私の考える「生涯就業力」~1~
2019年02月18日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
「生涯就業力」は私が学長に就任した3年前から、本学の新たな教育理念として打ち出しているものです。女性活躍時代に女性たちが真に活躍できる力の育成として「生涯就業力」を磨くことが女子大の使命と考え、そこに注力していることは、これまで本ブログで綴り、またそのためのさまざまな取り組みについてもご紹介してきました。3年近くを経て、それでは教職員や学生たちが「生涯就業力」をどうとらえているのか、恵泉の多摩キャンパスに集う一人ひとりが、自分たちの言葉で語り、共に考えていきたいと思います。
題して、私の考える「生涯就業力」のシリーズをスタートします。
まず初回は、学長室のメンバーたちに、語ってもらいました。
【中山洋司】(学園長)
趣味は、自家製野菜を栽培し食卓に盛ること
生涯就業力とは、「我の生涯をたくましく生き抜く術」ではなかろうかと思っている。そのためには、様々な力を磨き育てていかねばならない。
第一に、生きていく上に必要な基礎力(知識・理解・技能・態度)を身に付け磨き育て続けることである。
第二に、現状を把握し、たくましく解決し続ける力 (問題解決力・思考力・実行力・伝える力等)を身に付け磨き育て続けることである。
第三に、我を支え育ててくれている他者と共に歩み共に生きていける力(コミュニケーション力・協働・共存・感謝・礼儀等)を身に付け磨き育て続けることである。
第四に、人生を歩む我の羅針盤(人生哲学・信仰・価値観)を身に付け磨き育て続けることである。
そして、我に授かったオンリーワンの賜物と磨き育てたたくましく生き抜く術を駆使して、いかなる世にあっても我と我々のために役立てていく人生を送ることではないだろうか。
【岩村太郎】(副学長)
哲学とジャズを心底愛するクリスチャンです。
生涯就業力というと、私が思い出すのは"松本清張の寂しさ"です。芥川賞作家で億万長者の松本清張は、小学校をやっと出ただけで、いわゆる学歴のない人です。印刷工として必死で働きながら独学で勉強をしました。知識も教養も身に付け誰にも負けない勉強をしたのです、学歴はないけれど自分は全く劣等感はないと豪語していました。ある日のことです、大学進学に悩む娘が父・清張に相談したそうです。この時の清張の言葉です。
「自分は大学を出ていないけど、決して恥ずかしいとは思っていない。でも正直に言うと、私には勉強を教えてくれた先生がいない、一緒に机を並べた友達がいない、全部一人でやってきたから。この年になって時々ふと寂しい思いを感じてしまう、先生や学生時代の友達が欲しかった。だからお前はともかく大学に行きなさい、そして生涯にわたって尊敬できる先生に出会ってほしい、友達に出会ってほしい」
【舘野英樹】(大学事務局長)
本学スキー部1年生3人と2018年12月合宿での写真です。スキーは生涯スポーツ、滑れる限り学生とともに上達し続けます。
「主体性を持って、他者と共に自らを成長し続けていく力」、これが私の考える「生涯就業力」です。
私事ですが、数年前に東京から金沢へ転居された大先輩を年末訪問させていただきました。来年卒寿をお迎えになる方です。2日間、ゆっくりお話しをさせていただいたなかで、今後の私へ向けて様々なことを教えていただきました。
- 勤勉であること、感謝の心を持つこと、謙虚な姿勢でいること。
- 皆が活躍できる環境を整えていく。
- 目にみえないものを見ていくには自分の心を研ぎ澄まさなければいけない。
私自身どれをとっても、まだまだできないことばかりですが、すべて心に刺さりました。何より卒寿を迎える大先輩は未だにまだまだ勉強意欲が旺盛でいらっしゃることに驚きと感動の2日間でありました。
「生涯就業力」に完成はありません。いのちある限り、未完成であり、それが故に誰もが日々その力を身につけていくことができるものです。恵泉女学園大学では「生涯就業力を磨く」を教育目標に掲げ、学生は日々学生生活を通して教職員とともに、卒業後も成長し続ける力を身につけていきます。
【樋口幸男】(学長特別補佐・就職委員長)
子供のころから動植物を問わず生き物が大好きで、今でも暇さえあれば山や川に出かけて、生き物を追いかけています。ここ数年は野鳥にはまり、重いカメラを担いで撮影に励んでいます。
社会で必要とされる人になるためには、①挨拶やマナー等を含めた人柄、②俗に「読み書きそろばん」と言われる基礎学力、さらには③社会人基礎力の3つの要素が必要と言われています。一方、技術が目まぐるしいスピードで進歩していく現在、それまで身につけた知識やスキルはすぐに陳腐化してしまい、時代に合わせて新たな知識や技術を習得しなおし、時代の変化にあわせて自分を変えていく必要があります。しかし、それには大きな困難を伴い、その困難を克服するためには、「今まで困難を克服してきたように、この困難も自分なら乗り越えられる!」という自信、少し難しい言い方をすると、「努力に裏付けられた自己肯定感」が必要不可欠なものと考えています。そして、私は、人柄・基礎学力・社会人基礎力に、この「努力に裏付けられた自己肯定感」を加えたものこそが生涯に渡って社会で必要とされ、経済的自立を支える力、すなわち生涯就業力と呼べるのではないかと考えています。
では、大学での学びを生涯就業力につなげる上でポイントとなることは何でしょう。大学では学びを通じて社会人基礎力や自己肯定感を高めることができますが、その際肝心なことは「何を学ぶか」や「どこで学ぶか」ということではなく、「どう学ぶか」ということです。受け身の学びではなく、自ら進んで主体的に学び、充実した充実した4年間を過ごすことができれば、将来の選択肢は自ずと広がっていきます。ですから、学生の皆さんは今目の前にある課題に主体的に全力で取り組み、高校生の皆さんはご自身が一番関心のある分野の学びを楽しむことを第一に考えて大学選びをしてください。それが、生涯就業力を獲得する一番の近道で、よりよい人生につながるのです!
【遠山 克美】(IR推進室長)
IR推進室の遠山です。本学にお世話になり、もうすぐ4年になります。本学も含め5つの大学に40年以上勤めてきました。学外の諸情報を元に学長室の仕事に携わっています。 趣味は、バイクツーリングとキャンプです。
生涯就業力とは、一言でいうと、社会や職場で自分を必要とされ、生涯を豊かに生きるために必要な能力を言います。ある時点をもって完成するものではなく、常に向上させていくことが重要です。これを磨き続ければ、同じ職場であっても、転職しても、地域や社会においても必要とされる人材となり、様々な生涯の関門を乗り越えることが可能と考えます。
今までの大学の授業は、知識や技能を授けるものが主でしたが、最近では、知識・技能のほかに就業力に必要な能力(スキル)を身につけさせる授業へと進化しています。本学では、それを体験授業等で定着させ、卒業論文で完成させる体系化に挑戦しています。授業で学ぶスキルを意識して学生生活を送ってみてください。生涯就業力は、在学中に基礎を身につけ、社会に出てから、自らがそれに磨きをかけ常に向上させ、生涯に亘り、年齢相応のエンプロイアビリティ(雇用に値する能力)として高め、豊かな人生を送ることを目指しています。
【漆畑智靖】(学長特別補佐・学生委員長)
私の専門は国際政治学、アメリカの政治・外交ですが、現在、特に取り組んでいる研究テーマはトランプを大統領に押し上げたアメリカ保守主義運動の現状と背景です。
私は学生支援や学生の課外活動の担当ですので、障がいのある学生の授業を支援する本学の学生団体、「Kサポーターズ」についてお話したいと思います。現在、本学には聴覚障がいのある学生が2名います。Kサポーターズの学生たちは有償ボランティアとしてこの2人の難聴の学生のためにノートテイク(要約筆記)等を担当してくれています。彼女たちは聴覚障がいのある学生の隣に座り、授業の内容を忠実に聞きとり、瞬時にパソコン上にタイプしていくことで、いわば聴覚障がいのある学生の耳となります。
本年度、ノートテイクの仕事を進んで引き受けてくれた学生は27名、ノートテイクに費やした総時間数737.4時間、教員の授業を一言も聞き漏らすまいと聞き取り活動してくれました。
彼女たちの活動は地味なものかもしれませんが、なくてはならないものです。Kサポーターズがいなければ、難聴の学生は授業を受けられません。Kサポーターズの表彰式で難聴の学生が感謝の言葉を述べたとき、その学生もKサポーターズたちもとても素敵な笑顔を浮かべていました。Kサポーターズは奉仕の実践を通じてタイピングの力、理解し要約する力、さらに責任感を身につけていきます。おとなしかった学生たちも上級生ともなれば、講習会を開き、下級生の初心者に対し指導するまでに成長します。少しの謝礼が出ますので、自分のために使うお金を稼ぐことができます。しかし、その活動は他人に強制されたことでもなく、単位をとるためのものでもなく、自発的に彼女たちが選択したことなのです。彼女たちは生涯就業力の基礎を確実に学んでくれていると思います。彼女たちの活動の中に生涯就業力を考える大事なヒントがあると思います。
【野間田せつ子】(学長室長)
昔は石ころ博士、今はアイルランド表現家を目指しています。興味の中心は、アイルランド・チェンバロ・たまご・「ことば」に関する作業・サンドイッチ&おいなりさん作り(限りない可能性を感じています)。
明確な目的をもって勉強したこともあれば、「この勉強が何の役に立つんだろう?」と感じたこともありました。でも、将来何の役に立つかわからないから学ぶのだ、と今は思っています。「将来何の役に立つかわからない」と感じるものが、何の役に立つのかを決めるのは"今(そのとき)の自分"ではないからです。"未来の自分"が判断することなのです。
生きている実感や達成感を持つためには、目的や夢が必要です。ただ、一人で成し得ることはそう多くありません。何かを完遂させていくためには、スキルやセンスが求められることがあり、他人の力を借りなければならないことがほとんどです。社会は否応なしに他者と生きていく場所であり、他者と生きていく中では感謝と敬意が不可欠です。その間さまざまな傷を負うこともありますが、素直に受け止めていけば、立ち上がるきっかけも得られます。
今与えられた場所での役割を果たすために、あるいは自分自身の夢や目標を達成するために、学びつづけ、他者と関わり合うことが「生涯就業力」の一つだと考えています。また、それまでの道のりを振り返ったときに、自分を磨く(かされる)機会が必ず与えられてきたと実感できる力、でもあると思っています。
【上村英明】(アドミッションセンター長)
普遍的な国際人権法を専門とし、同時に民族の多様性、文化の多様性を平和の課題として、教え行動しています。
「生涯就業力」の中身や特徴はみなさまが素晴らしい言葉で表現されていますので、むしろこの力をもつための土台について二つ思うところを紹介します。グローバル化の中で、変化の激しい時代、その中で自分らしさを保つために必要なものはまず「広い視野」です。相手はどう思うのか、第三者はどうみているのか。あるいはその問題の背景や経緯には何があるかを自然に考えられる力です。次に、「多様性への理解」。例えば、礼儀は重要ですが、礼儀は実は文化的背景にしばられます。河井道先生の「イエス、ノーをはっきりいいなさい」の教えは日本社会の中では礼儀を失することもあります。ただし、河井先生は欧米社会の視点を学ばれ、これを本学の学生への教訓とされました。社会の中で、国際を越えた多様な文化が交錯する今日、多様性から学び、自分に合った哲学を見つけることが大切なのです。本学の教養教育はこれらの学びをカバーしています。