学生はいろいろな所で、いろいろな人に育てられている
2018年06月25日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
"学生はいろいろな所で、いろいろな人に育てていただいている!"
6月10日に開催したオープンキャンパスの冒頭、チャペルでの学生礼拝で英語コミュニケーション学科3年の高橋朱憂さんの感話を聞いて思ったことです。
2011年3月11日の東日本大震災のとき、高橋さんは中学1年生。岩手県大船渡市で曾祖父の代から続いている和菓子屋の3人きょうだいの末っ子。透き通った海と緑いっぱいの自然に恵まれて暮らしていた生活を瞬時に奪われた彼女の胸中は想像するに余りあります。
不自由な仮設住宅暮らしの中で不安な日々を送っていた高橋さんを変えたのが、2週間のアメリカ留学。"被災地の高校生にアメリカで異文化交流の機会を与え、将来の夢をひろげてもらいたい"という日本コカ・コーラ株式会社のプログラムを見つけて、参加を薦めてくれたのがお母様。皆がまだ元の生活に戻れずに苦しんでいるのに自分だけ海外に行くことへのためらいと葛藤があったとのことです。でも、勇気を奮って参加した高橋さんを迎えたくれたアメリカ文化の明るさとスケールの大きさ、とりわけホストファミリーの方々の懸命なおもてなしにどれほど励まされたことでしょう。
ただ、お世話になった方々へ感謝の思いを伝えたくても、当時の高橋さんの英語力ではそれが十分できないことが、とてももどかしかったそうです。
留学制度が充実して、少人数でじっくり英語を学べる恵泉女学園大学に入学して、英語力を身につけてご恩返しをしたい、これが本学への入学を決めた大きな動機だったということでした。
恵泉に入学した高橋さんは1年生と2年生のとき、春休み期間を活用して5週間のフィリピン語学研修に参加。また昨年はマレーシアでの海外インターンシップに参加。
英語の勉強はもちろんですが、現地の人々とふれあい、文化の違いや共通点を学び合ったり、英語を使った仕事に挑戦したりするなど、貴重な経験を積み重ねています。
こうした経験の一つひとつが、キャンパスでの「聖書」「国際」「園芸」の学びの意義をさらに深く実感することへとつながっているという話を私はとても嬉しく聴きました。
"どんな状況でも、目の前で苦しんでいる人がいれば手を差し伸べて愛を貫く大切さ"を知る「聖書」の学び、"女性というだけで学ぶことも正規労働につく機会も許されず、子どもたちが戦争に駆り立てられている国。日々生きることだけで精一杯な窮乏にあえぐ人々"等々への思いと解決の必要性を考える「国際」の学び、"自分の畑をもち、自分の手で野菜を育てる責任感と食べ物の大切さ"を身をもって学べる「園芸」の重要性。
こうした恵泉の学びの礎の意義への理解をさらに深めたのも、海外留学の経験だったと語っていました。
目の前から大切な人も物も自然も一瞬にして消えた3.11。将来の夢も希望も押し流されたであろう高橋さんが今、私の目の前で学生生活の喜びを語り、将来への夢に瞳を輝かしている姿に、奇跡を見る思いでした。若い人の可塑性のすばらしさ。そして、その力を引き出してくれたご家族や支援をしてくれた企業、海外の地の人々のお力添えがどんなに大きいものであったか、これまで自分を支えてくれた人々への感謝の思いを語る高橋さんの言葉の端々から伝わってきました。
最後に高橋さんは、オープンキャンパスに参加した高校生に向けて、次のようなメッセージで感話を結びました。
高校生の皆さんも部活動や勉強をはじめつらいことや大変なことがたくさんあると思いますが、その壁を乗り越えられるきっかけや仲間が与えられるはずです。未来には希望があることを信じて、目の前の出会いを大切にしていってください。
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