卒業生・社会人のための「生涯就業力」の学びのご報告

2020年02月17日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

今回は卒業生・社会人の女性たちと学びあった「生涯就業力」についてのご報告です。
場所は、多摩キャンパスを出て、私が携わっている都心の子育てひろば「あい・ぽーと」(青山)で。2月1日の午前中に大学院のゼミ。午後はひろば利用者のお母様方を対象とした講座でした。

大学院平和学研究科ゼミ

大学院のゼミは昨年の春、本学大学院平和学研究科を修了した上垣路得さんが自身の修士論文について紹介し、それを受けて在籍中の1年生・2年生たちと共に語り合うという3時間のゼミでした。

大学院平和学研究科ゼミ@あい・ぽーと青山と上垣さん

上垣さんの修士論文タイトルは『主権者教育のまぼろし~学校・家庭・地域、それぞれの現状と課題』です。タイトルは固い印象かもしれませんが、問題意識の発端は、「女性が女性であるがゆえに被りながら、それが問題として認識されず、あたかも個人的な問題として私的領域に日常的に閉じ込められてきた悩み事や生きづらさを対象とし、それはけっして心の持ちようで解決することではなく、ジェンダーの影響に気づき、人の手によってつくられてきた制度、仕組み、法律、慣習、伝統を見直し、つくり変えなければ改善されない」という日常にしっかり根を下ろした切実な問いかけでした。

その解明のフィールドの一つに上垣さんが選び、企画・実施に挑戦したのが、恵泉とあい・ぽーとの協働企画「社会人・卒業生のための"生涯就業力"講座~あなたの明日を拓くために~」(2017)でした。

この講座の概要図は下記にまとめられていますが、その趣旨は「女性の人生に様々な壁が立ちはだかっている現実を踏まえ、困難にぶつかったとき、しなやかに、したたかに乗り越えながら、自分の明日を切り拓く人生の当事者としてその一歩を踏み出すための力を培うこと、つまりは主権者としてのエンパワメントを図る」(上垣)要素が込められています。

上垣さんを囲んで語り合ったゼミ生の中の2人も社会人です。大学の非常勤講師をして子育てとキャリアに忙しく生きてきて、今、ふと立ち止まって学び直しの充電のときを持っているという人。専業主婦として生きていきて、この先の人生を見つめ、改めて新たな生き方を模索して大学院に辿り着いた人も。後者の院生フジオカ鶴子さんは、今年度の私のゼミ生として、ちょうど修論を書き終えたところでした。

フジオカさんの修士論文のタイトルは「今、語りはじめた女たち~子育て支援に現れる日本の中高年女性の姿~』です。
「人生100年時代」を生きる日本の中高年女性の「これまで」と「今」を精査し、「これから」の新しい生き方を検討したものです。近年、少子高齢化対策もあって、女性活躍が政策的にも喧伝されています。女性の人生は常に、その時々の社会経済的要請のもとで、ある意味、政策的に翻弄されてきた傾向にあり、女性が真の意味で自分らしい選択のもとで人生を生きてきたとはいえない。そうした歴史的経緯を踏まえつつ、真の女性活躍時代をめざすための中高年女性の自己実現の在り方を問い直したものですが、この修論も子育てひろば「あい・ぽーと」をフィールドとしたものです。

子育てひろば利用者の母親たちとの学び

この同じ日の夕刻から開催された講座が、本日、ご報告するもう一つの講座。
『卒業生・社会人のための"生涯就業力"講座「子どもをのばす母親の自己肯定感」』でした(すでに本ブログで予告をさせていただいております

入門編と上級編に分けて、3日間にわたって実施いたしましたが、40名を超える受講者の方々がほとんど休むことなく熱心に参加してくださいました。

タイトルは、子育てのハウツー的な印象かもしれません。でも私が参加者の皆さんにお伝えしたことは、子育てはけっしてハウツーではない(いくばくかのハウツーも含めつつ・・)、母親が自分自身を見つめ、あるがままの自分を受け入れる謙虚さと覚悟と強さをもつ大切さです。そして、それが子どものあるがままを受け入れられる包容力になればと願って、"ダメでいい。揺れていい。大いに悩み、揺れましょう。揺れることに胸を張って"というメッセージを送りました。

講座を終えて、何人もの方が列をつくって、私に声をかけてくださいました。子どもの育ちに悩み、あるいは自分は母親失格ではないかと涙を流す人。実母との確執に嗚咽する人・・・。なぜ女性が、母親がかくもいつまでも、涙を流すのかという思いですが、その方々の涙に、「わたしの辛さをわたしだけの経験として語るのではなく、個人的なことにとどめるのではなく、どのように社会が変わればよいのかを訴え、社会の構造に変化をもたらすために働きかけることが必要であることに気づくこと。そして、その行動に繋げるために何が必要なのか、自分はどう変わるのか、自分と社会の関係性を問い直すことで、"わたしはどうありたいのか"を問い直す機会にしたい」という上垣さんの視点の大切さを改めて思いました。

卒業生・社会人のための「生涯就業力講座」
テーマをもとに、グループで語り合う参加者たち