知床は、日本では、屋久島、白神山地に次いで3番目に登録された7万1100ヘクタールに及ぶ広大な自然遺産である。流氷による大量のプランクトン、サケ、マスなどの遡上魚、遡上魚を捕食するヒグマ、シマフクロウ、オジロワシ、その他トドなどの海獣やクジラから構成される、対岸のクナシリ島を含めた海と陸の生態系が連鎖する貴重な空間として評価された。それに加え、4番目の小笠原諸島を加えた自然遺産の中でも、知床は独特の条件をもっている。その名前「シレトク(sir-etok)」はアイヌ語で「大地の行き詰まり」を意味し、名所である「カムイワッカ(kamuy-wakka)」の滝も同じく「魔の水」を表している。(この滝の水は、硫黄山から流れる有毒な水で、この場合の「カムイ」は「荒らぶる神=魔」を表している。)つまり、この自然豊かな土地は、もともと先住民族・アイヌ民族の伝統的な領土の一部であるということだ。そして、日本という国家の視点と先住民族の視点は、重要なすれ違いを起こすことがある。