北イングランドの古都ヨークから西北に約30kmの緑豊かな田園地帯にファウンテンズ修道院とスタッドリー・ロイヤル庭園はあります。浅い谷を流れるスケル川という小さな川に沿って修道院と庭園は造られています。2つの施設は隣接していて、今は323ヘクタールの広さのひとつの庭園に含まれています。ファウンテンズ修道院はイギリス最大の修道院遺跡として、またスタッドリー・ロイヤル庭園はイギリスでは稀な水の庭園として重要な意味を持っており、1986年にイギリスの歴史的施設としてユネスコの世界遺産に登録されました。英語ではFountains Abbey and Studley Royal Water Gardenと書きます。この修道院を含む庭園は、現在はイギリス・ナショナルトラストの所有となっており、年間30万人を超える来訪者があり、トラストが所有する全施設の中で最も訪れる人が多い人気の庭園です。
1.ファウンテンズ修道院
1132年12月に13名の修道士によってこの谷に修道院が開かれました。
始まって20-30年もすると信者達の土地の寄進によって所有地が広がり、経済的にも豊かになって、やがて500人以上の修道士が生活を共にする大規模な修道院に成長していきます。ところがチューダ時代の1539年に発せられたヘンリー8世による大修道院閉鎖令によって閉鎖され、その後改築されることもなく廃墟となって今日に至りました。
大規模な石造りの廃墟は、当時の建物の配置をそのままに残しており、修道士の生活を知る事ができる貴重な遺跡です。特に、教会堂の南に隣接する中庭は修道院の全施設の中心に位置し、当時の修道院における中庭の重要な位置づけを現在に伝えています。今も中庭は全面芝生で覆われ、中央に井戸があるという当時の形が踏襲されています。
2.スタッドリー・ロイヤル庭園
英語の名前にWater Gardenとあるように、庭園は直径50mほどの円形や半円形などの複数の池で構成されています。18世紀の中ごろにエイズルビー家によって風景式庭園として造られましたが、このような水の庭園はイギリスの庭園としては極めて稀なものです。
庭園ができて間もなく、ファウンテンズ修道院も土地とともに購入され、修道院の廃墟は庭園の一部になります。そして、現在もピクチャレスクという言葉で表現される「絵になるような」美しい情景が展開されています。
西村悟郎(園芸文化論)