世界のイスラム庭園の中で最も美しいと称されているアルハンブラ宮殿とフェネラリーフェ離宮はスペインの古都グラナダにあります。グラナダはスペインの最も南にあるアンダルシア地方の中心都市のひとつで、711年から1492年までイスラムの支配下にありました。特に、1246年からこの地を治めたナスル王朝は繁栄し、その治世にアルハンブラ宮殿とフェネラリーフェ離宮は完成しました。1492年にこの地を奪還したキリスト教徒であるイザベル女王はこれらの宮殿を破壊することなく維持し、それから500年余を経た今日も当時の宮殿が残されています。
アルハンブラ宮殿はシェラネバダ山脈の雪を背景にして丘の上に立っています。宮殿は石の壁で囲まれ、中にはいくつかのパティオ(中庭)が連なっています。先ずギンバイカのパティオを紹介します。これは長方形の庭で、中央には長方形の池があり、長辺に沿ってギンバイカの刈り込みが仕立てられています。また短辺の池端には水盤が置かれ、湧き出た水が池に落ちています。中庭の短辺にはアラベスク文様を刻み込んだアーチが置かれ、それが池の水面に美しく写ります。次はライオンのパティオです。庭の中央に前向きの同心円に置かれた12頭の石造りのライオンの口から水が噴き出しています。庭を十字に区切る水路があり、水が絶えず流れています。また、庭の周囲にはアーチが置かれ、一面にアラベスク模様が刻まれています。このライオンのパティオは最も美しいイスラム様式のパティオと言われています。その他にもいくつかのパティオがあり、それらはイスラム時代の庭園の様式を今に伝えています。
アルハンブラ宮殿の隣の丘にフェネラリーフェ離宮はあります。離宮の中にある最も美しい庭はアセキアのパティオです。細長い庭園の中央に水路があり、両岸からは短い間隔で多数の噴水が噴き出ており、水が弧を描いて池に落ちています。池の周りには四季の花が咲いています。また、片方の壁にはツル植物が茂っています。
また、グラナダにはアルバイシンというイスラム時代の住宅街があり、そこにはカルメンと呼ばれるイスラム様式のパティオが個人の庭として維持されています。
これらの3つの文化遺産は1984年に共に世界遺産に登録されました。
西村悟郎(園芸文化論)