春休みに世界へ羽ばたく学生たち
2020年02月03日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
2月に入りました。陽射しも和らいで春の訪れが感じられる頃となりました。
多摩キャンパスの2月は修士論文の口述試験、大学や大学院の入試の日程が予定されておりますが、学生の多くはこれから4月の新学期まで、比較的長い春休暇へと入っていく時期となります。キャンパスに姿を見せることが少なくなる代わりに、体験学習委員会プログラムや語学研修等で国内外へと学びの舞台を広げる学生が増えていくことでしょう。
そうした中、今年度初めてのプログラムが2つあります。
一つは、2018年秋に締結した梨花女子大学(韓国)との学術協定に基づいた学生交換プログラム。もう一つは、スペインの世界遺産であるサンティアゴ巡礼道プログラムです。今日はこの2つについてご紹介いたします。
梨花女子大への学生派遣について
1月28日から2月4日の行程で15名の学部生と2名の大学院生が梨花女子大学(韓国)ホクマ教養大学*の「分かち合い・平和の女性リーダーシップ講座」へ派遣されます。
本学と梨花女子大学は2016年から2018年まで共同シンポジウムを開催して交流を深め、その成果をもって2018年に両大学間で相互に学生を派遣する学術協定を締結したことは、すでにこのブログでもご報告した通りです。
この協定に基づいて、昨年(7月1日~7日)、梨花女子大学ホクマ教養大学から10名の学部生が派遣され、本学の園芸の実体験学習と平和教育の講義を受講し、将来のグローバルリーダーとして、人や植物、生物など多様な他の生命との共存について貴重な学びが行われました。
関連のお知らせ
そして、今回は本学から梨花女子大学へ学生を派遣する番です。派遣に先立って、学生たちは引率の李泳采先生(日韓関係 国際政治)、澤登早苗先生(園芸学・有機農業学)、笹尾典代先生(比較宗教学、民衆宗教論、ラテンアメリカ宗教文化)の指導のもと、周到に事前学習を重ねてきました。その一日、私も同席いたしましたが、小説『82年生まれ キム・ジョン』やドキュメンタリー映画『時局フェミ』(キャンドルデモの中でのジェンダー問題)を題材に、レポートを書き、あるいはディスカッションを交わすなどして、日韓の女性の生活と教育、女性のリーダーシップ等をテーマに、梨花女子大の学生との討論に向けて熱心に備えておりました。期間中はSNSを通じて学生による講座レポートが発信される予定と聞いておりますので、報告を楽しみにしたいと思います。
*ホクマ(HOKMA)とは、「知恵」「賢明になる」「多様な学識」という意味を持つヘブライ語であり、単なる理論的知識ではない「実践的な知識」を意味する。梨花女子大学では人材養成の基礎となる教養教育を強化するため、従来の教養教育院を拡大・再編し、専門に行う「ホクマ教養大学」を開設した。
*プログラムスケジュールはこちらをご覧ください。
学生たちのレポート
サンティアゴ巡礼道プログラム
サンティアゴ巡礼道はユネスコ世界遺産であり、スペイン州政府などが積極的に支援していることで、近年、大きなブームとなっています。
今回、本学が実施するプログラムは体験学習委員会主催で、2月10日~3月25日の40日間の予定で850キロ踏破をめざすものですが、桃井和馬先生の引率指導のもと、6名の学生が参加を予定しております。厳しい行程であるだけに、それに耐えられるだけの周到な準備を重ねていることは言うまでもありません。またゾンタクラブ様からはこのプログラムに賛助の寄附をいただきました。全行程を皆で励ましあって進めるよう、Tシャツ作成に使わせていただく予定と聞いております。
出発を前に桃井和馬先生にこの巡礼道について、メッセージを寄せてもらいました。
(桃井先生はこれまで数回にわたる巡礼道を経験されていて、昨年12月にNHKで放映されました。
こころの時代~宗教・人生~「戦場から祈りへ」)
サンティアゴ巡礼を前に(桃井和馬 国際関係、宗教、メディア論 )
スペインのサンティアゴ巡礼は、キリスト教の巡礼道です。これまで5回巡礼を続け、2019年2月~3月にかけては、900キロの道のりを若者12人と歩いて来ました。1日20キロ~30キロの道のりで、すぐに足は水ぶくれになり、むけ始めます。当然痛いのです。しかし、それを耐え忍んだ時に、大きな経験が得られるのです。巡礼道を歩く中で、土地が豊かなスペインが、地政学的な要衝であることを知るのです。その土地を巡る争いが、スペイン史の中で、いくつもの領土紛争、また内戦の原因になっていたのです。スペイン人パブロ・ピカソの描いた「ゲルニカ」は、芸術を通して、内戦の愚かしさを訴えた作品で、スペイン内戦時だけでなく、たとえば、ニューヨークのツインタワーが テロ攻撃の対象となった2001年以降の国際社会では「反戦のシンボル」として再認識されたのです。スペインの巡礼道を歩いていると、ずっと牛が放牧された牧草地を歩くことがあります。また、どんぐりの木が生い茂る森では、どんぐりの実を食べて成長するイベリコ豚を見続ける機会もあります。それだけではありません。地面に目をやると毛虫が80匹以上連なった光景にも出会いました。1匹の毛虫は、すぐ鳥に発見され、食べられてしまいます。しかし、80匹以上が連なるとまるで巨大な蛇のような生物に見え、鳥から身を守ることができるのです。歩くスピードとは、そうした自然の「豊かさ」と「不思議さ」に触れる時間でもあります。恵泉の園芸も、園芸を通して自然の豊かさと不思議さに触れる大切な機会なのでしょう。サンティアゴ巡礼道は、現地スペインの人々がボランティアをしてでも守りたいユネスコ「世界遺産」です。
1年間に30万人もの人々が世界から集まり、歩く道で、歩く中で、人間は生きているのではなく、生かされていることを知るのです。
なお、サンチャゴ巡礼について、下記の資料も併せてご覧いただければ幸いです。
サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路~人はなぜ歩き続けるのか~(笹尾典代 宗教学、ラテンアメリカ宗教文化)
以上、この春にスタートする2つの新しいプログラムについてご紹介させていただきました。他の海外プログラムと同様に無事に執り行われますことを、そして、学生たちにとって実り多い経験となることを心から願っております。