林文子 横浜市長にご講演をいただきました

2019年07月22日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

今年度からスタートした「生涯就業力STEP」の授業では、各界で活躍していらっしゃる方々にご講演をいただいております。その中の「女性のキャリアと生涯就業力」というテーマでは、5月25日の岩田喜美枝氏(厚生労働省雇用均等・児童家庭局元局長・元資生堂副社長)、6月17日と7月1日の宗雪雅幸本学園理事長(富士フィルム元社長)に続いて、7月8日に林文子横浜市長がご登壇くださいました。

林氏は、横浜市長に就任される前はファーレン東京株式会社(現フォルクスワーゲンジャパン販売株式会社)やBMW東京株式会社、株式会社ダイエー、東京日産自動車販売株式会社で、代表取締役社長や会長兼CEOなどを歴任され、それぞれの所で伝説に残るといわれる大きな業績を残されたことで、よく知られた方です。ウォールストリートジャーナル紙で「注目すべき世界の女性経営者50人」(2004年)に、また米フォーブス誌の「世界のパワフルウーマン100」(2005年、2006年)にも選出されています。

輝かしいご経歴ですが、ご講演は高校を卒業して最初の仕事に就かれた時に与えられたお仕事が、今の若い学生たちには想像を絶するほどに厳しく、かつ地味なものだったことから始まりました。女性活躍の先陣を切っていらっしゃる今の林市長とのギャップに、学生たちは引き込まれるように聞き入っていました。

仕事についてのお話の合間には、少女時代のことやお連れ合いとのほほえましい出会いから結婚生活のエピソードに至るまでを率直に語って下さいましたが、そのどれもがテンポよく、ユーモラスで、まるで落語を聞いているかのような面白さでした。後に林氏のご趣味は落語とうかがってなるほどと思いましたが、ご苦労も少なくなかったことと思われるご自身の人生を、かほどにユーモラスに語れるとは、人としての魅力と器の深さに圧倒されました。

特に印象に残っているのは、車の営業を始められた頃のお話です。一日100軒を回ることをご自身に課しておられたとのことですが、どのお宅からもインタフォンで門前払いをされていたある冬の日、"寒いでしょう"と一軒のお宅の奥様が玄関の中に招きいれて下さったとのことです。
"うちは、車は要らないの"とおっしゃったのですが、それでもお訪ねすることを続けていたある日、その方が風邪をひいて、幼いお子さんの牛乳がなくてお困りだったとのことです。お役に立ちたい一心で喜んで近くのスーパーに走ったそうです。そんなことを重ねていたところ、その方が車の購入を検討している知人を紹介してくださったのが、契約第一号。その時の嬉しさを、つい昨日のことのように語っておられました。しかし、林氏はけっして契約をいただけることを期待して、そのお宅を訪問していたのではなかったとのことです。寒い日に玄関の中に招きいれてくださったことへの感謝の思いだったという言葉に私は胸打たれました。

仕事だけでなく、人間関係でも、目先の成果や効率を優先する風潮が近年とみに強まっているようです。林氏は、ご自身のこれまでをふりかえって、"私は営業が好きでした。出会う方とのご縁に支えられ、出会う方を愛し、愛されてきた。仕事も、人生も愛です。"という言葉で、90分余りのご講演を終えられました。

岩田喜美枝氏と宗雪理事長から、女性が社会で真に必要とされる人となるために何が大切かについてのお話を伺ったことに続けて、実体験に満ちた林市長のお話を聞く機会に恵まれたことは、学生たちにとって、とても幸せなことだったと思います。
"私も市長のように人との出会いを大切にしたい" "今日のお話を糧に、努力を惜しまずに生きていきたい""自ら工夫して仕事のやりがいを見つけたり、部下にかける言葉を工夫されていたり、どれも強く生きる女性の姿の象徴だと感じ、惹かれました"等々、学生たちは感動の思いをたくさん綴っていました。中でも"仕事も、人生も愛だ"という最後のお言葉に対して「私はこの言葉の本当の深い意味をまだ理解できないかもしれません。でも、けっして忘れないようにしたいです」と書いているコメントペーパーを、私は嬉しく読みました。

ご多忙の中、多摩の大学までお運びくださり、学生たちに感動を与えてくださった林市長に心から感謝申し上げます。

学長室にて 理事長・学園長・本部事務局長と
林市長のご講演の様子
林市長のご講演の様子

※本文内敬称は、営業時代の話題のところは「氏」、現在に関するところでは「市長」とさせていただきました。