企業OBが教壇に

2019年10月14日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

今、大学は産学官協働で学生の育成が求められています。本学もその取り組みに着手しているところですが、今回はその一例として「コーポレート・マーケッティング」講座についてご紹介いたします。この講座は昨年度から特任教授として就任した青木良和先生(元フジフィルム株式会社執行役員)が、親交のあるKAE山城経営研究所の皆様と共に実施している講座です。

春学期に登壇された講師の方々と業界(役職名は元)

講義日 業種 会社名(元) 氏名
①4.19 サービス業 藤田観光社長 森本昌憲
②4.26 運輸(陸運業) JR東日本執行役員 加嶋良行
③5.10 運輸(海運業) 日本郵船経営委員 甲斐幹敏
④5.17 電機 ソニー人事部長 深津紘
⑤5.24 精密機器 キャノンUSA副社長  立花敏男
⑥5.31 保険業 住友生命保険企業保険開発部長 栗原健
⑦6.7 電機 日本IBM常務取締役 西田芳克
⑧6.14 サービス業(広告) 東急エージェンシー常務取締役 萩原道雄
⑨6.21 小売業 長崎屋常務取締役 中谷弘美
⑩6.28 化粧品会社 資生堂監査役 米山俊夫
⑪7.5 運輸(空運業 JAL,モービル石油広報課長 太田颯衣
⑫7.12 運輸(陸運業) ヤマト運輸執行役員 岡村正
⑬7.19 小売業 良品計画取締役(現) 鈴木啓
⑭7.26 精密機器 オムロン(韓国代表理事) 田村 曠
立花敏男氏:元 キャノンUSA副社長
講義の概略について青木先生から、また講師としてご登壇くださった方々の中から2名の方にご寄稿をいただきました。

青木良和先生(経営論)

恵泉女学園大学では、昨年秋期より、従来の大学にない新しい形の授業をスタートしています。「コーポレート・マーケッティング -企業とは何か、実践的に学ぶ-」という授業で、多様な企業の中で要職に就かれ、リーダーシップを発揮されて来た方を毎回講師に迎え、どういう業界で働いてきたのか、企業の設立から現在に至るまでどのような困難な事や危機に出合い、それを乗り越えていったのか、どのような仕事をしてきたのか、企業社会で必要なスキルや心構えは何か、といったことについて話していただき、多様な業界の中で生き抜いている企業を学び、必要な人材像を理解することで、恵泉女学園大学が目標とする生涯就業力を磨くことに貢献する授業となっています。
講師の皆さまは、日本における経営学の泰斗として、世界に通ずる日本経営学の確立に情熱を注いできた山城章(一橋大学名誉教授)によって、経営リーダーの育成・自己啓発・相互研究に関する事業として、1972年に創立された、山城経営研究所の研修修了生(KAE会員)にご協力いただいています。毎回の授業は、各講師の講演、質疑応答、学生からのコメントシートの提出、講師からの学生のコメントに対する回答やアドバイスのフィードバックというかたちで、双方向型のコミュニケーションにより行っています。履修者数は、昨年秋期が23名、今年の春期は38名、そして、秋期は50名と多くの学生に履修していただいており、エキサイティングな授業になっています。

森本 昌憲氏 (元藤田観光㈱代表取締役社長・会長) 

~学生から教えられ、気づかされる事ばかり~
大学や会社などを訪問すると、門をくぐった瞬間、そこに漂う雰囲気、空気を感じることが出来ます。行き交う人々の動き、会話、表情、建物や、庭、色などいろんなところからもビビッドに伝わりますが、恵泉女学園大学に初めて一歩足を踏み入れた時、とても澄んだ、優しい心地良さを感じたのを覚えています。
教室では、まだ職業、社会との実質的な関わりや経験が無い学生の方々に、狭いながらも自分の会社や業界、社会での経験などを通じ、出来るだけ共に考え、それぞれが関心を持って自分なりの答えが出せるように伝え、問いかけることに努めました。 皆さんとても素直ながら熱心に向かってくる姿勢、女性ならではの感性、視点での積極的な質問(特に講義後のレポートでのしっかりとした指摘、質問)などに触れ、今の企業側の若い人の育成の考え方と学生の思いなどの違いも分かり、教えられ、気づかされることが多い講座でした。

萩原 道雄氏 (元東急エージェンシー常務取締役)

ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。これは鴨長明の方丈記の一節です。この世は常に変化していることを言っています。
私が学生の皆さんにお話をする企業での生活やその後の人生はすでに過ぎた思い出に過ぎません。然し過ぎ去った出来ごとの中に未来へのヒントがあるかもしれません。それが何かを学生の皆さんに読み取ってほしいと思っています。
私は広告会社で会社生活を終えました。授業では、広告ビジネスが私の時代と今とでは様変わりしていますので、仕事の失敗談や苦労した話を中心にてお話を行い、それに加えて広告ビジネスの本質と今の広告ビジネスのお話をしてきました。今後は大手IT広告会社の営業マンを登場させ現場の仕事の話をしてもらおうと考えています。
学生の皆さんに私たちの企業経営の経験談を聞いていただくと多分色々なビジネスに将来携わろうと考えている方々にとって効果的な何かしらのヒントがあるはずです。より理解を深めるためにぜひ経営学の授業を並行して履修してください。
過去の出来事は語り部によりさまざまに解釈がされます。然し過去があるから今があり、今があるから未来があるのですね。今は川の流れのように刻々と過ぎ去っていきます。どのような未来になるのでしょうか。人の社会は人の思いを実現する可能性を秘めています。 刻々と変わる今の中で未来の事、将来の事を思ってください。そのために私たちの授業が少しでもお役に立つならばこんなにうれしいことはありません。

この授業で、学生(1年生)たちも多くのことを学んでおります。
学生たちの感想の一部ですが、ここにご紹介いたします。
  • 「何事にも様々な立場に立って考えること」と「お客様にしっかり寄り添い、誠心誠意向き合っていくことの大切さ」、この2つを14人の講師の方々のお話から学んだ。特に印象的だったのはJRの方のお話だった。事故に巻き込まれて亡くなったご遺族への対応に際してのお話は想像を超えてはるかに難しく厳しい状況で、衝撃を受けた。命と向き合っていく仕事とはこんなにも繊細で難しいものか、命の尊さや大切さを改めて考え直すことができた。
  • 住友生命の方に「女性の働きやすい会社作りはどうお考えですか?」と質問したところ、「女性の場合は、産休、育休、さらに子育てをしながら勤務するというハードルがあります。そのようなケースでも勤務時間帯や業務の配慮を受けながら、仕事を続けられる環境を整えている会社が女性の働きやすい会社になるのではないか」とお答えいただきました。その様に考えている会社が増えていることをとても嬉しく思いました。また「海外で仕事をするにあたってどのような準備をなさったのか」と尋ねたとき、キャノンの方が「タイプライターの打ち方を練習した」と回答されたことに驚きました。英語修得も大事ですが、何よりも基礎的なことをきちんと習得することの大切さを学びました。
  • 倒産した企業(長崎屋)の方のお話は、普段ならうかがうことを遠慮してしまうお話だった。働いていた皆さんがどれほど愛着を持っていらしたかが分かり、私も就く仕事に愛着を持ちたいと思った。
  • 就職しても安心してしまわず、いつ何が起こるかわからないので、いつでも臨機応変に対応できるよう、社会人になってもコミュニケ―ション力や勉強を怠らないようにしたい。
  • 「上司は選べない」というJALの方の言葉が印象に残った。将来、人間関係に悩んでつらくなっても辞めるのではなく、相手の性格をよく知って、どのように接したら良いか考えていきたいと思った。
  • 産業革命やバブル、リーマンショックなどを乗り越えた講師の方々のお話でした。特に資生堂の方や無印良品の方のお話は、いずれも私がよく知っている企業で、どういう風に創設され、どういう信念のもとに経営され、そして、難局を乗り越えたか、とても興味を持って学ぶことができました。
  • 私は将来、ホテル関連の仕事に就きたいと考えているのですが、持病があって不安でした。でも、「ホテルでの仕事はコンシェルジュのような仕事だけではなく、広報や営業等もあります。ご自身にあった働き方を探すことが良いと思います」と藤田観光の方が答えてくださいました。自分に適した環境を探す大切さを知り、視野が広がりました。
  • どの講師の方も私たちの質問に丁寧に答えてくださり、メールでも返信してくださったことに感謝しています。私は今後、どういう生き方をすべきか知りたかったのですが、一人の方は、「男性は家族を養うなどから"守りの姿勢"になりがちだが、女性は"攻めの姿勢"になれる」と言われました。もう一人の方は「私の年齢では"愛情""金銭""理想"だが、皆さんは若くてこれからだから、"理想"を優先されると良い」と答えてくださいました。私たちは人生100年時代を生きます。夢を持ってたくさんのことにチャレンジしていきたいと思いました。
  • 講師の方々は、皆さんポジティブで、目的を持ち、それに向かって頑張って輝いて見えました。たくさんの素敵なお話を聞けました。私もやりたいことをたくさん見つけて、困難なことがあっても自分を信じて乗り越えていきたいです。
  • すべての講師の方々から、挑戦することの大切さを学んだ。「"今"を大切に。"今"だからできること、"今"しかできないことをする。命は有限であり、"今"と同じ状態は二度とこない」という言葉が心に響いた。
  • 講師の方々から自分の好きなことに熱中する大切さを学んだ。会社に入ってからも、自分に熱中できるものを見つけ、一所懸命に仕事をこなしたい。その結果、成果をあげられたときの喜びに勝るものはないと思う。この講義で学んだことを活かしながら、将来の自分の姿に近づけるよう、日々、努力を惜しまず、頑張っていきたい。
  • 子どもの頃の夢と入社した会社の分野が異なっていても、現状の仕事を一生懸命こなせば、好機を自分のものにできるという日本郵船の方のお話がとても勉強になりました。私は小学校教師の夢をあきらめました。しかし、考え方を変えると、方法や手段が異なっても最終的な目標をかなえる好機はどの選択肢にもあり、大切なことは自分が選択した道をしっかりがんばれるかどうかだということに気づきました。好機を手放さないためには、今、やるべきことをやり抜くことが必要で、もし仮に自分の力ではどうにもならない会社の倒産や人事異動に直面しても、与えられた仕事をこなし、ポジティブに捉える姿勢の大切さを、全講義を通して学ぶことができました。
  • 14人の講師の方のお話に学んだことは、皆さんが、今、私たちが恵泉女学園大学で学んでいる「生涯就業力」に繋がる生き方をしておられるということです。企業での女性のあり方など、女子大でなければ学べないことも学べて、とてもためになりました。
  • 講師の先生方すべてが学生の提出したコメントペーパーにお返事をくださったことが、とても有難かったです。私が思ったことや感じたことにさらに詳しいお話を聞かせてくださり、質問に丁寧に答えてくださって、嬉しく感謝しています。これから進路を決める際に、講師の先生方のお話を思いだし、自分なりに働くことをよく考えて決めていきたいと思います。

この他にも、この講義に励まされ、心打たれたという学生たちの声がたくさん寄せられています。企業で活躍された方々の仕事に対する姿勢、若い世代に示してくださった愛情に私たち教職員も多くのことを学ばせていただきました。心からの御礼を申し上げます。
そして、この秋学期もまた「コーポレート・マーケッティング」講座で学生たちが多くのことを学んでくれることを期待しております。