全日程が終了した夜、世界女性大学学長会議委員長の要請で急遽、「世界女性リーダードキュメンタリー」制作チームのビデオインタビューを受けました。予定外のスケジュールでしたが、ホテル内に設けられたインタビュールームで受けた質問は次の2つでした。
台湾世新大学60周年記念行事に参加して
2016年10月24日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
10月13日~16日まで、台湾の世新大学60周年記念に招待され、李泳采国際交流委員長と共に、式典・祝賀晩餐会等に出席してきました。
世新大学とは
世新大学の創立者は中国出身の著名なジャーナリスト成舎我氏。1956年の戒厳令時代に弾圧された言論人を中心に設立された大学で、新聞コミュニケーション学部をはじめとして、台湾でメディア・ジャーナリスト関係の研究を代表する大学です。また台湾の大学で初めてジェンダー学と女性研究センターを設置した大学で、ジェンダー研究でも著名な大学です。
交換学生派遣のための協定締結
台湾では「60」という数字は還暦という意味もあって特別な意味があるとのことです。世界28か国から72の大学が招待され、式典も晩餐会も500名から1000名規模で催された大祭典でした。
恵泉女学園大学と世新大学は、これまで平和学に関心を持つ高等教育機関のアジアネットワーク構築に向けて、世新大学の社会発展研究所(大学院)と本学の大学院平和学研究科との間で交流を積み重ねてきてきました。それもあっての招待だったかと思いますが、大変手厚い待遇で迎えていただけました。
こうした両大学間の交流の実績を基に、交換学生制度(1年間)のための協定を締結することが今回の台湾訪問の大きな目的の一つでしたが、無事、世新大学総長と共に協定書調印を行うことができました。世新大学には日本留学への熱い思いを抱く学生がたくさんいますので、来年からの交換学生の交流を楽しみにしたいと思います。
世新大学総長・左端は本学の李国際交流委員長
協定書調印式
世界女性学長会議に出席。インタビュー取材にも応えて
60周年記念イベントでは「第7回世界女性学長会議」の開催にも力が尽くされていました。フォーラムと共に女性学長の茶話会等も持たれ、私も各国の女性学長との交流を楽しむことができました。
第7回世界女性学長会議
女性学長懇親会(世新元総長・CSU学長と共に)
女性学長懇親会(フィンランド・ルーマニアの学長たちと)
- 日本は世界的にみて、特にアジアの中では女子の高等教育先進国であるにもかかわらず、なぜ女性の社会参画率がかほどに低いのか?高等教育を受けてなお、なぜ専業主婦になりたがる女性が日本には多いのか?
- 日本の女子の大学教育はかつてと今と比べて、どのような違いがあり、それに向けてどのような課題があると考えているのか?
日本の女性活躍の現状と課題、そこに果たす女子高等教育の役割に関わる厳しくも的確な質問と思われました。1.2.は相互に関連していますので、私は次のように答えました。
- 日本の女性たちは皆が皆、専業主婦志向ではなく、むしろ二極化しているのが実態。大学での学びを活かして社会の一線で活躍すべく頑張っている女性も増えている。しかし、他方では確かに専業主婦志向の女性が少なくないことも事実。そこには日本女性の多くが直面している生きにくさがある。結婚・子育て・介護等々、夫や家族の都合にあわせる形で人生設計を変えざるを得ない女性が依然として大半。いわゆる他の先進国には殆どみられないM字型労働力曲線は近年、やや改善傾向にあるとはいえ、その実態は大きく変わっていない。保育施策やワークライフバランスの一層の推進が必要。
- かつて女性の大学進学率(特に4年生大学)が一桁台であった頃に比べて、今は50パーセント前後の女性が進学する時代(短大57.1、4年制48.2/2016)。大学はもはや社会の中枢部で活躍する一部のエリートを対象とした教育ではなくなっている。さらにはAIなどの技術革新による社会環境の激変等により、近未来の労働市場の変化も予測されている。単にM字型労働曲線の改善で済む問題ではない。働く者は一生の間でいくつもの異なる分野で異なる能力を発揮することが求められるという歴史上初めての現象に直面するであろう。こうした社会変化によって転職という岐路に立たされ、その都度、職務遂行に必要な特定の知識・技能の追加修得が必要となる。岐路に立って臆することなく挑戦する志向性とそれを支える動機・価値観・信念、さらには周囲の支援を獲得する積極性・協調性の修得が今以上に求められる時代になる。
前例のない人生設計が必要となることは男女を問わないことであろうが、しかし、これは女性にとってけっしてマイナスとは限らない。むしろ、従来、単線的な人生を保障されることのなかった女性にとってポジティブな人生を手中にする好機でもある。そのためにも生涯にわたってどんな時でも生きる目標を見失わず自分を磨き続け、身近な人に尽くし、社会のために生きることに喜びを見いだせる力の発揮が求められているのである。大学はその基礎力を養わせる役割と使命を担うことになる。それこそが、今、恵泉女学園大学が取り組んでいる「生涯就業力」である。
インタビューアーに対して以上のように答えましたが、11月5日に予定されている大学祭でのシンポジウム『「女性の「生涯就業力」と高等教育の新たな役割』では、この話題がシンポジストによってさらに深められることを期待しております。
なお、このビデオインタビューは今後2年間の内に制作が進められ、世界各国に発信されるとのことです。