既に世に勝っている」とイエスは語られたのでした。
最後に、来年で80年を迎える恵泉女学園を創立された河井道先生が、日本の敗戦後の社会的混乱の中で述べられた次のような言葉に耳を傾けてみましょう。
「現在、日本の国家、国内、個人間の問題をみてみますと、物質・精神両面に旋風が吹き荒れ、腐敗、破壊が渦巻いています。わたくしたちは、悲観的な絶望の敗北感で世の人々と調子を合わせるべきでしょうか。いいえ、そうであってはなりません。神は愛の犠牲をもって人間を作り直して下さることを信じ、闇の中にも光を見いだしましょう。たとえ不幸のなかにあっても神の恵みを感じとり、勇気をもって生活すべきときが来たのです」
皆さん方のこれからの人生は大きな可能性と冒険に富んでいます。新しい出会い、喜びや楽しみもあるでしょう。また、大きな苦難や悲しみに直面することにもなるでしょう。しかし、どのような時、どのような所にいても恵泉で皆さんが学び、体験した神にある平和、平安の心を抱きつつ、「勇気を出しなさい」というキリストの力強いメッセージを心の内にもって、これからの新しい人生を歩んで行って下さい。
神にある平和が、いつまでも皆さんの上に豊かにありますようにお祈りいたします。
卒業生の皆さん、そして保証人とご家族の皆様、おめでとうございました!
(2008年3月13日・卒業式式辞・要旨)