「恵泉×梨花 国際シンポジウム」報告
2018年10月29日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
10月20日、秋晴れに恵まれて自然の豊かさがひときわ輝いた多摩キャンパスに、各方面からたくさんの方々をお迎えして、本学と梨花女子大学の協定締結記念シンポジウムを無事、盛況のうちに終えることができました。感謝と共にここにご報告いたします。
Ⅰ)本シンポジウム「女性活躍の時代の新しいリーダーシップとは」の企画の趣旨と開催に至る経緯について、ここに改めて記させていただきます。
これまで本学は過去三回にわたって、「これからの時代の女性の生き方とそこに果たすべき女子大学の役割について」、梨花女子大学の方々を中心に関係者をお招きして議論を重ねてきました。*
折しも女性活躍が求められつつもその実現には多くの課題が山積している一方、世界的規模で未曾有の変動が予想されている今日です。そうした時代であればこそ、きたるべき社会のあり方を精査し、そこで真に貢献できる女性の活躍とはいかにあるべきか、そこに果たすべき女子大の使命とは何かを考えてまいりましたが、今回の国際シンポジウムはその集大成ともいうべきものでした。
2)本シンポジウムは恵泉と梨花の新たな女性活躍とそのための女子教育に向けた挑戦
本学は、これからの時代を生きる女性に必要な力として「生涯就業力」育成に注力していることは、繰り返し本ブログでも書かせていただております。
豊かな教養教育に基づいて、①予測不能な未来社会にあっても、現状を正確に把握し、岐路に立って臆することなく、課題解決に向かって挑戦する力、②そしてそれを支える「動機」「知識」「理解」「技能」を磨く力、③しかも、それを自分ひとりではなく、他者と共に歩み、共に生きる力として発揮する力...としての「生涯就業力」は、平和構築に尽くす自立した女性の育成をめざした創立者河井道の女子教育の理念でもあります。1929年の学園創立以来、90年余り一貫した女子教育の歴史を受け継ぎ、これからの時代に即して新たな歴史を創ろうという挑戦です。
しかし、これは一大学でできることではありません。恵泉の「生涯就業力」を世界に発信し、共有されてこそ 真の女性活躍の時代を実現できることを心から願っております。
一方、これまでシンポジウムを重ねてきた梨花女子大学は、女子教育一筋に130年以上の歴史を積み重ね、壮大な設備と教育システムを誇る世界屈指の女子大です。しかし、私が何より深い感銘と敬意を覚えるのは、そうした歴史に甘んじることなく、これからの時代に即した新たな女性活躍のあり方を常に模索実践しておられることです。
これまで世界を牽引するあまたの女性リーダーを育成排出してきた梨花女子大が、従来の競争的リーダーではなく、分かち合いのリーダー育成の重要性に着眼し、恵泉の「生涯就業力」の理念に多大な共感を持っていただいたことが、今回のシンポジウム開催に至った経緯でした。
国も文化も規模も異なる二つの女子大学ですが、これからの時代を担う女性の育成のあり方を今一度見つめ、それぞれが大切に培ってきた理念と熱い思いをさらに磨き、女子教育実践のあり方を世に訴えるべき時が今であると考えての国際シンポジウム開催でしたが、梨花女子大の現職総長をお迎えし、共にこれからの時代を生きる新たな女性活躍の姿とそこに果たすべき女子大の使命と意義について深い議論ができたことは、大きな喜びでした。
両名の基調講演のタイトルと当日のレジュメは次の通りです。
基調講演Ⅰ
大日向雅美 女性活躍時代における女子大学の使命と「生涯就業力」育成
基調講演Ⅱ
金恵淑 21世紀における女子大学のあり方:二重戦略から両面戦略へ
通訳 李泳采 本学大学院平和学研究科長
*当日配布資料:大日向学長基調講演資料(PDF) 金総長基調講演資料(PDF)
3)協定締結の調印とプレス発表を行いました。
基調講演に先だって、恵泉と梨花の大学間の本協定と具体的な学術協定を平和文化研究所(恵泉)とアジア女性学センター(梨花)とで行いました。
調印式は、恵泉女学園大学学長と梨花女子大学総長の間で本協定を、本学平和文化研究所:上村英明所長と梨花アジア女性学センター:鄭智泳所長との間で、学術協定を執り行いました。
本協定の調印式には、本学園の宗雪雅幸理事長と中山洋司学園長も出席し、記念品の交換を行いました。
プレス発表には多くのメディアの方が関心をもって集まってくださいました。
その模様は読売・毎日・東京新聞等で掲載していただいております
4)テーマ別セッション報告
基調講演に先だって、午前中は3つのセッションに分かれて、女子教育のあり方を現場実践に基づいてご議論をいただきました。いずれも時間が足りないほどに充実した議論が展開された模様です。その詳細は追ってウェブ上に報告を掲載いたします。ここでは各セッションのコーディネーターからの概要報告のご紹介とさせていただきます。
セッション1
「生活園芸から学ぶ分かち合い~いのちを育み、多様なものとの共生・循環を体感する教育~」(コーディネーター 本学 社会園芸学科教授 澤登早苗)
報告1 | 「アジア学院でのEnglish Campを通じて考えたこと」 植田明日香・渡邉文乃・後藤茉里(Keisen Global Challenge Program Students) |
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コメント | 「なぜ、英語と生活園芸とのコラボが可能なのか?」 Germain Mesureur 本学准教授 |
報告2 | 「My life story~恵泉での学びが今の私をつくっている」 小野田(大浦)志保 本学卒業生・社会福祉士 |
報告3 | 「今、求められる!食、農、環境をつなぐ学びとしての有機園芸・農業」 高橋宏通(パルシステム生活協同組合連合会 常務執行役員) |
まとめ 澤登早苗
本学で実践している有機園芸をベースとした生活園芸は自己肯定感を高め、人間力を高める、すなわち個の成長を促すための基礎教育であるが、そこでは「母のような気持ちになった」とか「生産者の気持ちがわかるようになった」など、「〇○のような気持ちになる」体験ができることから、それが社会や他者への関心を抱かせる契機となっていること。その経験こそが、分かち合いの精神を学ぶことであるといえる。現代社会における多くの課題は、競争社会の中で、人と人との関係が希薄となっていることに起因することから、当事者に寄り添い思いを共有することができれば、人と人との関係が改善され、問題解決につながる。その際に人と人をつなぐためのツールとして園芸を用いることができ、恵泉ではこのような取り組みを社会園芸と呼んでいる。自然との距離が近いアジアの人びと、そして命を育くむことが出来る女性は、分かち合いの精神を学ぶことが得意であり、その思いを持続可能な社会をつくっていくために活用できるという思いを新たにした。
セッション2
新しい時代の、平和への女性のリーダーシップ~「平和のエリート」を作らない市民社会教育 コーディネーター 本学 国際社会学科教授上村英明)
コーディネーターからの事前説明(上村英明)
報告1 | 山本保代 多摩市平和・人権課長/TAMA女性センター長 多摩市の平和・人権・女性行政と平和事業・恵泉を含む大学との協力事業:関戸地球大学院、ICAN支援キャンペーンほか |
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報告2 | 森山浩二 元恵泉中学高等学校教員・日韓青年友和の会代表・河井道の恵泉女学園創立のヴィジョン・平和教育の今後とその課題:悪しき社会の流れに抗して、市民として生きる ほか |
報告3 | 畑江奈つ希 本学卒業生・ブリッジ・フォー・ピース理事・高校教員 恵泉での平和の学び・教育の現場の状況。平和教育の現状と新たな課題 ほか |
まとめ 上村英明
日本の平和教育を取り巻く環境の変化、その中での「恵泉の平和教育」の特徴(恵泉平和四原則など)を基にフロアーと共に議論を展開し、以下の点が確認された。
- すべての人が平和についての基礎的見識をもつ平和教育が重要であり、自分の意見を持ったり、表明したりすることがますます難しくなってきた現代社会では極めて大きな役割をもっている。とくに、平和教育は体系的に行われるべきである。
- 平和教育は、激動する社会に対応する形で生涯に亘って必要な教育であり、その実施のためには、中学高校-大学-自治体などの協力、学校教育と社会教育の協力などが不可欠とされる。
- 平和教育は単に戦争を知り、それに学ぶだけではなく、現代社会の問題に向き合い、これを変革する力を育てるものであり、そのためには現場を訪れ、現場とつながる教育が必要であり、同時に自立した市民を育てる市民社会教育が含まれる必要がある。フロアーからは平和教育を受けたことがない、恵泉の教育は素晴らしいとの感想も寄せられた。
セッション3
「分かち合いのリーダー」を育てる高等教育とは~高大連携の取り組みからみる女子教育の可能性と課題~ コーディネーター 本学国際社会学科教授 高橋清貴
はじめに「背景と趣旨」
報告1 | 「大学生活から得たもの」 タイ長期フィールドスタディ体験学習FSがもたらしたもの 高橋由佳(本学卒業生) |
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報告2 | 「高大連携の現状と課題」 宍戸崇哲(佼成学園女子高等学校校長) |
報告3 | 「"恵泉での学び"を通してのこれまでの私」 亀谷美緒(本学卒業生) |
まとめ 高橋清貴
佼成学園女子高等学校との高大連携に際して本学が提供している「体験学習」の特性と独自性は「専門性をもった教養教育」にあることを確認し、そのうえで今後の高大連携に必要なこととして、以下の点が議論されました。
- 「北タイ山岳民族の村での体験学習」という希有な教育リソースの提供という形での高大連携は大きな成果と実績を導いてきた。今後もこれを継続、発展させていくが、恵泉の学生が行っている村での長期滞在という「豊かな学び」の機会を、これからの時代に必要とされる教育に結びつくように、包括的かつ多元的に見直し、成果を可視化する研究に取り組む必要がある。
- 女子高と女子大が連携する意義として、いまだ女性に対する差別意識が根強いアジアにおいて女子高等教育機関が果たす責任と役割を実践的かつ実証的に検討する必要がある。これを今後、佼成や梨花女子大の協力を得ながら進めていけるのではないか。
- 教育機関の連携は、高大に留めることなく、初等から成人教育まで幅広く地域をベースとして拡大する必要がある。そうすることで、少子高齢社会で求められる新たな教育の形が提案できるのではなかろうか。また、そうした教育ネットワークの形成は、小さいが特色ある恵泉のような大学こそ追求すべきであろう。
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