ジェンダー文化特講

2012年02月10日  報告者:稲本万里子

ジェンダーは、よく切れるナイフに喩えられています。それは、ジェンダーが学問領域ではなく、言語学や文学、歴史学、美術史学など、さまざまな領域のテーマを新しい視点から切り取ることのできる手法のひとつだからです。

私の専門である美術史学では、今までは、作品の様式、すなわちスタイルから、制作者や制作年代を明らかにしていくという研究方法が用いられてきました。これに対して、新しい美術史学では、今まで美術として扱われていなかった漫画、映画、写真、ポスター、チラシなど、ありとあらゆるヴィジュアルなイメージが研究対象になります。そして、ヴィジュアルなイメージは、それを作らせた人の権力や幻想、欲望を反映したものであると考え、イメージから逆に権力や幻想、欲望を読み解くという方法を採ります。そのときに有効なのが、ジェンダーの手法というわけです。

この授業は、日本語教育や平和学など、さまざまな領域の勉強をしている院生が受講しています。まずは、美術史の領域で、ジェンダーの手法を使って、どのような研究がおこなわれているかを紹介したうえで、今度は、受講生にジェンダーの手法を使って、各自の研究テーマを分析してもらいます。今までの発表のなかで、とても面白かったのは、日本語教育コースの院生の発表でした。日本語を教えるときの絵入りのカードには、「行ってきます」と言って家を出るのは男性や子ども、「行ってらっしゃい」と言って送り出すのは妻や母と思われる女性が描かれているというのです。「ただいま」「おかえりなさい」も同じです。女性はいつも家にいて、エプロンをしている、女の子は母親の手伝いをしている、などなど。絵入りのカードには、それを作らせた人の性別役割分業に対する意識が透けて見えるのです。4月からの授業では、新しい受講生がどのような発表をしてくれるのか楽しみです。あなたも、ジェンダーという手法を使って、研究テーマを斬ってみませんか?

※『交差する視線―美術とジェンダー2』(ブリュッケ刊)
美術とジェンダーに関する論文集の第2弾。ここに、「「家族の情景―「伴大納言絵巻」に描かれた妻の役割」という論文を書いています。

『交差する視線―美術とジェンダー2』(ブリュッケ刊)