ヨーロッパの美術史を専門としているので、各国を旅しては写真をとったり調べものをすることが仕事の一部になっています。知らない街へ出かけ、食べたことのないものを食べ、見たことのないものを見る。旅先でのそうした楽しい思い出を、皆さんも沢山持っていると思います。しかし飛行機はおろか、まともな道路さえ無かった頃の旅はどうだったでしょう。昔の旅は不便で時間がかかっただけでなく、警察もまだ無いのですから、危険なものでもあったはずです。それでも外交や布教のためといった、よほどの必要性がある人々が、決死の覚悟で遠い国へと旅立っていきました。やがて社会が近代化し、王族や貴族だけでなく、一般の市民の中にも経済力を持った人々が現れました。徐々に進歩していく交通手段にも助けられて、彼らはローマなど古くから文化が栄えていた土地を訪れては、観光とともに多くのことを学んで祖国に帰っていきました。こうした「遊学」旅行はブームになり、一種のたしなみとなりました。皆さんも、"遊びながら学ぶ旅" をこれからも沢山してくださいね。