ふるさとで活躍する卒業生
2019年03月04日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
TBSテレビの「ふるさとの夢」(2月20日)に卒業生の野口菜々さん(2017年 国際社会学科卒業)が出演しました。この番組は毎回、一つの町や村にスポットを当てて、その地域の魅力やそこで頑張っている人を紹介する番組です。
野口さんのふるさとは新潟県佐渡市。"東京駅から新幹線とフェリーを乗り継いで5時間。東京23区の1.5倍に相当する大きさで約5万5000人が暮らす国内最大の離島です"というナレーションと共に紹介された佐渡の山や海の美しさに、まず目が奪われました。
野口さんはその佐渡市の南部赤泊地区で、特産の「かやの実」を加工してかりんとうを作って販売しています。取材カメラの前に学生時代そのままのやわらかで明るい笑顔で登場した野口さん。スタジオから"ぜったいいい人だ!"と言う声が聞かれました。
なぜ野口さんはこの「かやの実」を用いてかりんとう作りを始めたのでしょうか。
きっかけは初代かりんとう作りの笠木隆子さん(90歳)との出会いでした。佐渡を良くしたいという思いで長年、かりんとうを作っていらした笠木さんですが、高齢で後継者もいないことからこの仕事を断念していらしたとのことです。
一方、野口さんは恵泉の国際社会学科で学んでいた学生時代に国際協力や貧困問題に興味があって、海外の仕事に就くことを志望して何度か海外研修に行く経験を重ねていました。しかし、日本やふるさとから出てみて、初めて地元の良さを再認識し、地元のために何か力になれる仕事に就きたいという気持ちが強まっていたところに、笠木さんとの出会いに恵まれたのです。
はじめはご両親や周囲からは反対の声が強かったそうです。"東京の大学まで出て、なぜ?"
"普通に会社に勤めて、親孝行をしたら"という声に、"ここで負けてはいけないという気持ちだった。親の想像を超えて成長していくことも一つの親孝行。ここまでできるようになりました。こんな人間になりましたという姿を親に見てもらいたい"と思ったそうです。
たった一人でかりんとう作りを始めた野口さんの奮闘ぶりを紹介する画面に、やわらかな笑顔のどこにそんな力が秘められているのか思うほどでした。
かや(「榧」)は温暖多雨な気候で生育する常緑針葉樹で、碁盤や将棋盤として珍重されている植物で、その種は縄文時代の遺跡から出土され、戦後の食糧難を支えた食材になったとのことですが、秋に実を収穫して、2週間天日干しをし、殻を砕き、ミキサーで細かく砕いて、小麦粉・水・牛乳・卵・砂糖などと混ぜて、油で揚げて......等々、大変な根気と力のいる仕事です。
でも、野口さんはこう語ります。
"かやの実でもっと故郷の赤泊や佐渡のことをいろいろな人に知ってもらいたい。私がこの道で少しでも花開くことができたら、若い子たちにもこういう道があって良いんだなと思ってもらえるかもしれません。自分たちの地元には何もないという気持ちもわかるけど、それはすごく寂しい。ちゃんと目を向ければそれぞれの地域に必ずいろいろな宝物があるはずなんです。"
素敵な番組でした。
"最初は初めてのことばかり。個人事業の不安もいっぱいだった。でも周りが支えてくれて 一歩一歩、ここまで来ることができました"と語る野口さんの活躍する姿を見ることができたのは、大学時代、同じゼミに所属していた友人の進藤世那さんが "地元で頑張っている野口さんを取り上げてください"と手紙を寄せてくれたからだと、番組の中で紹介されていました。
ちなみに野口さんの卒論は、『島嶼地域における内発的発展の事例研究~佐渡島を過疎化から、より豊かな島へ~』でした。卒論ゼミの指導教授だった定松文先生からは、「フィールドスタディ(FS)で、中国の村に行って地元の宝物を大切にして発展することの重要性を知り、佐渡島の内発的発展を考えるようになりました。恵泉のFSはコミュニティサービスラーニングへとつなげることが目的でもありますので、まさにカリキュラムの狙い通りに成長してくれた学生です。
帰省するたびに佐渡のお菓子をゼミに買ってきてくれ、新学期のはじめはみんなのお土産であふれるゼミであり、野口さんのご両親がつくられたお米をいただいたときは、みんなで手巻き寿司パーティーをひらいていただき、そのおいしさにみんな感動したほどです。野口さんのことを番組に紹介した進藤さんは山形出身で、地方出身の学生がゼミに数名いたこともよかったと思います」とのコメントをいただきました。
番組の最後には、ご両親がとてもおいしそうに野口さんが作ったかりんとうを食べていらっしゃいました。"菜々が決めた道。もう、なんにも言うことはない。全力で応援したい。"
かやの実のかりんとうは佐渡市内のスーパーやフェリー乗り場の売店でも販売されています。春からは酒造会社との協働で新商品の販売をめざしているとのことです。
いつ、どこにあっても、自分らしい目標を探し続け、大切な人や地域のために尽くす力、「生涯就業力」そのままの野口菜々さんの姿でした。
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