孤立から連帯へ

2020年05月25日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

緊急事態宣言解除が始まりました。東京の解除も近いように思われます。もっとも、いずれの地域においても新型コロナウィルス感染の危機が完全に終息したわけではありません。むしろ、コロナとの息の長い闘いが続くとも言われています。
焦らず、じっくり、"コロナ危機後"に視点を向けてみる必要があるかと思います。
何か新たなものがいろいろと動き始めているような予感がいたします。

その一つは「孤立から生まれた新たな連帯」です。
感染拡大が懸念された当初は、どの国も自国を守るために入国制限を行い、国境を越えた物流の抑制に走りました。そうした中、矢面に立たされたのが、"グローバリゼーション"でした。
"ヒト、モノ、カネ"が国・地域を超えて移動することで、政治・経済・文化が地球規模で拡大する近未来の希望の現象のように扱われていた"グローバリゼーション"ですが、一転してウィルスを運ぶコロナ危機の根源として批判と否定の的となったのです。
この傾向は今も依然として消えてはいません。

しかし、そうして閉ざされた中で、"ヒト"が動き始めました。
イタリアでは人々が窓辺に立ち、歌を歌い、楽器を弾き、音楽で互いを励ましあっている姿が、またフランスのパリでは、毎晩8時になると人々がバルコニーに出て、医療関係者に感謝の拍手を送っている、等々がニュースで報道され、世界中の人々の胸を熱くしました。
厳しい外出規制がかけられ、孤立を強いられたことで、人はかえって他者を思い、他者との絆を深める思いを強めたのではないでしょうか。

「フランス語の"孤立"(solitaire)は、一文字置き換えると"連帯"(solidaire)になる」(t→d)。
フランス文学者海老坂 武氏は、アルベール・カミユのこの言葉を用いつつ、"コロナ危機後"を展望して、 "連帯なき依存関係"(フランスの社会学者エドガール・モラン曰く)のようなこれまでのグローバリゼーションに対抗するための"新たなグローバリゼーション"を構想する必要性を指摘されています(朝日新聞2020年5月15日)。

"モノ・カネ"の移動、すなわち経済優先の競争主義に偏重したこれまでのグローバリゼーションに替わる"新たなグローバリゼーション"とは、人と人との絆を優先したグローバリゼーションに他ならないと思います。"コロナ危機後"の社会で、改めて本学の「国際」教育の意義と使命を思います。
自分を愛するように他者を愛する「聖書」の学び、自然と命をいつくしむ「園芸」の学び、欧米やアジア各地に出向き、文化や歴史、価値観等を異とする人々と親しく交わることで差別や偏見を乗り越える力を養う「国際」の学び、この3つの学びを礎として、"しなやかに凛として生きる"「生涯就業力」を身に付けた女性たちが世界各地に羽ばたき活躍できる日が再び戻ることを、そして、それが人と人との連帯に基づいたグローバリゼーションをこの地球上に確かなものとする日が近いことを願ってやみません。

多摩キャンパスは、今、緑がむせぶような美しさです。学生たちに早く戻ってきてほしいと木々も訴えているようです。