日本のODA(政府開発援助または公的開発援助)に30年近く携わってきて、たどり着いた疑問が、なぜ援助が必要なのかです。ここには、誰のための・どのような援助が必要なのかという根源の問題も内包されています。
ODAあるいは国際協力の目的として、貧困の解消は自明のことでしょう。しかし、貧困の根本は、資源(資金、権限、教育など)へのアクセスの制約・欠如でしょう。その制約・欠如の原因になっている社会を変革しないかぎり、何も解決しない。むしろ、今までのODAの「経済発展のためのインフラ整備の支援」といったアプローチでは、整備されたインフラにアクセスできる上層部・中層部は経済発展の益を受けるのでしょうが、貧困層はまったくの置いてきぼり。これでは、さらなる格差の拡大につながることになる。これが、現下の世界中で発生している現象といってよいでしょう。
では、日本のODAで、なぜ「経済発展のためのインフラ整備の支援」といったアプローチが採用されているのか。その背景には、ODAにかかわる幾つかの錯誤があるのではないかという見地から、「ODA再論 幾つかの錯誤」というシリーズを恵泉の紀要に連載し始めています。
平和学研究科 谷本寿男