クリスマスの時を迎えて

2019年12月23日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

11月27日のクリスマスツリー点火式以降、今日まで多摩キャンパスではイエス・キリストのご降誕を迎える準備が進められてきました。12月18日には大勢の学生・教職員が集ってクリスマス賛美礼拝を執り行うことができました。そして、いよいよ明日はクリスマスイブです。このひと月余り、アドベントの時を紡いできたキャンパスの様子を写真でお伝えさせていただきます。

そして、12月11日には礼拝の時間にチャペルで「星を動かす少女」というタイトルで、感話を述べさせていただきました。あわせてここに報告させていただきます。

「星を動かす少女」

アドベントの時を迎えております。一年の内で私が一番好きな季節です。
クリスマスのイルミネーションに飾られて華やかさを増す街を歩きながら、子ども時代にサンタさんが来てくれることを心待ちにしたこと、母となってからは二人の娘たちの贈りものに夫と共に楽しく頭を悩ました日々が思い出されます。

同時にきまって思い出されるのが、松田明三郎さんがお書きになった「星を動かす少女」という詩集の一篇です。教会の日曜学校で行われるクリスマスの降誕劇で、星を動かす役目を担った少女のお話です。舞台の上にはマリア様や3人の博士、羊飼いたちに扮した子どもたちがそれぞれに役柄を演じる中、その少女はだれの目にもふれることのない舞台裏で星を動かすのです。「お母さん、私は今夜星を動かすの。見ていて頂戴ね」と言う少女と、その約束を守って、じっと星を見つめる母。「その夜、堂に満ちた会衆はベツレヘムの星を動かしたものが誰であるか気づかなかったけれど、彼女の母だけは知っていた。そこに少女の喜びがあった」と結ばれています。

人よりも目立つことを良しとする風潮が社会全体に広まっています。園や小学校の学芸会などでは、かつてのような主役がいる演目を出すことが出来なくなったと聞くことがあります。「なぜあの子が主役で、うちの子は選ばれなかったのか? もっと良い役はないのか!」と、わが子に良い役をと求める親のクレームに頭を悩ませた結果、原作にはない主役を何人も登場させたり、逆に主役や脇役の違いがまったくいないものや、皆が同じ役を演じるマスゲームみたいなものしかできなくなったという声をよく聞きます。

人それぞれにいろいろな役目があって、私たちの社会は成り立っています。表舞台に立つ主役と裏方を担う人という役割分担を固定することは、もちろん問題と考えますが、スポットライトを浴びることだけを評価することも、同じように問題ではないでしょうか。
娘が星の係になったことを聞いた時、その子の母親はきっと穏やかな笑みを浮かべて、こう応えたのではないでしょうか。「良かったわね。お母さん、星があなただと思って、楽しみに見ますからね。頑張ってね」と。こんな母でありたい、同じく娘を持つ私にとって、この少女の母親は私がめざしたいと願った母の姿でもありました。

こうして「星を動かす少女」の物語についてお話をしていて、もう一つ、私の脳裏に浮かぶのは、「日本一早い桜を愛でる」会です。今年の2月の下旬に「日本一早いお花見」を堪能してきました。会場は日本橋「COREDO室町」の日本橋三井ホール。会場に一歩足を踏み入れた途端、春爛漫の色彩と香りに包まれて幻想的な世界が広がりました。
360°桜に包まれるアート空間「大桜彩」はいけばな草月流や志野流香道といった伝統文化とのコラボレーションが見事に施されていて、『花、そして伝統と革新の世界へ...』とパンフレットに記された通り、まさしく"伝統と革新のアーティストの集結"の世界でした。ただただ圧倒されて、幻想の異世界にしばし浸りました。
でも、私がこのイベント会場を訪れた本当の目的は、日本一早い花見を楽しむためではありませんでした。恵泉の学生たちが、展示している花(啓翁桜)のメンテナンスをしていたからです。
イベントが夜の8時に終わり、来場者が去ったあと、そこからが恵泉の学生たちの出番でした。会場を飾っている生の桜木を鉢毎、洗い場まで運び、透明な花瓶の中に積まれている飾り石の一つひとつを、そして、桜木を丁寧に洗い、水を換える作業を行っていました。花瓶はどれも大型で、しかも水と石が入っていてかなりの重さです。桜の花を散らさないよう細心の注意を払いつつ、洗い場と会場の間を重い花瓶をカートに乗せて何回も往復している学生たちの姿に思わず目頭が熱くなる思いでした。目立たないところで、黙々と地味な仕事をこなす学生たちの真剣な面持ちが今も目に残っています。この作業の指導をしてくださっている方が、「このイベントは毎年、恵泉の学生さんのボランティアで支えられているんですよ。本当に素晴らしい学生さんたちです」と言ってくださいました。

星を動かす少女とその母のお話は、今となっては美しい詩編の中のお話に過ぎないといわれるかもしれません。しかし、けっしてそうではありません。今この時代にあって、たしかに存在していることを、美しいお花見の桜の陰で働く恵泉の学生たちの姿に思いました。けっして派手なパフォーマンスに走ることなく、見返りを求めるでもなく、人のために自然体で尽くせる。そして、それを喜んでくれる人たちの喜びを自分の喜びとできる学生たち。この多摩キャンパスには、星を動かす少女がその純粋な心のままに成長したといえる、そんな若い女性たちが本当にたくさんおります。恵泉での学びがそこに結実しているとしたら、こんなに嬉しいことはありません。

星を動かす少女のような心を大切に育んでくれている学生の皆さんと共に、この多摩キャンパスでイエス様のご降誕を待つことができる、その恵みに心からの感謝をこめて黙祷を捧げたいと思います。皆様もご一緒に静かに祈るひと時をもっていただければ幸いです。

年内の「学長の部屋」は今日で最後とさせていただきます。この一年、お読みくださいまして、有難うございました。どうぞ良いクリスマスをお迎えください。