7月第3週の水曜日のことでしたが、私が担当している「現代社会とキリスト教」の時間に、清水護先生による特別講義が行われました。
おそらく、日本の大学、いや世界の大学においても、100歳という超高齢の先生が、本当にお元気な響き渡るお声で、一時間半も休みなく講義をなされたというのは、極めて稀なケースだと思います。ギネスブックに登録できるのではないかと思っています。
清水先生は、はじめにブラウニングの「Pippa Passes」の詩をとりあげ、その韻律の構造についてふれ、次いで上田敏による「海潮音」の訳詞もとりあげながら、何回もその原文を繰り返して読まれ、その内容と背景について解説されました。そして、現代社会において「神は天にましまして、すべて世はこともなし」は本当でしょうか?と私たちに問いかけられた上で、「ブラウニングのキリスト教信仰と希望に目を注ぐようにしてください」と語られました。
また、同じブラウニングによるラビ・ベン・エズラの詩「一緒に年をとっていこう!最善の時はこれからやってくる」を解説されました。そして、「若い皆さん方には色々と不平不満があるでしょうが、"The best is yet to be" です。ぜひこれを忘れないで下さい」と語られました。御講義の初めから終わりまでの時間、たっぷりと清水先生の学問への若々しい情熱と学生たちへの心のこもったメッセージをお伺いできました。その豊富な話題、たとえば詩人のブランデン、劇作家ゴールズワージー、聖書の譬え話、ハ-メルンの笛吹き男の伝説などの内容に圧倒され、深い感銘を与えられました。
1908年生まれの清水護先生は、長年にわたり成蹊、ICU、東京女子大、東洋英和などで英文学と英語教育にあたられ、英語教育協議会の理事長として大きな貢献をされてこられました。昨年にはご著作「英訳聖書の語学・文学・文化的研究」が学術出版会から刊行されました。
本学園創立者の河井道先生の御依頼で、今から50年以上も前のことでしたが、世田谷キャンパスでの英文学の講義を清水先生が御担当なされました。その時の学生の一人が現在本学園の一色義子理事長でした。先週の講義の当日には久しぶりの再会をお二人の先生はとても喜んでおられました。
実は、私は学長としての激務もこなしているのですが、同時に講義やゼミを担当して、専門分野である「バイオエシックス(生命倫理)」に焦点を合わせつつ「現代社会とキリスト教」の講義をしています。清水先生は、かねてより、思い出の深い恵泉で是非とも若い学生の皆さんに語りかけたいとのことでしたし、丁度タイミング良く、私の「高齢者とバイオエシックス」をめぐっての講義の展開ということで、高齢者として益々お元気な清水先生に本学へとおいでいただいての特別講義をお願いしたというわけでした。
受講したかなり多くの学生たちが、それぞれ「私たちの年齢の五倍にもあたる100歳とは思えない清水先生のお元気さに感動し、先生ご自身の人生をふまえた素晴らしい御講義をして頂き先生から元気を与えられました。一生忘れられない想い出となりました。心から先生に御礼申し上げます。」といった内容の文章を、一人一人の個性的な感想やコメントに加えて書いていたのが印象に残りました。
私も清水先生による "The best is yet to be" の意味の深さをお伺いして、これからの素晴らしい時を期待しつつ、着実な人生の歩みをしていきたいと心に誓いました。