小さいけれど、強い大学~国際シンポジウム 恵泉X梨花 報告~
2018年06月04日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
5月26日に恵泉スプリングフェスティバル2018が行われました。
今年のテーマは「平和の手紙を届けよう!」。聖書・国際・園芸を基礎とした恵泉の学びが、地域から世界の平和へとつながるための何かを始めるきっかけになることを願って、次のようなプログラムがキャンパスいっぱいに繰り広げられました。
体験
教育農場ツアー / 園芸療法体験/ フラワーアレンジメントのミニ体験/等々
買い物
恵泉卒業生によるハッピー紙雑貨販売/ 福島を忘れないで~関心を持とう、つながろう、風評をこえて~/等々
学ぶ
武田美通 鉄の造形作品展「戦死者たちからのメッセージ」/ 福島菊次郎とは誰だったのか~記録編~/ 映画上映「遺言―原発さえなければ」/元CAによる「第一印象は5秒で決まるメイク講座」/等々
食べる
オーガニックカフェ/ 同窓会や恵泉会販売のタイ・コーヒーやお菓子/社会福祉法人「共働学舎」「賛育会」「正夢の会」日本キリスト教団永山教会の皆様からの手作り菓子や焼きそば等々
楽しむ
カリヨンコンサート/Music Letter~恵泉のしらべをあなたへ/ メイポールダンス♪/恵泉フラワースクールアレンジメント展示等々
知る
各学科の学びの紹介コーナー
その中の一つのプログラムとして開催した国際シンポジウム「今、女子大学生に必要な高等教育を考える」についてご報告いたします。
基調メッセージ
大日向雅美
基調講演
金恩實(梨花女子大学教授同大アジア女性学センター長)
コメンテーター
- 李明宣 (梨花女子大学教授)
- 山川百合子(衆議院議員 本学1期生)
- 澤登早苗 (本学 社会園芸学科教授)
- 上村英明 (本学 国際社会学科教授)
司会
笹尾典代(本学大学院人文学研究科長)
通訳
李泳采 (本学大学院平和学研究科長代行)
これまで本学は韓国の梨花女子大と2回にわたってシンポジウムを開催してきましたが、今回はそのPART3です。基調講演をしてくださった金恩實教授は昨年のPART2に続いてのご登壇。梨花女子大学が1886年に梨花学堂として設立され、その後、1948年に韓国総合大学第1号の認定を受けて今日に至るまでの女子教育の歩みを振りかえりながらのお話でした。とりわけ印象的だったのは、梨花女子大の女性教育の目指すところの大転換です。近代から20世紀にかけて常に時代の先駆者たるスーパーウーマンの育成に注力してきた梨花女子大が今、模索しているのは「分かち合いのリーダーシップ像」だということでした。競争至上主義の中で勝ち抜くエリートではなく、社会的及び政治的弱者に対する感受性と倫理意識を持つ人材の育成であり、知識や資源を共に分かち合うとき、社会がより発展し、社会構成員が共に幸せになるという価値を学び、そのための実践教育を目指すというお話でした。
この金先生のお話は、私が基調メッセージとしてお伝えした恵泉の「生涯就業力」が目指すところと完全に一致したものでした。女性活躍が声高に叫ばれている昨今の日本社会ですが、女性が置かれている現状の厳しさが依然として変わっていないだけでなく、急速な少子高齢化の一方、世界規模で生じつつある未曽有の社会変動、さらには平和が脅かされる危機的状況等を考えるとき、高齢者も若い世代も、だれもが弱者となりうる怖さがあります。そうであればこそ、現状を冷静に把握分析できる知識・技能・理解力と、課題解決に立ち向かう志向性、それも一人ではなく他の人と共に向き合える協調性をもって、「しなやかに強靭に」生きる力が必要です。言葉を換えれば"生涯にわたって生きる目標を見失わず、自分を磨き続け、身近な人、地域・社会と共に生き、尽くす人となる力"としての「生涯就業力」ですが、これは河井道先生が願われた平和に尽くす自立した女性の育成に他なりません。
梨花女子大の「分かち合いのリーダーシップ」と恵泉の「生涯就業力」は、競争原理に根ざした男性的なリーダーシップとは異なる"新たな女性活躍"の姿の提示であり、そのためにこそ、女性独自の視点とそれが尊重される学びの環境として女子大の意義と使命があるという点でも、一致したところでした。
続いて登壇した4人のコメンテーターからも、心に響くメッセージが届けられました。
李明宣先生は、アジア女性たちが集まって2週間のワークショップを通じて相互学びを行うEGEP(Ewha Global Empowerment Program,2012年から年2回、毎回20名以上のアジア女性研究者・活動家参加するプログラム)の経験を通じて、女性たちだけの学び空間の重要性と、アジアフェミニズムとトランスナショナルな女性の連帯の必要性を静かに、しかし熱く語ってくださいました。澤登早苗先生は命を育む恵泉の園芸教育の中で、自然と共生し、分かち合う大切さを。山川百合子さんは恵泉での学びが自身の今の政治活動に実を結んでいること。最後に登壇した上村英明先生は女子大で17年間、平和学を担当して学んだことは平和教育のエリートをつくらないことだということでした。「従来の平和教育はたとえば中高校生には戦争がいかに恐ろしいものかを教え、他方で大学等では国際機構や国際法に通じた平和エリートの養成を行ってきた。しかし、平和な社会の実現に本当に必要なことは、普通の人が普通に暮らしながら、しっかりグローバルな平和に向き合うことだ」。まさに河井先生の平和教育の理念に通じるコメントでした。
最後に金先生も李先生も、梨花女子大と本学とのつながりを強く希望するメッセージを残してくださいました。学生数13000名余り、韓国のみならず世界屈指の女子大である梨花女子大ですが、聖書・国際・園芸を学びの礎とした恵泉の教育が、地域とつながり、自然と共生し、弱者に寄り添う分かち合いの女性リーダー育成のモデルとなる、「小さいけれど、とても強い大学」だと本学を表現されました。そして、そのことをスプリングフェスティバル2018が催されているキャンパス全体からも確信されたようです。
国際シンポジウム
嬉しいご案内です。梨花女子大の現職総長が、この秋、10月に恵泉を訪問くださるとのことです。総長をお迎えしての企画等、詳しいことが決まりましたら、ご案内いたします。
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