キューガーデン(イギリス)

2012年01月16日

イギリス人の優れた国民性のひとつに、物を集めて整理し、それを公開するという能力がある。ロンドンにある大英博物館とキューガーデンはその結集といえる。特に、キューガーデンには植物好きなイギリス人でしか成し得ない膨大な資料が蓄積されている。

キューガーデンはロンドンの南西部にあり、地下鉄が都心につながっているので交通の便がよく、年間100万人もの来園者がある。正式にはキューにある王立植物園で、英語ではRoyal Botanic Garden, Kewと書く。広さは132ha。園内は芝生に樹木が茂る風景式庭園となっていて、温室、宿根草展示園、ロックガーデン、バラ園、日本庭園、中国風のパゴダ(塔)などが点在する。また、園内では来訪者のための植物や生態・環境に関する講座も頻繁に開かれ、飽きることない植物に関するテーマパークとなっている。

歴史を見ていくと、キューガーデンは1759年に王室宮殿に附属する植物園として開園した。やがて、1773年にジョージェフ・バンクス(1743-1820)が責任者に就任すると、ジョージ3世の支援を受けてプラントハンターを世界に派遣して各地から植物を集め、それらの園芸・庭園植物、食料、薬用、生活資材としての活用を試みた。バンクスが在任中に集めた新しい植物の数は7000種といわれ、それによってイギリスの植物学、園芸、造園界は活況を呈した。その後、南米からゴムノキやマラリヤの特効薬キニーネの取れるキナノキなどがキューガーデンに持ち込まれ、増殖して植民地であったセイロンやマレー半島で運ばれてプランテーションとして栽培され、イギリスに莫大な利益をもたらした。キューガーデンは世界に広がるイギリスの植民地における植物経営の要となっていった。第二次大戦後、イギリスが植民地を失った後も、世界の植物学の要としての役割を担い続け、植物に関わる情報を世界に発信している。現在園内には40,000種の植物が生育し、700万枚の乾燥標本が収蔵されている。また、遺伝資源保存のために30,855種の植物の種子が保存されている。それらの数は共に世界一である。

キューガーデンはイギリスにおけるその歴史的価値と、さらに人類の植物学の発展に果たした役割が評価され2003年にユネスコ世界遺産に登録された。

西村悟郎(園芸文化論)

パームハウス 1848年に建てられたヴィクトリア朝時代の温室

宿根草見本園 宿根草が植物進化の順番に科ごとに展示されている

日本庭園 丘の上に勅使門が置かれ、麓に枯山水の平庭が広がる

中国風のパゴダ 1762年に建てられた、現存する最も古い建物