学長Blog★対談シリーズVol.1 この方と『生涯就業力』を語る

2017年01月09日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

私が学長に就任した昨春より恵泉女学園大学は「生涯就業力を磨く」をモットーに在学生、卒業生を対象に生涯就業力プロジェクトを推進しています。2017年から各界でご活躍されているさまざまな方をゲストにお招きして、「生涯就業力」をテーマにご意見をうかがってまいります。初回は元富士フイルム社長・副会長を経て現在、恵泉女学園の理事長でいらっしゃる宗雪雅幸先生です。

■第1回ゲスト 恵泉女学園理事長 宗雪雅幸先生

京都大学経済学部卒業後、富士写真フイルム(現:富士フイルム)入社、その後社長を務める。2009年7月より学校法人恵泉女学園理事長。

WHY?を考えられる人を育てる。

---宗雪理事長は90年代に富士フイルムで「写ルンです」というリサイクル可能なレンズ付きカメラを大ヒットさせた経営者でいらっしゃいますが、入社後のご経歴を教えてくださいますか?

1959年、日本が高度経済成長期に突入する時代に社会人となりました。入社したものの富士写真フイルム(現:富士フイルム)という会社のことを実は何も知りませんでした。初めは業務という職種で生産手配の仕事を3年ほど、それから営業畑をメインに歩み、販売会社の経営者を7年、その後に富士フイルムの社長を務めました。その間、お客様の声に直接触れて何をすべきかを考える機会を頂きました。一世風靡したカセットテープの「AXIA」というブランドや、リサイクル可能なレンズ付きカメラ「写ルンです」のヒットの後に、デジタルメディアへの大きな転換期を迎えました。

---お仕事ではどのようなことを心がけていらしたのでしょうか?

言いつけられたことだけをするのでなく、なぜこういうルールになっているのだろう?と自分なりに解釈し理解すること。それならこう変えたほうがいいのでは?と得た知識から考えることなど発見ばかりの時間で、その土台は大学時代に培ったものでした。会社で働くというより、何かの仕事をしていくことが人生。5W1Hの中でもいちばん大切なのはWHY?です。WHY?を考えられる教育をするのが、大学の役目だと思います。

社会で時代に揉まれながら真の勉強を

---大学で勉強された専門分野は、入社されてから活かされましたか?

京都大学経済学部で経済原論をはじめカール・マルクスなども勉強しましたが、それはあくまでも入門編。社会人は学者ではありませんから。ひとつ役立ったことは、ゼミで明治時代を築いた立役者のお一人「東洋紡の創設者・山辺丈夫氏」についての卒論を書きあげたことですね。図書館で資料を調べたり、関係者に取材に行って話を聞いたりしながら、世の中の実態を見た気がしました。

---いちばんご苦労されたことは何でしょう?

売り上げが達成できないことで、チャレンジし続ける苦労はありました。私たちは何をすべきか?を常に模索しながら進んでいましたね。歴史的にはKodak社との裁判で負けなかったことです。一つひとつ彼らが主張していることを紐解くとアンフェアなことを言っているのはむしろ先方でした。一言一句漏らさず彼らの主張は全部目を通して、私たちの考え方を示す大切なポイントとして取り組みました。当時、世の中に出始めたインターネットに膨大な反論書類データを公開するとものすごく反響があり、風向きが変わったのです。昭和から平成に年号が変わった、ちょうど時代の過渡期でした。

理解するだけでなく、意見できる力を

---昨今、女性の「活躍促進」という言葉がよく言われていますが、現実の女性たちの状況を見て、「活躍促進」とはなにか?と疑問に思うことが少なくありません。華やかなスポットを浴びる生き方も良いでしょう。でも、それだけではない。また男性並みに効率的に合理的に働くことだけが地位向上でもないと思います。地味なところであっても与えられた課題に真摯に向き合い自分らしく生きる、身近な人や社会に尽くす心を常に持ち続けることを大切にした教育をしたいと思います。河井道先生は『どこでもなくてはならない人におなりなさい。皆が踏みならした道を行くことに満足してはならない』とおっしゃっていました。効率第一主義に乗せられてしまうのではなく、人としての在り方の原点を考えながらその人らしく輝ける、そのような教育こそが今、女性に求められているのだと思います。それが恵泉ブランド「生涯就業力」に託す想いです。

その通りだと思います。私は理事長になって8年目ですが、娘と孫が恵泉女学園に通っていた縁があり関わりが始まりました。創設者である河井道先生による「建学の精神」が素晴らしい学校です。謙遜、勇気、正直。これを教育の基本に据えている。学ぶという知識を求める貪欲さ。自然を求める心。先生方も皆さん、誠実で、すばらしい方々ばかりですね。

---今、中高は偏差値でランク付けされ、大学は就職率で位置付けされる時代になっています。でも、恵泉女学園大学が目指す教育とはそれとは一線を画すものです。地域にしっかり根を下ろし、さまざまな人々と関わり、違いを認めつつもそれを尊重して、社会を豊かに出来る人の育成です。言い換えれば、真の社会人として生きる力でしょうか。ところで宗雪理事長は日頃から「社会人基礎力」について語っていらっしゃいますが、その意味を教えて頂けますか?

「社会人基礎力」というのは、学力偏差値だけでなく、心の生き方を示唆しています。社会で一番大切なのは、問題点を見出し、変えていこうとする姿勢と解決できる能力。それには理解だけでなく、意見できる力が必要です。言われたことだけをやるのでは、「生涯就業力」にはなりません。今取り組んでいる仕事は一体どういうものなのか?なぜ壁に突き当たっているのだろう?どこをどうしたらいいのだろう?と考えること。ですから、学校でも授業に対する理解だけでなく意見を引っ張り出してほしいですね。

聖書でも掲げられている社会人基礎力

---自分の考えや思いを人に伝えるという大切さは本当にその通りだと思いますが、若い学生にとって、マンモス大学でそれをするのはなかなか難しいのではないでしょうか。少人数教育を大切にしている恵泉だからこそ、そうした力を養う場が随所にあると思います。
それでは、社会人になってから、特に会社で必要とされる社会人基礎力は具体的にどのようなものでしょうか?

礼儀、正直、正確、提案...この4つが基本です。礼儀は挨拶も含めます。それが人のために行うことであっても結局自分に返ることです。河井道先生も「YesとNoをハッキリ言えること。正直であれ」とおっしゃっています。仕事は早く正確に。そして、現状をより良く変えることができる人です。実はこれ、聖書にも同じようなことが書かれています。企業も、学校も、人の道です。

---最後に、恵泉女学園大学の学生にメッセージをお願いできますか。

さきほど申し上げました4つの基本的なことを守っていれば、時間は掛かることはあるとしても、必ず世に出て輝く人となるはずです。世の中のためであることを続けていけば信用されますし、それは自分のためにもなるでしょう。恵泉女学園大学の学生は十分社会に通用する力を持っています。昨今、企業の集団面接などでは人より前に出て自分をアピールするような積極性が評価されると考える学生もいるようですが、必ずしもそうとは限らない。伝えたい自分の意見をしっかり持っている人であれば、たとえ控えめであったとしても、その魅力はにじみ出て、その人となりは必ず伝わります。素直で真面目な学生こそ恵泉の財産です。社会に出て失敗を乗り越え、数々の修羅場をくぐることが大切。そうしているうちに、徐々に人として磨かれていくことでしょう。生涯をかけて人は成長し続ける、その基本となる力を恵泉でしっかり身につけてほしいと願っています。

---企業人として厳しい世界を豊かに生きていらした宗雪理事長に恵泉の学生の魅力を評価していただけたことは、とても嬉しいことです。学生たちの胸にもきっと深く響くことと思います。どこにあっても、何があっても、めげずに、ひたむきに努力を続けていける女性を育てていける大学でありたいと思います。今日はどうもありがとうございました。