グローバルに生きる

タイで言語教育の経験を生かし保育園設立
モンテッソーリ教育で平和への種まきを

宮原 三保子さん

Maerim Montessori (メーリム・モンテッソーリ)保育園経営
宮原 三保子さん

― Profile ―

人文学部 日本文化学科 1995年度卒
(現 日本語日本文化学科)

1998年、神戸市外国語大学修士課程日本語・日本文化コース 修士号取得。1999年、タイ・チェンマイ市パヤップ大学日本語学科専任講師。2000年、チェンマイ日本人補習授業校講師。2017年、パヤップ大学退職。2018年4月から日本モンテッソーリ教育綜合研究所で教師資格取得をめざす。2019年5月、メーリム・モンテッソーリ保育園開園。2020年1月24日よりタイ国認可保育園となる。

恵泉で学んだすべてが
子どもたちの教育につながっている

 5月にタイでモンテッソーリ保育園を立ち上げました。タイとの出会いは、大学1年時の観光旅行。そこから関心を持ち、大学2年生から川上ウィライ先生にタイ語を習いました。タイの文化をわかりやすく教えていただきタイが身近に感じられ、タイ国際ワークキャンプに参加しました。

 また、秋元美晴先生(本学名誉教授)のゼミ生となり日本語教育を学び、大橋正明先生(本学名誉教授)に平和学や開発学を学び、大学3 年生のときには大橋先生によるバングラデシュでのフィールドスタディに参加。岩佐玲子先生(本学特任教授)の教育学、大日向雅美先生の女性学、故・森田進先生(本学名誉教授)の文学で『星の王子さま』を読んで「愛することとは?」と問われたこと、すべてが血となり肉となり、その当時はバラバラに思えた分野が確実に現在の子どもたちへの教育に全て一つにつながっていることを今、感動とともに思い返しています。

 毎回の授業は、それまでの考えを覆してくれるものばかりで、真実を知る喜びに満ちた日々でした。卒業が近づくにつれて「日本語教育をしたい」と志し、秋元先生に大学院進学を応援していただきました。

20年培ってきたキャリアを手放し
さらに発展させようと決意

宮原 三保子さん 大学院修了後、20年間、タイ北部のパヤップ大学の日本語教育に携わってきました。その中で、いつしか「言語教育とは、言語の習得だけを目的にしていいのか。人間教育を念頭に入れた言語教育を展開すべきではないだろうか」という迷いを感じるようになりました。並行して、日本政府が海外子女のために支援している補習授業校という土曜日だけの日本人学校で小学生を担任し、教師は成長していく子どもたちから 学ぶことが多くあるということを改めて認識しました。

 タイではたびたびクーデターが起きています。調和の取れた社会を取り戻すためには、幼児教育による平和の種まきをすることが必要です。しかし、タイの現在の教育は早期詰め込み主義で子どもたちから「学ぶ」ことへの意欲を失わせています。小規模でも着実に平和を自分の中から作れる人間を育てることが、未来の社会の財産になるに違いない。そうした信念を持ったとき、ふと自分が幼少期に受けた教育がモンテッソーリ教育だったことを思い出しました。

宮原 三保子さん モンテッソーリ教育は、平和教育を掲げ112年の歴史を持っています。さらに当園では独自に多言語多文化環境、食育などを導入し、子どもたちが初めて家族から離れて生活する社会が、自ら学ぶ喜びに満ちたものとなることをめざしています。タイにおける既存のモンテッソーリ教育は裕福な人々の特別な教育と歪められていますが、私はすべての子どもに享受されるべきものであると感じ、地域に根ざした保育園を作りたいと強く思いました。

 パヤップ大学でのキャリアを手放すことに抵抗がなかったわけではありません。悩みに悩んだ末、今まで培ってきたものを発展させようと退職。教員経験のある夫の姉を含む仲間を幸いにも得ることができました。

自宅を増築した温かみのある保育園
「やりがい」以上の喜びを感じる毎日

宮原 三保子さん

 園舎は自宅を増築。タイ人を中心とした10人程度の小さな保育園ですが、保護者の方には喜んでいただいています。言葉の発達に遅れがある子も受け入れており、もっと充実したモンテッソーリ環境を整え、個を尊重した保育ができるよう修行の毎日です。

 タイの有機農家の野菜を仕入れて子どもたちと一緒に食事をとっているせいか、今心身ともにとてもすっきりしています。また、恵泉の園芸を思い出しながら、子どもたちと菜園を作る予定です。なにより子どもたちの目の光が喜びの色に変わっていくことを目の当たりにする度に、「やりがい」という言葉を通り越し鳥肌や涙が出てしまいそうになるくらい自分も一緒に喜びを感じる日々です。このような今に導いてくれた"大きな存在"に感謝する日々です。はじめは心配したものの、今では応援し、雑務を手伝ってくれる夫、「お母さんがんばって」と言ってくれる17 歳と11歳の2人の娘、そして常に私の背中を押してくれる日本の家族に心から感謝しています。

― Message to Students ―

与えられたものを勉強し、いい成績を取る教育とは違う扉が開く場所が恵泉です。先生方の力を借り、新しい友達との絆を深める機会を持ってみてください。社会に出たとき、「自分は何者なのか」という自分の方向性がわずかでも見えているのといないのとでは大きく違います。また、どんな活動をしたときに幸せを感じるかということからも自分の使命が見えてくるはずです。ボランティア活動や行事スタッフなどに積極的に参加するといいと思います。