女性の生き方・母娘関係を考えたここ数日
2018年10月22日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
一昨日の土曜日に開催された「恵泉×梨花 日韓国際シンポジウム」はたくさんの方にご来場いただき大盛況の内に終えることができました。セッション報告や写真の準備等が整い次第、追ってご報告させていただきます。
本日はそれに先立って、この1~2週間余りの間の私自身の仕事について、4つほどご報告いたします。いずれも女性の生き方や母娘関係について考えたことでした。
まず1つは、高大連携事業の一つとして、佼成学園女子高等学校での講演です。
テーマは「女性の美しさ~女性活躍時代にしなやかに凛として生きるために~」。
50名ほどの女子高校生の皆さんが笑顔いっぱいで迎えてくれました。はじめに「皆さんは、どんな人生を送りたいですか?」と尋ねてみました。一人の生徒さんが小首を傾けながらも「この先、うれしいことばかりではなくて、つらいこと、大変なこともたくさんあると思うけど、ちゃんと生活していきたいです」としっかり応えてくれました。
"ちゃんと生活していきたい"。
地味に聞こえますが、とても大切な、そして素敵な言葉だと思いました。
高校の授業は通常50分のところ90分連続での講演でしたが、皆、うなずきながら懸命にメモをとったり、私の投げかけた問いに溌剌と応え、ときには屈託のない明るい笑い声をあげたり。最後の質疑応答の時間になると次々と手が挙って、とても積極的な生徒の皆さんでした。その中にこんな質問がありました。「私たちは、"自分らしく・自分らしく"とよく言われますが、先生にとって"自分らしい"とはどういうことですか?」。
鋭い質問でした。「たしか私も講演中に幾度か自分らしくという言葉を使いましたね。でも改めて私にとって、その中身を尋ねられると、お答えに窮します。ごめんなさい。自分らしいということは、皆さんの何倍も生きてなお、実はわからないのです。明確にお答えしにくいですね。ただ一つ言えることは、いつも、今していることは、自分に合っているか、自分に正直に生きているのかと考え続けていることでしょうか。これこれが私ですとは言えないからこそ、一生、その答えを探して、悩みながら、迷いながら生きているというのが、正直な答えです」。
2つ目は、この自分らしさと関連したことです。NHKすくすく子育ての収録がありました。テーマは「私の子育て これでいい?」。いつもは家族や赤ちゃん、小さな子どもたちも一緒のフロアーでのにぎやかな収録ですが、この日は二人のMCとゲストだけでじっくりゆっくり語り合うという企画でした。それだけこのテーマについて、悩んでいる親が多いということなのでしょう。メールやVTRで紹介される若い母親たちの声は、おしなべて理想の子育て・親像とのギャップに悩む声でした。1時間余り語り合っていた最後の質問が、「なかなか自信が持てない中、ママたちはどう自分を保っていったらいいですか?」。
私自身の子育てを振り返りながら、前述の高大連携講演での生徒さんへの答えと同じようなことをお答えしたところ、それを聞いたMCの女性の方が、「とても救われました。ほっとしました」と声を詰まらせ涙ぐんでしまわれたのです。
女子高校生も、子育てしながらMCとして活躍している女性タレントさんも、自分らしく生きることを探し続け、考えあぐね、ときに苦しい思いをしながら、それでも懸命に生きようとしている姿が、とても美しく見えました。
こうした若い世代を年配世代や親世代がどう受け止めていくかが、大切な課題かと思っていたところ、奇しくもそれと関連する内容のインタビューを読売新聞社から受けました。
3つ目はこの新聞取材でのことですが、内容は「今、母娘関係がいろいろと話題になっている、それはなぜなのかと分析してほしい」ということでした。
たしかに、進学・就職・結婚・育児の細部にまで過干渉する母親とそれに苦しむ娘の葛藤などが、近年、人生相談や育児相談に増えています。かつて女性の葛藤といえば嫁姑問題が定番でしたが、最近は実の母娘関係に問題が山積しています。
しかし、これは見方を変えれば、それだけ女性たちが生き方を迷う余地ができたということではないでしょうか。これまでは結婚と子育ての路線しかなかった女性たちが、自分らしい目標をもって生きようとし始めているからこそ起きる世代間の衝突とも言えます。
前述の高校生やテレビ収録の若い女性MCがそうであったように、自分の人生に正面から向き合おうとしている若い世代。その女性たちをどこまで理解し、応援できるかが、母親世代に問われる時代を迎えているのだと思います。
4つ目は、そうした母親世代を対象とした講演会でした。これも高大連携の一環として、恵泉中学の保護者会でお話をする機会をいただきました。演題は「娘の人生と母の愛と~共に"生涯就業力"をめざして~」。娘は母親にとって、同性ゆえの近しさもあって、自分自身の生き方を託すほどに愛情も葛藤も深まりがちです。恵泉に大切なお嬢様を託して下さったお母様方が聴衆であるだけに、私も二人の娘の母としての経験などを交えながら率直な思いを語らせていただきました。
講演の後に何人かのお母様方が私の元を訪ねてくださり、講演の感想や質問など、それぞれの思いを語ってくださったことも、嬉しいひと時でした。
中学生といえば、気難しくなる思春期の真っ最中。一人のお母様がこんなことを言っておられました。「私は娘にあまり立派なことが言えません。娘を想う余りに言い過ぎたりして、ダメな母親をさらけ出すこともしょっちゅうです。でも、娘が大事です。娘の幸せをいつも神様に託して祈っています」と。
この方はクリスチャンでいらっしゃるとのことですが、娘の幸せを常に願いつつ、娘がどのように生きるか、そのキャスティング・ボードは自分では握らないというお話に共鳴する思いです。娘世代が自分らしい人生を生きるために、母親世代ができる最大の応援歌とも思います。もう一人のお母様は「私は自分自身の生き方をしっかり見つめてみたいと思いました。それが母親として、娘が娘らしく生きることを受け入れる道につながるということを考えさせられました」。
女性の生き方も母娘関係も、新たな地平を迎えていることを確かめられたようなこの数日間でした。