無事、学生たちが社会へと巣立っていきました

2022年03月14日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

すっかり春めいて、あたたかな陽射しに包まれた先週末、学生たちが多摩キャンパスでの学びを終えて、社会に巣立っていきました。
3月10日は卒業礼拝・教職免許状授与式・日本語教員養成課程修了式・草花検定1級合格証書授与式が、3月11日は卒業式・学位授与式が執り行われました。
この学年はコロナ禍の下で厳しい日々を送った学生たちです。それだけに、卒業礼拝で感話を語った学生たちのメッセージには、いつにも増して胸迫るものがありました。また、免許状授与式や卒業式・学位授与式では、証書を受け取る一人ひとりの学生たちの成長した凛々しい姿に胸打たれました。

卒業式・学位授与式は昨年に続いて、今年も感染対策上、ご家族・保証人のご参列は一家族お一人との制限をつけさせていただきましたが、共に巣立ちを見守っていただけたことに感謝の思いです。ここに写真と共に式辞を記して、ご報告とさせていただきます。

式辞「一歩 前へ」

泉女学園大学 学長 大日向雅美

皆さま、学部ご卒業、大学院ご修了、おめでとうございます。
2年余りにわたってコロナ禍に翻弄されるという厳しい環境下にもかかわらず、学生としての学びを全うされて今日の日を迎えられました。皆様のご努力に、深い敬意をこめて心からお祝いを申し上げます。また、ご家族・保証人の皆さまにおかれましては、制約の多い学生生活を余儀なくされたお嬢様を常に励まし支えてくださいました。ご家族・保証人の皆さまと共に今日の日の慶びを分かち合わせていただきますことに、教職員一同、心からの感謝を申し上げます。

学生の皆様の門出を祝して、「一歩 前へ」と題したメッセージを述べさせていただきます。

私は皆様をお迎えした入学式の日以来、どうか幸せに心豊かな人生を送っていただきたいと願い続けてまいりました。そのための確かな力となる学びを提供することが、この恵泉女学園大学を選んでくださった皆様への務めと信じ、教員、職員がそれぞれに尽くしてまいりました。その力とは、恵泉ブランド「生涯就業力」です。

「生涯就業力」とは、この先の長い人生に、何があっても、生涯にわたってご自分らしく生きる目標を忘れず、ご自分を大切にする力。同時に身近な方々、地域・社会のために尽くすことに喜びを見出して生き抜く力ですが、今日、こうして巣立っていかれる皆様を拝見して、私たちが皆様にお伝えしたいと願ったことを確かに受けとめていただけたのではないかという安堵と喜びをかみしめております。自らの人生を確かにする力を手にした皆様に未来を託せる安堵と喜びでもあります。

女性活躍の必要性が叫ばれている今日ですが、それはただ競争社会を勝ち抜くことではないことは、「生涯就業力」について学ばれた皆様にはよくお分かりのことと思います。
「生涯就業力」の原点は恵泉女学園創立者河井道先生のお言葉「汝の光を輝かせ」です。河井先生は、恵泉に集う生徒学生一人ひとりの活躍がこの地球上に生きるすべての人の平和につながることを願われました。
私たちはそれぞれがかけがえのない存在です。自分一人だけが幸せに輝けばよいのではなく、周囲のだれもがその人らしくあることを尊重されて輝けるような光の源になることが、真の女性活躍であることを示されたのです。

女性活躍の発想など全くと言ってよいほどになかった90年余り前に、すでに真の女性活躍を、他者と共に生きるという共生の理念と不可分の関係で願われた河井先生の先駆性が思われます。時あたかも、第一次世界大戦の後、ひたひたと押し寄せてくる世界恐慌の不安の中で女性活躍と世界平和を祈り願われた河井先生の理念は、90年余りを経ても色あせることなく、むしろ、今まさにその真価の発揮が求められています。

ロシア軍によるウクライナ侵攻があまたの市民・民間人を殺傷し、核リスクの拡大、核保有国間の戦争へと発展するかもしれないという恐怖が世界中をかけめぐっています。
平和を破壊する暴挙は人権そのものの破壊であることを目の当たりにして、怒りと恐ろしさに震える思いです。多くの人々が住み慣れた地を追われています。幼い子どもたちがその中に含まれていることに胸つぶれる思いです。

一見、平和が続いているかに思われている日本社会にも、戦争とは異なる形で人権が侵害される問題が山積しています。今なお3.11の苦しみ・哀しみの中に置かれている方々のことを思います。長引くコロナ禍の中で、仕事や住む場を失い、学業を断念し、日々の糧にも事欠く人々が増えています。病や障害のある方々、子育てに悩む親、シングルペアレントの方々の窮状には、目を覆うばかりです。
しかし、これらは必ずしもコロナ禍がもたらしたものではありません。日本社会に長く潜在していた格差と不公平の問題がコロナ禍によってあぶりだされたものが少なくありません。
社会の中で女性が置かれている地位を表す世界的統計であるジェンダーギャップ指数が、日本は世界の中で最下位に近いことはご存知のことと思います。女性の地位の低さは、女性だけの生きづらさではなく、子どもや社会的に弱者の立場に置かれた人々の人権が保障されていないことと同義でもあることを忘れてはなりません。

しかし、世界は、そして、私たちが生きているこの社会は、こうした現状にけっして絶望はしていません。ウクライナの人々を世界中が懸命に支援しようとしています。とりわけ隣国ポーランドの人々がウクライナから移動してくる人々を温かく迎え入れ、ボランティアとして活動している姿が報道されています。人々の共生の前に、いかなる力をもってしても平和はけっして破壊しつくされないと信じたいと思います。

日本でも、貧困や孤独な環境に置かれている子どもとその親たち、海外からの移住者、高齢や病で苦しむ方々のために、各地で人々がNPOや自助グループを結成して活動しています。この恵泉でも、そうした地域活動に学生たちが参画し、力を尽くしていることを大変嬉しく思います。

人が人として生きることが保障されない不条理に立ち向かうことは、たやすいことではありません。でも、それはけっして孤独な闘いでもありません。むしろ、確かな共生の中に、人として生きる喜びと幸せを分かち合えることでしょう。

世界に目を開き、足元の日常に目を留め、正すべきことに声をあげていきましょう。
ロシア軍のウクライナ侵攻が伝えられ、時を待たずして本学の教職員・学生たち有志が、"私たちは、民族、ジェンダー、年齢にかかわらず適切かつ必要な人道的支援が国際的に迅速に履行されることを望み、可能な限り協力していく"という声明を発しました。
真の世界平和構築に貢献する自立した女性の育成を願って河井先生が創立してくださったこの恵泉で共に学びあっている私たちの心からの叫びです。世界のために、また身近な地域・社会のために、声をあげ、できることに力を尽くそうと試みることは、恵泉に学び集う私たちの使命であり、「生涯就業力」がまさにそのための力となることを願います。

さきほど、ご一緒に賛美した「讃美歌557番 み神の風うけ」は、河井先生がこよなく愛された賛美歌です。感染対策上、奏楽のみとなりましたが、この讃美歌の歌詞を皆さまと共に心の中で分かち合いたいと思います。

み神の風うけ 今日、帆を上げ  今こそ私は 旅立ちゆく
逆らう風にも 大波にも  み守り信じて 進みゆこう

何があっても、しなやかに、力強く、前に向かって、一歩踏み出してください。
女性の真の活躍と平和を願われた河井先生のお心を確かに継承した「生涯就業力」を学び、身につけられた皆様が社会に巣立っていかれることは、恵泉に集うすべての者の誇りと希望です。
これからの人生を歩む皆様の一歩一歩が守られますよう、私ども教職員は、いつも、いつまでも皆さまのことを覚え、お幸せを心から願い、祈っておりますことをお伝えして、式辞とさせていただきます。

卒業証書授与
卒業証書授与
式辞 学長 大日向雅美
答辞 卒業生代表
学燈ゆずり 卒業生退場「光よ」

*次回の学長ブログの更新は3/28となります。