9月卒業式・学位授与式のご報告
2021年09月20日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
先週の木曜日(9月16日)に2021年度の卒業式・学位授与式を執り行いました。
金木犀の薫るさわやかな秋晴れのもと、教職員やご家族と共にチャペルで晴れの門出を祝いました。コロナ禍の不安が長引いておりますため、感染対策第一とし、祝会は昨年と同様に中止といたしました。式の様子を幾枚かの写真でご覧ください。併せて式辞についてもご報告いたします。
時が証(あか)すもの
皆様、学部卒業・大学院修了、おめでとうございます。
昨春から続く厳しいコロナ禍の中で、こうして卒業・修了の時を迎えられたことに心からのお祝いを申し上げます。ご家族・保証人の皆様のお喜びもいかばかりかと存じます。
皆様の晴れの門出の日に、「時が証(あか)すもの」と題してお話をさせていただきます。
これから皆様が羽ばたかれる時代は、正直申し上げて明るいことばかりではないようです。コロナ禍が収束した先も予測不能なことが日常となる「ニューノーマル時代」に突入するといわれています。
いつ何が起こるかわからない環境に置かれる不安とつらさは、この1年半余り、十二分というほどに経験してまいりました。
先が見えないことほど心細いことはないとの思いで過ごしながら、しかし、逆説的ではありますが、先が見えないから、私たちは課題を乗り越えようとさまざまに工夫をこらし、目の前の課題の解決に努力してきたことは、これまでの歴史が証していることでもあります。仮に行く先の姿がはっきりしていたら、そして、それが過酷なものだと知ったら、私たちは生きる希望を持てないかもしれません。一方で安楽に満ちたものと知ったら、気を緩めてしまうかもしれません。
ニューノーマル時代は過去の経験知が必ずしも生かされない時代ですが、それでも、ただ一つ確かなことがあると思います。それは時代や社会がどれほど流動的であるとしても、いえ、そうであればこそ日々の暮らしに誠実に向き合い、できる努力を惜しまない大切さです。あきらめなければ夢が叶うとは限りません。でも、その時々で最善を尽くし続けていれば、やがて必ず時が証してくれるものがあると私は信じております。
一人の卒業生のことをお話いたします。この夏のパラリンピック水泳に出場した石浦智美さん(33歳)です。石浦さんは視覚障害のある学生で英語コミュニケーション学科を卒業し、現在は伊藤忠丸紅鉄鋼人事総務部に所属されています。
病弱で喘息気味だったことから医師に勧められて水泳を始めたとのことですが、パラリンピックでは50メートル自由形決勝で7位、400 メートル 男女混合リレーで日本新記録を出して5位。これはアジア新記録でした。そして100 メートル自由形決勝では8位の成績をあげました。
石浦さんはNHKのインタビューに応えて次にようにおっしゃっています。
石浦さんが日本代表選手に選ばれるまでの道のりは険しく、この度の出場権は4度目の挑戦で獲得されました。石浦さんの座右の銘は「継続は力なり」だそうです。
皆様はこの恵泉で「生涯就業力」を学ばれました。いつ、なにがあっても、自分の目標を見失うことなく 自分を大切にし、それと同じように周囲の方々を大切にして、社会・地域に尽くすことに生涯、努力をし続ける力です。
「生涯就業力」のルーツは河井道先生の「汝の光を輝かせ」です。
自分だけが輝くのではなく、周囲の方々もまたその人らしく輝けるような光を発せる人になってほしいと願われたのですが、そのためには、まず私たち一人ひとりが自分らしい光を持つ大切さを言われているのだと思います。
河井先生は「まっすぐな狭い道を歩くこと、人々が踏みならした道を行くことに満足せずに、自分自身開拓者となって道を明るく照らしていく者におなりなさい」とも言われました。
人に引きずられず、多勢に組みすることを必ずしもよしとせず、自分らしい生き方を貫くことはけっしてたやすいことではありません。石浦さんも孤独感や焦燥感に幾度も襲われたことでしょう。それでも目標に向かって努力を重ねていれば、必ずや手にできるものがある。それは自分を信じることの確かさではないかと思います。座右の銘は「継続は力なり」だと言う石浦さんの言葉に、私は彼女が自分を信じぬいてきたこれまでの時の積み重ねから恵まれた確かな証を見る思いです。そして、全く同じことを皆様を前にして思っております。さまざまな道筋を通りながらも、あきらめることなく努力を重ね、晴れて今日の日を迎えられた皆様を心からたたえたいと思います。
この先もどうか「時の証し」を信じ、ご自分の道をしっかり歩んでいらしてください。教職員一同、皆様のご活躍とお幸せをお祈りしております。本日はおめでとうございます。