あなたがたの光を輝かせなさい
学長 木村利人
本日は、東日本大震災からちょうど1カ月目になります。多くの方々の尊いいのちが失われましたが、その方々のご冥福を今日ご出席の皆様とともにお祈りしたいと思います。また、被災者の皆さまのご健康とその方々への十分なサポートが行われますようお祈りしたいと存じます。
このような、大変な事態の中で、入学式も一週間遅れまして色々とご迷惑、御心配をおかけしましたことをお詫び申しあげます。
今日、入学式を迎えました。新入生の皆さん、本当におめでとうございます。お母さま、お父様、ご家族の方々、保証人の皆様にも心からお祝いを申し上げます。
私たち恵泉女学園大学の教職員一同は、今日の素晴らしい春の日差しの中、満開の桜の花に囲まれて入学式を迎えた皆さんを心から歓迎します。今日からはじまる4年間、皆さんが本当に充実した大学生活を送れるように、私たち教職員は全力を尽くします。
今日は、新入生の皆さん方にとって本学での正式な第一日目ですが、まず、皆さんに覚えて頂きたい人があります。それは、本学園をつくられた河井道先生です。
河井先生は、伊勢で生まれ、北海道で育ち、新渡戸稲造の薫陶を受け、その勧めでアメリカのブリンマ―女子大学に学び、帰国して津田梅子がつくった女子英学塾の教師を経てYWCAの創設に関わった後、私たちの大学の母体となった恵泉女学園を、今から丁度82年前の1929年に創設しました。
この、恵泉女学園が開校される6年前の1923年9月1日には「関東大震災」というマグニチュード7.9の大地震がありました。その時大磯におられた河井先生は、地面に放り出され、荒海で船に揺られているような恐ろしい体験をされ、竹藪に避難されたということです。先生は、自伝の「わたしのランターン」という御著書で次のようにお書きになられておられます。「竹藪は大勢の人でぎっしりと詰まって、まるで生き地獄のようでした。人々の興奮や騒がしい声と揺り返しの恐ろしさで生きた心地もありません。或る老人は、昔このような地震の後に津波が来たと言いました。さあ、どこへ逃げたら良いだろう!」と書いてあります。
それから数日後に、歩いたり、馬に乗ったり、バスを乗り継いだりして、船に乗ったりして、何日もかかって東京にもどり焼け野原の中でYWCAの総幹事として日本で最初の女性による大震災救援活動を組織し、その後「東京連合婦人会」の議長として大活躍をしました。河井先生は「地震の災いが、東京の婦人たちを、潜んでいた力に目覚めさせ、もっと広い活動の面に進出させた」と述べておられます。
どんな困難に出会っても負けないで、これに立ち向かい責任感をもって与えられた使命を全うする、そして困っている方々に手を差し伸べて素早く活動する河井先生の精神は、今もこの恵泉に活き活きと脈打って生きていると思います。
昨年度は、実はこの大震災の影響で卒業式が出来ませんでした。大変に残念に思っておりました。ところが、最初はたった4人の学生たちが考え出して、東北の被災者の皆さん方への応援への思いを込めて、ツイッターで「エア・卒業式」をしようと提案して、開催予定日に呼び掛けて、卒業する本人はもちろん、教職員、保証人、そして通りがかりの方々も大勢参加する一大イベントになりました。これがニュースになり、朝日新聞の夕刊にも記事が出ました。学生たちがとてもクリエイティブで、いかにも恵泉らしい行動力による「エア・卒業式」となり、本学とは直接関わりの無かったかたがたにも大変に好評でした。
また、今回被災された仙台市出身の本学の大学院生とそのお友達がボランティアとして、学生課や教職員の皆さん方の協力を得ていち早く救援物資を集め、80箱近くも被災地に送りました。ボランティア組織の代表として震災直後から現地入りして活躍されてこられた本学の先生方や被災地域出身の学生の皆さん方と相談しながら、これからも色々と継続的に救援活動を本学で続けていきたいと思っておりますので、なにとぞ宜しくお願いします。
この関東大震災から6年後に聖書と国際と園芸の3つの教科を統合した人間教育をめざして恵泉女学園を創設されたのでした。そして、この大学もその伝統を受け継ぎ、世界でたった一つの極めて特色ある「平和をめざす女性の大学」少人数教育の良さの中で、教職員、学生が一体となった学園づくりを行なってきました。
このようなカ聖書、国際、園芸の教科を必修にして、人間形成の基盤としている大学は世界中に一つもありません。恵泉だけです。ここ数年来、このような恵泉女学園大学教育の良さが社会的にも評価されて、「体験学習」「生活園芸」「地域社会における小学校の英語教育」といった教育研究プロジェクトが評価され「特色ある大学教育支援プログラム」などに採択されてきました。
特に、私たち大学の教職員、学生にとって大変に嬉しいことは、つい先月の3月30日のことでしたが、本学は学校教育法に基づき、文部科学大臣の認証を受けた評価機関による厳格な「大学評価」を受けた結果「大学基準協会の大学基準に適合している」と認定され、これに基づき認定の期間は2018年3月31日までとするとの通知を受けたことでありました。
今まで述べたようなフィールドワークへの取り組みや地域社会への貢献など恵泉の教育理念とその教育実践が高く評価されたことは私たちにとって大きな喜びでした。
いうまでもなく、教育というのは、教え育てることです。ギリシャ語ではEducareで、英語のEducationのもとになっていますが、その意味は、引き出すということです。恵泉ではみなさんの才能や可能性を引き出す、正に皆さんが自分で自分の人生をデザインできるようなEducareをしています。
皆さん、一生懸命に勉強して下さい。油断しているとアッという間に過ぎ去るこれからの4年間、皆さん方を支えて下さっている多くの方々の期待に応え、「地の塩、世の光」となることをめざして積極的な恵泉女学園大学生活を送りましょう。
河井先生がしばしば語られておられたように、「あなたがたの光を輝かせつつ」歩んでいきましょう(新約聖書・マタイによる福音書 5章16節)。
新入生の皆さん、そして、お母さま、お父様、ご家族のみなさん、保証人はじめ、多くの関係者の皆様方に対しまして、重ねて、心から入学おめでとうとお喜びを申し上げますとともに、新入生の皆さんはじめ、ここにおられる全ての方々の上に神様の御祝福とお恵みがありますようにとお祈り申し上げます。
(2011年4月11日・入学式・式辞)