教養教育としての生活園芸
生活園芸Iの特性
「生活園芸I」は1年次の必修科目です。全ての学生が履修することから、「無理しない、無理をさせない、懲りさせない」を念頭におき、教育プログラムを組み立てています。授業は年間を通じて、週に1回90分、通常の講義科目と同じ枠組みで行っています。
化学肥料を使用しない有機園芸の基本は土づくり。健康な作物を栽培するための土づくりにはキャンパスから出る落ち葉をはじめ、地域の農家や業者から出る資源を活用しています。産業廃棄物として処理される資源を教育農場で有効活用し、環境負荷の軽減にも寄与しています。このことは、地域内での資源循環を促進し、大学と地域との連携を深めています。
収穫時には、重さを量り、記録を残します。収穫物は各自、自宅に持ち帰って、調理して食べるように指導しています。収穫物が祖父母との共通の話題となり、異世代交流のきっかけとなっています。土を耕し、種子を播き、手入れをし、収穫・利用するところまで一貫して行って、本プログラムは完結します。
畑に集合し、ミニ講義を受けてから、実習を行います。ミニ講義では、実習での理解を深め、持続可能な環境と社会への関心が広がるよう工夫しています。
実習の特徴は、二人一組で、決められた区画を1年間、管理すること。これを通して学生同士のコミュニケーションが深まっていきます。
実習の中心は野菜の栽培ですが、フラワーアレンジメントの材料となる花も育てています。秋にはこの花を用いたコサージュの製作実習も行います。
恵泉女学園大学における栽培教育プログラム「生活園芸I」の実施概要
履修者数 | 480名前後 |
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学生数 | 60±10名/クラス |
指導者 | 教員1名、授業補助スタッフ2名/クラス |
教育農場規模 | 4農場、合計約70a |
畑の割り当て | (1)特別管理区画 0.9m2×4箇所/組(2名) |
(2)クラス別共同管理区画 | |
授業時間 | 90分×1コマ/週×30コマ/年 春学期:4月~7月、秋学期9月後半~1月 |
栽培品目 | (1)個別管理区画 区画1:ジャガイモ→コカブ、チンゲンサイ、ラディッシュ、サニーレタス 区画2:キュウリ→ダイコン、ハクサイ 区画3:サツマイモ→ホウレンソウ 区画4:ムギワラギク、センニチコウ(リース材料として) |
(2)クラス別共同管理区画:サトイモ | |
投入資材(入手先) | 牛糞堆肥、発酵鶏糞(近隣畜産農家)、米糠(近隣米穀店)、草木炭(自家生産)焼成有機石灰(専門業者)、剪定枝(近隣造園会社) |
使用農具 | 鍬、鎌、移植ごて、鋏、バケツ、スコップ、手箕、一輪車、フォーク |
主な作業内容 | 全作物共通:施肥、耕耘、播種・定植、除草、マルチング、収穫 |
作 物 別:芽かき、土寄せ、支柱立て、誘引、追い播き、間引き 他 | |
収穫物の活用 | 基本原則:収量調査を行った後、持ち帰って食べる |
農場での試食:茹でジャガイモ、焼き芋、冬野菜の味噌汁、生食(キュウリ、ラディッシュ、ダイコン、ハクサイ) |
授業を行うにあたっての目標
- ・過程の重視
- 収穫という結果だけでなく、収穫にいたる栽培過程を大切にする
- ・五感を働かせる
- 周囲の植物や季節の変化を体感し、観察する姿勢を養う
- ・関係性への注目
- 他者(植物、動物、友人、環境)との関係に目を向ける
- ・循環の認識
- 農場内、地域内、地球規模での循環を認識する
- ・視野を広げる
- さまざまな関わりのなかから、多方面へ視野を広げていく
生活園芸Iの成果
- ・豊かな人間性の涵養
いのち、子育て、食への関心 - ・社会性の向上、共生への理解
人間関係の再構築 - ・持続可能な環境・社会への関心
- ・導入教育=教育理念の理解と学習意欲の醸成
存在価値の確認と自己肯定
理念の定着、大学への帰属意識の高まり
→大学での学びの出発点
学生学生は何を学び取っているか(2006年度秋学期レポート)は何を学び取っているか(2006年度秋学期レポート)
生活園芸Iからの発展
「生活園芸I」の発展科目として、2年次以降を対象とした全学共通の選択科目「生活園芸II」が、その他の生活園芸関連共通教養科目として「園芸芸術入門」「園芸食品加工入門」「花と生活」があります。さらに、人間社会学部には専門科目として「国際農業論」「持続可能社会論」「有機農業学」等の生活園芸関連領域の専門科目群や専門ゼミがあります。また、全学生を対象に園芸を体系的に学ぶ副専攻制度があり、継続的に生活園芸関連科目を学ぶ機会が設けられています。
キャンパス内での花壇管理
子育て支援施設「あい・ぽーと」で
の親子有機野菜教室
多摩センター駅前広場での花壇管理
カリキュラムの中の園芸科目
【選定理由】
本取り組みは、恵泉女学園大学の教育理念の一つである「園芸」の精神の習得を目指した教養教育科目「生活園芸I」を1年次必修の共通科目として設置するとともに、その具体的展開と関連の授業科目を絡ませ「持続可能な環境と社会を担う市民」を育成しようとする試みです。特に「生活園芸I」は本学所有の教育農場での体験授業(1988年以来)として展開され、効果を高めるための数々の工夫も凝らされており、本学の特性を活かしたユニークな取り組みといえます。また、「生活園芸I」及び関連の授業科目の授業評価も高く、授業の成果が授業以外の活動にも波及し、大学での学びの体験が学生自身の身近な問題の解決や生活向上につながっている点に大きな特色があります。本取り組みは「園芸」という特殊な分野の活動であり、直接には他大学の参考になりにくい面はありますが、「副専攻科目」への発展性や、「人間環境学科」の専門教育への継承など、取り組みの将来性も明示されており、高く評価できます。今後の計画が着実に遂行されることを期待します。
今後の実施計画
学生のいのちと暮らしを支える教育の展開
学生の健全で健康的な生活を支援するために、食農教育・食育・環境教育の観点からキャンパスライフ全体を見直し、「食育・環境教育プログラム」を全学的な取り組みとして展開します。具体的には、収穫した野菜の学生食堂での利用拡大やメニュー開発、簡単な料理指導やレシピの作成・配布、学内植物マップの作成・配布とこれに基づく教育プログラムの開発などが考えられています。これらの活動の基礎調査として、2007年度には教育効果測定のための卒業生調査と在学生の理解度調査、生活実態・環境意識調査、関連教育事例の調査を行います。
いのちのネットワークの展開
大学と地域社会との連携への期待が高まる中、現在は、萌芽的に行われている園芸活動を通した地域との連携プログラムを組織的に展開することが求められています。この期待に応え、地域との連携を通して学生を育てるために、組織の整備、知識の構築、人材育成に努め、コミュニティサービスラーニングを積極的に展開します。
いのちの尊厳を体感する人間教育の発信
本プログラムを紹介し、新しい教育の展開をさぐるための活動報告会や園芸教育関係シンポジウムを開催するとともにホームページを通してこれらの活動を紹介します。また、園芸教育や教育農場の見学および研修を積極的に受け入れ、いのちの尊厳を体感する人間教育を発信します。
- ・活動報告会 (予定) 2007年12月14日(金) 13:00~16:00 本学キャンパス・教育農場
- ・食育セミナー(予定) 2008年 1月22日(火) 13:00~16:00 本学キャンパス
学園としての支援
学園は、大学の教育理念に対応するこの取り組みを全面的に支援しています。カリキュラム面では「生活園芸I」を必修科目として教養教育の中心に置き、施設設備面では「教育農場」「自然観察林」、キャンパス内の「花壇」「育苗施設」等の整備を行ってきました。特に人間環境学科の設置を機会に、キャンパス・エコ(雨水利用、太陽光発電、生ごみ処理機、学内の落ち葉の堆肥化、CNGスクールバス等)を推進し、2001年には「教育農場」が教育機関として初めて有機JAS認定を取得しています。また、駅前花壇などを教育の場として利用できるように、行政機関と協定を結び、地域との連携を進めています。
有機認証を取得した教育農場
校舎屋根に設置された太陽光パ
ネル
天然ガス燃料、ハイブリットで走
るスクールバス