このアンケートは毎年実施しているものですが、「生涯就業力」育成という観点から読むと、学生たちの声に改めて多くの示唆があることに気づかされます。
以下にその一部をご紹介いたします(数値は各項目に対して「かなりあてはまる」と「あてはまる」を合計したものです)。
まず、恵泉女学園大学での生活を振り返って、非常に高い(96.1%)「満足度」が示されています。入学した時には必ずしも第一志望ではない学生も少なくないことが本学の特徴ですが、卒業時点での満足度が高いことは嬉しい結果です。
2016年07月25日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
大学の春学期もいよいよ最終週を迎えました。この4月に学長に就任して以来、私は「恵泉女学園大学は変わります」と宣言してきました。
「恵泉女学園大学は変わります」と言っても、白紙からのスタートではありません。
大学開学以来、積み重ねてきた28年間の実績を基にした改革です。
何よりも、1929年に恵泉女学園を創立した河井道の建学の理念を原点とした改革です。
改革のキーワードは学生に「生涯就業力」を身につけさせることを徹底することです。
「生涯就業力」については、4月30日のこのブログでも触れました。
単なる「就職力」ではなく、生涯に亘って精神的・社会的・経済的な自立を目指して、しなやかに、したたか(強か)に生きる女性の育成です。
女性の人生はけっして単線ではなく、結婚・子育て・介護等々で人生設計を変えることもあります。どんな時でも目標を見失わずに自分を磨き続け、身近な人、地域や社会のために尽くすことに喜びと使命を憶える女性であってほしいとの河井道の女子教育の理念を込めた「生涯就業力」です。
この「生涯就業力」の育成を目指して、全教職員が授業改善と学修支援のあり方について縷々検討を重ね、実行に移しているところですが、恵泉女学園大学の4年間で育てたい「生涯就業力」とは、具体的には「3つの大分類」のもと「10の小分類」と「20の能力・態度」からなります。授業改善チームの取り組みのもとに実施した今年度のシラバスを中山洋司学園長が専門の教育評価の手法で内容分析して編み出したものです。
この中にはこれまでの大学の教育実践の中で既に在学生が修得しているものも当然ある一方、これからの課題を探り、充実していく作業が私たちに課せられているところです。
折しも、IR推進室(Institutional Research:大学に関する様々なデータを分析して、大学執行部の運営を支援する部署)からこの3月に卒業した学生たちに対して大学が実施した卒業前アンケート結果が届けられました(写真)。
このアンケートは毎年実施しているものですが、「生涯就業力」育成という観点から読むと、学生たちの声に改めて多くの示唆があることに気づかされます。
以下にその一部をご紹介いたします(数値は各項目に対して「かなりあてはまる」と「あてはまる」を合計したものです)。
まず、恵泉女学園大学での生活を振り返って、非常に高い(96.1%)「満足度」が示されています。入学した時には必ずしも第一志望ではない学生も少なくないことが本学の特徴ですが、卒業時点での満足度が高いことは嬉しい結果です。
何に満足しているのか、その内容には少人数教育でのきめ細やかな指導が数多くあげられていました(全自由記述218件中91件)。
少人数教育の利点として学生があげていることは、まず学生と教職員の距離の近さです。
本学の少人数教育は単に教員と学生の距離の近さだけではありません。その中から、学生ひとり一人が学ぶ意欲を高め、人生を前向きに生きようとする意欲へとつながっていることです。
恵泉ならではの「生活園芸」を通して、「自然の恵みと生命の大切さに触れた」こと、「海外のフィールドスタディで異文化の歴史や現地の暮らしに触れて視野が広がった」こと、「キャンパスの美しさ」はもとより、「教職員が笑顔で挨拶を交わしてくれて、やさしさが心地よかった」「障がいのある学生も皆でサポートしあう雰囲気がある」「キャンパスがきれいで、落ち着いた環境で勉強がしやすかった」など、環境面の良さをあげている記述も数多くみられました。
「キリスト教」「園芸」「国際」を教育の3つの礎としてきた本学の理念がしっかりと伝わっていることが思われる記述が大半で、本学の教育理念を実現するためにこれまで教職員が注力してきた点を学生がしっかり把握してくれていることを再確認することができました。
この点をさらに強化するためにも、授業改善はもとより、この4月から取り入れた学年担任制をはじめとした学修支援体制等の一層の充実を図っていきたいと思います。
さて、問題は「生涯就業力」を磨くための「恵泉での4年間で身につけたい力」についての自己評価の回答結果です。
大分類Ⅲ<他者と共に歩み、共に生きていける力>に関する自己評価については、
「共感力」(94.7%)・「傾聴力」(93.6%)・「多文化理解力」(92.5%)・「協力性」(90.4%)と、いずれも高い数字が示されています。これは前記の学生たちの満足度とその内容とも合致することと思われます。
それに比べて大分類Ⅰ<基本的知識・理解・技能>とⅡ<現状を把握し、たくましく解決し続ける力>に関する自己評価が相対的に低くなっています。
「一般的な教養」(89.4%)・「専門的知識」(87.6%)・「自己表現力」(79.9%)・「情報収集・分析力」(78.8%)・「論理的思考力」(77.1%)・「多角的・批判的思考力」(76.6%)・「問題発見力」(75.9%)です。
本学は人文・社会学領域の教養教育を旨とする大学です。人文・社会学の学びから得た力の把握・評価は理数系の学びと比べると成果が見えにくい点も多いのですが、社会の営みにとってその重要性は理数系の学びに比べて勝るとも劣らないものがあると考えております。それだけに学生本人にも自覚できる形での学びの支援のあり方を再検討することが必要であることを考えさせられる結果です。
今回のアンケート結果を読んで、最も留意しなくてはならないと思うのは、「不満」と答えた3.9%の学生の回答です。
不満点として「都心から遠いという立地上の問題」「知名度の低さ」に加えて、一部、「教員の教授内容や事務職員の対応への不満」も記述されていました。
「都心から遠い」という交通アクセスに不満を持つ学生の声に対しては、それと引き換えにできるだけの「学びの充実感」を持てるよう、一層の授業改善・学修支援に力を注ぎたいと思います。豊かな自然環境の中で学べる恵みを感謝する学生の声が多数ではありますが、その声だけに満足していてはならないということです。
教職員の対応についても同様です。多くの学生が教職員の対応の丁寧さと親切さ・やさしさに満足して感謝の声を届けている一方で、不満に思う声があったことは、人間関係の常とはいえ、教育機関としては一人でも不満に思う学生がいなくなるよう、真摯に耳を傾け、謙虚に反省して改善していきたいと思います。
知名度の低さについては、学長として心痛むところですが、「あなたがたひとり一人が広告塔とおなりなさい」と言われた河井道先生のお言葉を改めて学生と共に噛みしめて行きたいと思います。
最後に自由記述のなかに「大学内に居場所がなかった」と書かれた回答がありました。96.1%が満足と回答している中で、居場所がないとの思いを抱きながら過ごした学生の孤独を思うとき、一人でもそうした思いで大学を卒業させてはいけなかったと、胸痛む思いです。
なお、今回の卒業生アンケートは「記名式(学籍番号による)」での回答で、回収率91.3%でした。
4年間を振り返って、学籍番号を記載して大学に残してくれた卒業生の声をしっかりと心に憶えて、秋学期以降も大学改革に邁進してまいります。
今後とも恵泉女学園大学を見守っていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
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