恵泉女学園大学

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本学について

2011年6月

いのちを選ぶー「脱原発」の未来へ

学長 木村利人

「自己規制のメカニズムを欠いた科学技術の、資本や国家権力との結合による暴走が、どんなに悲惨な事態を惹き起したかは、私たちがつぶさに体験しつつあるところである」。この一文はまるで、今の時点で書いたかのように思えるかも知れません。

しかし実は、今から32年も前の1979年11月号の「福音と世界」誌に私が執筆した「生命操作時代の衝撃―バイオエシックスの挑戦」の中の一節なのです。私は、この論稿を執筆当時にはハーバード大学・世界宗教研究センターの研究員として滞米中でした。

この1979年7月中旬に、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で開催され世界教会協議会(WCC)」主催による「信仰・科学・未来」をテーマにした世界会議が開催されました。私が、1973年から75年にかけてWCCのエキュメ二カル研究所の副所長の任にあった時にこの世界会議の企画に関わったことから、これに招かれ出席することになったわけです。

このMITでの世界会議には、世界の約60カ国から遺伝子操作や原子力工学者など科学技術専門家、生命科学者、キリスト教神学・倫理学者、仏教・イスラムの宗教家、政策担当官、政治家、経済学者など、約1000人の参加者がありました。この会議の全体討議の議題をめぐっては、予想外の展開があったことが印象に残っています。

それは、主催のWCC側での企画原案には無かった二つの重要な決定が、参加者のイニシアティブで本会議場に提案され、採決されたからです。一つは『核軍縮』についてのアピールで、他は『原子力発電の三年間モラトリアム』の決議でした。

私はこの会議の分科会において、地域住民の知る権利に基づいたコミュニティ的発想による先端科学技術とインフォームドコンセントの展開を提言し、「仮に災害が生じた場合、最も被害をこうむるのは一般市民なのだから、あらかじめその危険度・範囲・内容について、あらゆる情報が制限なしで一般市民に与えられていて当然である」と発言しました。

半世紀も前にさかのぼることですが、1955年10月30日に哲学者ハイデッガーが講演で述べた次のような予言的内容に、今、深く思いを巡らせています。

「現代の科学と技術の根源的な問いは、もはや私たちが十分な量の燃料を何処から得るのかといったことではない。決定的な問いは、想像もできないほど大きな原子エネルギーを、一体どのようにして制御し、操作するのか、そして、この途方もないエネルギーが突然-戦争にもよらずに-何処かでブレークし、いわば「脱走」し、あらゆるものを壊滅しつくしてしまうという危険に対し、人類を安全に守ることが出来るのかどうか、という問いなのである。」

まさに、現在の日本の状況をそのまま描写している言葉であると思います。50年以上も前にそれを予言している先達の言葉に驚かされます。
今こそ、私たちは「いのちを選ぶ(申命記30章19節)」ために希望ある未来に向けた「脱原発」世論形成への責任を担っていくべきだと考えています。

来る、7月7日(木)の恵泉女学園大学「社会・人文学会」総会では、大学院平和学研究科の上村英明教授による「『神話』の崩壊と新しい社会・ライフスタイルへの挑戦-2010ナゴヤから2011フクシマへ-」と題する正にタイムリーな講演があります。

「東日本大震災」以降、私たちは根源的な意識の変革とそのライフスタイルの改革を迫られているのだと思います。
学生、教職員の皆さん、この総会と講演会にぜひお出かけ下さい。
ともに上村先生の講演に耳を傾け、語り合い、「脱原発」の未来への展望をつくりあげようではありませんか!

2011年度社会・人文学会総会ポスター