恵泉女学園大学

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人文学部 歴史文化学科

化粧

京都の舞子や若い芸者は、耳たぶに紅を薄く塗る。すると、初々しく見えるのだという。実はこの耳紅化粧、人類の「化粧」の起源ともいえる「赤化粧」の伝承の中で、耳化粧として文明社会に現存する唯一のものらしい。人類の化粧行動の最も原初的な目的は、魔除けといった宗教的呪術的なものと考えられ、赤道付近の熱帯圏を中心に太陽信仰と共に広く分布した「赤化粧」は、炎や血の色にも通じ熱や生命力を象徴する赤色のパワーへの信仰から、赤塗料を身体とくに悪霊が侵入すると考えられた口目耳鼻臍などの穴に塗附したもので、口紅はまさに赤化粧の世界発展系だ。日本でも古墳時代まではこの赤化粧であり、その後東ローマから中国を経てもたらされた白粉化粧が貴族階級で流行した平安朝を除けば、明治に西洋白人種の白化粧が再来するまで、結局は日本人の赤色系地肌色を強調し健康的に見せる薄紅化粧が日本の化粧文化の基底にあり続けた。化粧は文化であり、その選択は教養と品性を表わすものである。