思春期の子どもたちは、けっして荒れているのではない!
2016年05月16日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
5月14日、高大連携の一環として、都内の高校で保護者対象の講演会を行いました。土曜日の午前中でしたが、父親の姿も見られて、多くの保護者が熱心に聴いて下さいました。
テーマは「思春期の子どもの心を理解する」。 「思春期の子どもは扱いにくい!何を考えているのか分からない。不機嫌でロクに口もきかない。進路が心配。 無事大人になってくれるのだろうか...」。思春期の子をもつ親に共通の声です。
今、日本社会は少子化対策もあって子育て支援に注力していますが、その大半は乳幼児の親を対象としたものです。以前、ある新聞社主催の大きな子育てイベントに参加した時、帰り際に一人の母親が私を待ち受けて、ためらいがちに声をかけて下さいました。中学生の娘さんのことで頭を悩ましていて、藁にもすがる思いでこの会に参加したけれど、「今日は乳幼児の親が対象だったんですね。私のように思春期の子のことで悩んでいる親はどこにも行き場がなくて・・・」と、さびしげに語っていた姿が忘れられません。
そんなこともあって、思春期の子どもを持つ保護者にも、機会を見つけてお話させていただいておりますが、最近、親の悩みの闇が深くなっていることを感じることが少なくありません。
「小さい頃は可愛かった。優秀で自慢の子だった。それなのに今は失敗作!」と嘆きと怒りをエスカレートさせる母親もいます。
たしかに思春期の子どもたちは厄介です。でも、けっして親をがっかりさせようとしたり困らせようとしたりしているわけではありません。親にとっては受難に思われるこの時期ですが、子どもたちはそれ以上に苦しい戦いを余儀なくされているのです。子どもから大人になる過程の心と身体のアンバランスさに戸惑い、将来なりたい理想の自分と現実の自分とのギャップに直面して焦燥感と不安感に苛まれるなど、まさに疾風怒濤の季節の真っただ中にいるのです。
聞きわけがないとはいえ、幼少期はそれなりに親の期待通りに子どもは動きます。ですから親もわが子のために良かれと思う教育に全力を傾けることでしょう。思春期になった途端に別人のように変身されれば、裏切られた思いで悲嘆にくれざるを得ない気持ちもわからなくはありません。
しかし、子どもたちはこれからどう生きたらいいのかと迷い、不安や劣等感ゆえに苛立ち、反抗的な態度を取らざるを得ないのです。そんな子どもたちを受け入れ、見守ることが思春期の親に最も大切な心得であり、難しいことではありますが、親の愛情の真価が問われるところだと思います。
さて、保護者を対象とした講演会の後、会場には入れ替わって高校生たちが集まってきて、大学案内の時間となりました。恵泉女学園大学が大切にしている教育の一つである「園芸」では、キャンパスに隣接した教育農場で、農薬や化学肥料を使わない有機園芸を体験し、自分の手で育てた野菜や花を楽しみながら、命を育む大切さと難しさ、自然の力を実感していること。「国際」は欧米だけでなく、タイや韓国・中国などアジアでの長期留学の実体験から学生たちが何を学んでいるのか等について、担当教員がスライドやDVDを活用して説明しました。
中には食い入るように聴き入る生徒もいて、その顔を見ながら、思春期の子どもたちは自分の人生に懸命に向き合おうとしていることを改めて思いました。
こんな経緯もありますので、これからも講演の機会をいただければ喜んで各地の高校へ伺いたいと思っております。