先生方から学生の皆様へ~「私のおすすめの1点」~

2023年09月18日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

学生の皆様へ。夏休みも残り少なくなりましたが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか?
今日の「学長の部屋」は、先生方から学生の皆様に向けての「私のおすすめの1点」です。
「本」「映画」「テレビ」「時間の過ごし方」等々とメッセージは実に多彩です。"お一人200~300字くらいで"とお願いしたのですが、どうしても伝えたくてその字数ではおさまらなくて・・・、とのメッセージつきで送られてきた原稿もあって、結果的に長いブログになってしまいました。
先生方お一人おひとりの皆さまへの熱い思いですので、そのまま掲載させていただきました。
お読みになると、思わず書店に駆け込みたくなったり、映画館やおすすめの場所に足を運んでみたくなったり・・・。
まもなく秋学期が始まります。「おすすめの1点」の感想を先生方と話し合ってみていただけたら、それもとても楽しいことでしょう。
皆様が元気に多摩キャンパスに戻っていらっしゃることを心待ちにしております。

有馬弥子(アメリカ文学・文化)

マシュー・ボーンの『ロミオとジュリエット』

男性版『白鳥の湖』で知られるマシュー・ボーン版『ロミオとジュリエット』が来年春日本で上演されることが決定。噂されていた男性ダンサーによるキャスティングではないが、舞台は14世紀ではなく近未来の若者たちの矯正施設、ロミオの親友マキューシオはゲイ、等々、原作からのスリリングな"ずらし"の数々が楽しみなヒット作。
ただし、ケネス・マクミラン振付によるバレエ作品『ロミオとジュリエット』と同様にプロコフィエフの音楽を使っており、そのエネルギッシュ且つ限りなく甘美なサウンドが永遠であり、いかなる斬新な設定をも包含する普遍的な輝きを放ち続けていることを改めて証明するプロダクションでもある。

Dexter Da Silva(教育心理学)

『真実の終わり』 ミチコ かくタニ(著), 岡崎玲子(翻訳)

例のほとんどは米国とヨーロッパのものですが、現在の世界では、日本の若者は、誤った情報、プロパンダ、美しい嘘から身を守るために、本書が焦点を当てている知識とスキルを身につける必要があります。

Ken Fujioka (日系アメリカ人の歴史、言語学)

Looking Beyond the Mask- Nancy Brown Diggs

This book is a collection of testimonials of American women, who are married to Japanese men. The women share experiences regarding their meeting with Japanese men and how they were attracted to them. Some common characteristics of their spouses include: 1. They were individuals who had a passion for learning and attended graduate schools abroad, or were employed in countries outside of their home country 2. They had an outgoing personality thus, they enjoyed communicating with people and, 3. They were respectful of other cultures. Many anecdotes covered facing challenges due to cultural differences dwelling in host and home countries such as learning foreign customs, raising and supporting children, dealing with mother-in-laws and so on. However, as in any marriage, the author concludes that a successful marriage includes "commitment, flexibility, a strong sense of identity, a strong support system, a sense of perspective and an indispensable sense of humor."

"I chose this book so that I could deepen my perspective and teaching of intercultural communication." -

藤田 智 (野菜園芸学)

自然を見つめ、学問を見つめる-牧野記念庭園-

NHKの朝のテレビ小説「らんまん」は、牧野富太郎博士を題材に物語が進められ、まもなくラストを迎えます。みなさんの中には、この番組に刺激されて、近くの植物園、公園、森林公園などを見学されている方もいらっしゃるのでなないでしょうか?今回、みなさんにおすすめいたしますのは、まさに、牧野富太郎博士の邸宅跡地、「練馬区立牧野記念庭園」です。西武池袋線の大泉学園から徒歩で5分です(入場料無料です)。そこには、牧野富太郎博士が収集した約300種類もの草木が生育し、学問的にも貴重なものと評価されています。また、牧野博士が、使われていた書斎と書庫などが当時の姿を想像させてくれます。みなさんのご覧になったテレビの様子が、実際に知れる素敵な庭園です。一度、見学してみませんか?

樋口幸男(花卉園芸学)

私からはテレビ番組を一つご紹介させていただきます。それは、毎週土曜の夕方6時からテレビ東京で放映されている「知られざるガリバー~エクセレントカンパニーファイル」です。2017年から放映されている経済ドキュメンタリー番組で、製造業を中心とした日本の優良企業を紹介する番組です。就活生に「日本には世界に誇れる素晴らしい企業が沢山あることを知ってもらいたい」という想いで作られた番組で、リポーターも女子大生が務めています。取り上げられた企業や業界への関心の有無に関わらず、各企業がどのように強みを作り出しているのかを知ることができる、とても勉強になる番組ですので、是非ご覧ください!

広田叔弘(キリスト教)

『あの世のこと ~死の意味と命の輝き~』 鈴木秀子著 2017年 宝島社

皆さんは、「あの世のこと」を考えたことはありますか。生きていることが辛くなる日があります。愛する人を天に送る日があります。「死んだらどうなるの?」「今、生きているってどういうこと?」このようなことを考えることがあると思います。
紹介した書籍は、そのような私たちの思いに寄り添うものです。あの世に少しの光を照らし、この世を生きる私たちに安心と希望を与えてくれます。鈴木秀子さんはカトリックのシスターです。聖心女子大学で長く教えていました。宗教の違いを超えて、人の現実に暖かいメッセージを送り続けています。

稲本万里子(日本美術史)

私のおすすめの1冊は、平凡社から11月に刊行される『太陽の地図帖』シリーズの『大和和紀『あさきゆめみし』と源氏物語の世界』(仮題)です。この本に「日本美術史から読み解く 物語の空白を埋める創作シーンと、読者へのメッセージ」というエッセイを書きました。私のエッセイでは、葵の上(1)、六条御息所(2)、紫の上(3)を取りあげたゼミ生の卒業論文を紹介しています。数ある『源氏物語』を題材にした漫画のなかでも比較的原作に忠実だといわれる『あさきゆめみし』ですが、『源氏物語』と比較することで、さまざまな違いが見えてきます。みなさんの先輩たちが『あさきゆめみし』をどのように分析したのか、ぜひ読んでみてください。紙幅の関係でエッセイには取りあげることができませんでしたが、『恵泉アカデミア』には、女三の宮(4)、浮舟(5)を取りあげた論文も掲載されています。

  1. 村上七海「葵の上という女性―『あさきゆめみし』ではどう描かれたのか―」『恵泉アカデミア』12、2007年12月。
  2. 吉田知聖「『あさきゆめみし』における六条御息所の描かれ方―少女漫画的な人物造形―」
    卒業論文、2022年12月提出。
  3. 清水千絵「『あさきゆめみし』における紫の上―その苦悩と人生観―」『恵泉アカデミア』6、2001年12月。
  4. 佐藤彩「『あさきゆめみし』における女三の宮のキャラクタライズ」『恵泉アカデミア』15、2010年12月。
  5. 吉田有美香「『あさきゆめみし』における浮舟像―求められる〈人形〉からの脱却―」『恵泉アカデミア』23、2018年12月。

生田裕二(英語教育学)

映画"Away from Her"(邦題「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」)

2006年公開。以下、あらすじです。

主人公は元大学教授のグラントとその妻フィオナという老夫婦。二人は幸せな結婚生活を送ってきたが、ある時、フィオナがアルツハイマーだと診断され、彼女は自ら養護施設で暮らす決意をする。44年共に暮らしてきて初めて、別々に生活することになった2人。そして1ヶ月後、面 会に訪れたグラントは、フィオナが夫のことを忘れて、同じ施設で暮らす、車椅子に乗った男性オーブリーに好意を寄せていることを知ってしまう...。アルツハイマーという病に冒され徐々に夫を忘れていく妻、そして必死に妻の気持ちを取り戻そうとする夫。愛する妻のために、夫がとった究極の決断とは...。

当時私は映画館でこの作品を観ました。一見「老いる」ことをテーマにしたように思われる内容ですが、それ以上のメッセージが込められていると思います。まだ若い学生のみなさんにはピンとこない部分もあるかもしれませんが、若い時だからこそ観て「何か」を感じてもらいたい映画です。

岩佐玲子(教育学)

アレン・ネルソン著『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」講談社文庫 2010年

「ほんとうの戦争は無慈悲で残虐でおろかで、そして無意味です。
わたしは、その無慈悲で残虐でおろかで無意味なベトナム戦争を戦った一人の兵士です。あなたに、本当の戦争とはどういうものか、これから話すつもりです。わたしの名はアレン・ネルソン。ニューヨーク市生まれのアフリカ系アメリカ人です。(「はじめに」より)」

ベトナム戦争から帰還して、ホームレス生活をしていたネルソンさんは、ある日地元の小学校の教室で子どもたちに戦争体験を話すことになります。4年生の女の子から発せられた「運命的な質問」。彼の身体はこわばり、目を開けていられなくなります。彼の心に何が立ち現れたのか。彼の生き方はどう変わったのか。今だからこそぜひ読んでほしい一冊です。

喜田安哲(認知科学)

私のお勧めは、「お散歩」です。できれば、あまり人が多く歩いてない道がよいでしょう。他の人に合わせて自身の歩調を調整しなくてよいからです(笑)。つまり、自分の心地よいペースで歩くとよいのです。少し汗ばむぐらいがちょうどよいです。30分~1時間ぐらい歩くとよいでしょう。
あと、「ぐっすり寝られる」といいですね。人は日常、重力に抗して、しかも二足で立ち動いています。なので、寝るときにもう一枚の掛布団を足の下に敷き、足を高くして寝るといいです。背中も敷布団により密着するので、背中の疲れも取れやすいでしょう。そんな「お散歩」と「睡眠」で健やかになって、先生方の「お勧め」に楽しく取り組んでみてください!

菊地牧恵(生活園芸)

モーリス・ドリュオン作、安東次男訳 『みどりのゆび』 岩波少年文庫、1977年

もう15年以上前になりますが、恵泉女学園大学の卒業生でもある友人が、私の誕生日に1冊の本をプレゼントしてくれました。「植物がたくさん出てくる心がなごむ本」だからと、手渡されたのは、花を咲かせることのできる不思議な「みどりのゆび」をもつ少年チトの物語でした。
あるときチトは、バジー国とバタン国の間で石油をめぐる戦争が起こっていることを知ります。しかも、自分のお父さんが兵器を作る人で、それをバジー国とバタン国双方に売って儲けようとしていることも。チトの気持ちは?チトがとった行動は?久しぶりに読み返し、心は熱くなりました。

栗田奈美(日本語教育)

『誰も知らない世界のことわざ』エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳、創元社、2016年

「ロバにスポンジケーキ」ということわざがポルトガル語にあるそうです。どんな意味か分かりますか? これは『新約聖書』のマタイ伝7章6に由来する "To cast pearls before swine."(豚に真珠)や、日本語の「猫に小判」と同じ意味だそうです。ことわざは私たちの日常生活の中の体験的な知恵に基づくものが多いため、世界中に似たことわざが見られる一方、そこに使われる語彙は文化(言語)固有であることが多いようです。この本には世界の51のことわざがきれいなイラストとともに収録されており、文化や言語の違いを楽しむのにぴったりです。ぜひ読んでみてください。同じ著者による『翻訳できない世界のことば』もおすすめですよ。

丸橋亮子(保育学)

私のおすすめの1点は、「子どもの遊び観察」です。
学期中は大学で過ごす平日日中に時間がある夏休み。例えば、公園の近くを通ったとき、テーマパーク等に出かけたとき、おもちゃ売り場の遊びスペースを目にしたとき等・・子どもたちがどのように遊び何を楽しんでいるのか、少し目を留めさせていただきませんか?(怪しくないように距離をとって、笑顔で少しの時間だけ)。「社会の課題を発見しよう」と重く考えなくて構いません。「大学生の日常」で接する機会の少ない世代の人の世界に目を向けることで、自分の子ども時代を思い出したり、新たな発見をしたり、普段と違う心の動きや気付きを楽しんでみてください。

Germain Mesureur(English)

Switch off your phone and go enjoy a nature walk.
Walking in nature without the constant distraction of a smartphone can offer a multitude of benefits for both mental and physical well-being. Firstly, it allows individuals to fully immerse themselves in the natural world, fostering a deeper connection with the environment. This sense of connection can lead to reduced stress levels and increased feelings of calm and tranquillity. Nature has a remarkable ability to soothe the mind, and without the interruption of notifications and texts, walkers can truly appreciate the sights, sounds, and smells of their surroundings.
Moreover, disconnecting from a smartphone during a nature walk encourages mindfulness. People become more attuned to their own thoughts and feelings, enhancing self-awareness and introspection. This mental clarity can lead to greater creativity and problem-solving abilities, as well as improved mood and mental health.
Physically, walking in nature is an excellent form of exercise. It promotes cardiovascular health, strengthens muscles, and aids in weight management. When done without the distraction of a smartphone, it allows individuals to focus on their physical movements, improving balance and coordination. It's an opportunity to engage all the senses, from feeling the crunch of leaves beneath one's feet to the gentle touch of a breeze on the skin.
Additionally, nature walks without smartphones encourage social interaction. When people walk together and engage in conversation without the lure of screens, they can build stronger relationships and deeper connections with one another. This social aspect contributes to overall well-being and a sense of belonging.
In conclusion, walking in nature without a smartphone offers a multitude of benefits, including stress reduction, enhanced mindfulness, physical exercise, and improved social connections. By disconnecting from the digital world and immersing oneself in the natural one, individuals can experience a profound sense of well-being and a deeper appreciation for the beauty of the outdoors.

水上晃実(教育学)

重松清『おくることば』(新潮文庫、2023年)

この作品には、小説家でありながら、教師として早稲田大学で講義をされている重松先生が「しげゼミ」を通して学生たちにおくった熱いメッセージが収録されています。今夏に発売された本書に登場する大学生たちは、ちょうどみなさんと同じ学年です。コロナや戦争といった不穏な出来事を同年代の学生たちがどう捉えたのか、そして、重松先生は彼らにどのようなメッセージをおくったのか。「しげゼミ」の登録学生は2学年で40人だそうですが、書中には「この連載は、41人目のゼミ生に語るものにしよう。」とあります。「出席番号41は、年齢も性別も国籍も、あらゆるものが不問。」とのこと。みなさんも恵泉のゼミとWゼミのつもりで、「しげゼミ」出席番号41番のゼミ生になってみませんか?

桃井和馬(国際関係 メディア論)

Andrea Bocelli - Amazing Grace: Music For Hope (Live From Duomo di Milano)
4分57秒のYouTubeの映像

2020年4月時点の先が見えない不安をどれほどの人は覚えているでしょうか? 正体不明の新型ウイルスが世界を席巻し始めていた当時、世界各地から爆発的に延びる感染者数・死者数が、壮絶な集中治療室での映像と共にテレビやネットで配信され続けていたのです。
世界最高峰のテノール歌手と称されるアンドレ・ボチェッリ氏が、ゴチック建築の頂点とも称されるミラノ大聖堂の前に立ち、賛美歌「アメージング・グレース」を独唱したのはそんな時でした。

1番 Amazing grace, how sweet the sound That saved a wretch like me. I once was lost but now am found, was blind but now I see.(驚くべき神の恵み。私のような者を救ってくださった美しい響き。かつて迷っていた私は、しかし救い出された。ものが見えていなかった私も、今はしっかりと見えています)桃井訳

18世紀後半、奴隷商人から牧師になったジョン・ニュートンが、過去を深く悔い、同時に本当に大切なものを知ることができた喜びに溢れた内容で、世界で最も親しまれている賛美歌として歌い継がれているのです。

ボチェッリ氏が歌っている合間に流されているのは世界14都市の映像です。どの都市でも人の姿がほとんどありません。世界が同時代の経験として、底なしの不安に凍えていた。そうした人影が消えた都市の姿こそ、2020年の4月だったのです。
この映像はYouTubeのストリーミング配信史上最多の280万アクセスに達し、アーカイブは今も再生回数を増やし続けています。

さて、映像の中でボチェッリ氏は、1番の歌詞を最初と最後に2回繰り返しています。そこにこそ彼自身がこの歌に込めた思いがあるのです。ボチェッリ氏は、12歳の時のケガが元ですべての視力を失った方だからです。

賛美歌の中で「Amazing grace」のgraceとは、単なる恵みではなく、「人間の想像を越えた恵み(=恩寵)」という意味のキリスト教の用語です。そして、これこそが恵泉の「恵」の意味なのです。
私たちはこの大学で出会い、この大学で学びを続けています。この出会いこそ、人間の思いを遥かに越えた恩寵に他ならないと、私自身日々感じているのです。

中村晋吾(日本近現代文学)

今村夏子『むらさきのスカートの女』(朝日文庫、2022年)

教員陣の中では「若手」に位置するはずの私がこのようなことを言うのは妙なことかも知れないが、みなさんと同じ二十歳前後の頃、自分が毎日どんなことを考えて生きていたのか、実のところよく覚えていない。ただどういうわけか、はたから見るほどの余裕はなく、「まともに生きていく」ということが覚束ない生活をしていたような覚えが、漠然とある。もしかすると多くの人もそうなのに、そういう危なっかしい時期のことというのは、忘れてしまうものなのかも知れない。
今村夏子が書く小説に出てくる人物は、どこか、そういう頃の自分のことや、実は周りにもいるかも知れない同じような存在に、思い至らせてくれる。

永井文也(先住民族研究)

東京大学立花隆ゼミ・立花隆『二十歳の君へ 16のインタビューと立花隆の特別講義』文藝春秋、2011年。

年齢を区別しなくても、だれしもいろいろなことを思い、考え、悩んでいるかもしれません。でも、「二十歳」というのは社会的にも重要な1つのポイントにもなってきた、そんな年齢だと思います。少し人生の先を生きる人々はその年齢を思い返したとき、「二十歳」の人々に向けてどんな言葉を投げかけるだろう。
この本では、「二十歳」の大学生自身がいろいろな人から「二十歳」に向けた話を聞き、それらをまとめています。もしかしたら、みなさんのこれからの人生のヒントになる言葉もたくさん散りばめられているかもしれません。

野崎有以(家政学・文芸創作)

五木寛之「浅の川暮色」

五木寛之「浅の川暮色」をおすすめします。金沢を舞台とした五木寛之さんの作品です。新聞記者と芸者の少女との恋が描かれます。人間の持つ強さや狡さ、そして抒情が時間を超えて交錯します。金沢特有の温度や湿度、そして匂いを感じることのできる作品です。短い期間でも金沢に住んだことのある方ならおわかりになるかと思いますが、金沢のどの季節にも漂う冷たく澄んだ空気、控えめなぼんやりとした灯りが文章の底に流れます。何度読んでもラストに訪れる静寂には息を呑みます。言葉が途切れてからもこの小説に手を放してもらえないような気さえします。何か強い力に引きずられて、人間の心の闇に辿り着いたような感覚にとらわれる作品です。文芸創作に取り組む皆さんには言葉だけでなく、こうした言葉にはならないけれど人の心に強烈にうったえかけるような表現についても考えていただけたらと思います。※五木寛之『冬のひまわり』(ポプラ文庫、2008年)等で入手可。

越智健太郎(英語教授法)

今井むつみ、秋田喜美『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか 』中央公論新社、2023年。

本書では、日常生活で頻繁に使用されるオノマトペ(擬音語や擬態語)を研究の起点として、人がどのように抽象的な言語体系を獲得するかについて解説しています。例として「コロコロ」と「ゴロゴロ」を考えてみてください。どちらが大きな物体が転がる様子を表現していると思いますか?多くの場合、「ゴロゴロ」と答えるでしょう。日本語のオノマトペでは、濁音の子音は、より大きな規模や度合いを示す傾向にあります(例:「トントン」対「ドンドン」、「カラカラ」対「ガラガラ」)。このように、オノマトペは人間の認知と言語習得において「接地面」を提供し、重要な役割を果たしていると本書では強調されます。さらに、高度な抽象的言語の習得過程において、「アブダクション推論」が紹介され、人が多くの仮説を生成し試行錯誤を経て言語を習得するという観点が紹介されています。読み応えがありつつも手に取りやすい一冊ですので、ぜひご覧ください。

李 泳采(国際政治)

K-POPの聖地・新大久保のコリアタウンで「関東大震災朝鮮人虐殺100年企画展」開催中

2023年9月1日は、東京や横浜を中心に甚大な被害をもたらした1923年9月関東大震災が発生した100回目になります。当時、大震災の混乱の中で「朝鮮人や共産主義者が井戸に毒を入れた」というデマが流れ、それを信じた官憲や自警団などが多数の朝鮮人や中国人、共産主義者などを虐殺した事件が発生しました。朝鮮人虐殺が起きた背景には何があったのでしょうか。そしてその事実はなぜ今も明らかになっていないでしょうか。K-POPの聖地・新大久保のコリアタウンにある高麗博物館では、「関東大震災100年ー隠蔽された朝鮮人虐殺」を企画展示しています。期間:2023年7月5日(水)~12月24日(日)、時間:12:00 ~17:00 (月・火曜日を除く)、入館料:一般 400円(中高生 200円)。100年の記憶と歴史を継承し、犠牲者を追悼する時間をもってみるのはいかがでしょうか。(高麗博物館HP

高麗博物館初公開
淇谷 「関東大震災絵巻」より

坂井 誠(経済学)

おすすめの1点は、あえて「ラジオ体操」にします。「あえて」と付したのは、私自身何度か習慣にすることを試みながら、見事に失敗を繰り返してきたからです。ラジオ体操が適度な運動として身体によいことは、改めて論じるまでもないと思います。朝、早起きの習慣を身につけるのにも適しています。ところが、ラジオ体操を毎日実行するとなると、なかなか難しい。特に、週末などはなまけてしまいがちになるでしょう。私は今では、できるときにすればいいんだと割り切っています。そうすると、案外うまくいくようです。通学の時間に差しさわりのない方は、試してみてはいかがですか。

澤田みどり(園芸療法)

本学の公開講座で長年講師を務めてくださっている写真家のおちあいまちこさんが、聖書の言葉に花の写真を添え、いのちのことば社から出版されている『きぼうの朝』『なぐさめの詩』(2015年)をお薦めします。小さな30ページほどの冊子ですが、聞きなれた聖書の言葉が優しい花に包まれてす~っと心の中にしみわたる思いがします。疲れた時、迷った時などふと手にして元気をいただいています。その他、『小さな花たち』(本嶋美代子詩)という日めくりカレンダーも身近な四季折々の花がとても優しく撮られていて、心を癒してくれます。

佐谷眞木人(日本古典文学)

瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書、2015年)

近年、マンガ・アニメの『ゴールデンカムイ』のヒットや、北海道白老町に建設された「ウポポイ」などによって、アイヌ文化への関心が高まっています。この本は、アイヌとはどのような民族かを分かりやすく解説しています。この本を読むまで、私もアイヌは狩猟採集民族だと考えていました。「自然との共生」といった表面的な理解にとどまることなく、アイヌの歴史と深い精神性に関心を持ってほしいと思います。ぜひ、『ゴールデンカムイ』も読んでください。丁寧な考証に基づいたマンガですので、アイヌ文化に対する理解が深まると思います。

笹尾典代(宗教学)

常々、授業でも学生の皆さんにお薦めしているのがNHK『100分de名著』というTV番組(毎週月曜夜10:25~10:50放送)のとくにNHKオンデマンドでの視聴です。古典から近現代の各種文学作品はもとより、哲学書・ノンフィクション・学術書からなんと神話や宗教の聖典(教典・経典)まで「誰もが一度は読みたいと思いながら、なかなか手に取ることができない古今東西の名著」を毎月25分×4週=100分で、どんな難解な書もとても楽しく分かりやすく読み解いてくれます。NHKオンデマンドであれば2011年放送開始以来、取り上げられた約150冊余の名著すべてが視聴できます。是非、夏休みなど少し時間に余裕がある時にまずは興味がもてる一冊から視聴してみてください。有名すぎて今さら中身を知らないとは言えない一冊、今まで知らなかった、世界に大きなインパクトを与えた一冊などなど、そこには必ずや皆さんの世界を拡げてくれる新たな出会いがあるはずです。そして偉大な先人たちのことばや知に、きっと、この困難な時代を生きるためのヒントを得られるでしょう。

関本恵美子(パイプオルガン)

「チャペルコンサートへのお誘い」

「芸術の秋」と言われる通り、秋は様々な場でコンサートが行われます。素敵な音楽に包まれると、心が潤い、たっぷりと栄養をいただいたような気持ちになることでしょう。恵泉女学園大学のチャペルは、国内屈指の豊かな響きと素晴らしい音を奏でるパイプオルガンがありますが、その暖かく、優しい音が紡がれると、全身がその音に包まれるような思いに満たされます。
学内外の皆様に、恵泉ならではの音をお聴きいただき、豊かな時をすごしていただきたいとの想いで行っているチャペルコンサートを、来る11月11日(土)14:00より開催いたします。本学の学生には学生招待券を差しあげますので、ぜひいらしてください。
チャペルコンサート

志賀里美(日本語教育)

夏休み、いろいろなところへ行き、日本や日本語について疑問を持った人もいるのではないでしょうか。私も先日、海外インターンシップでタイへ学生と行き、日本人はどうしてそういういうことをするのですか?」「こういう場合はどのように教えるといいのでしょうか?」という質問を受け、質問を受けながら、久しぶりに私にもそういった時期があり、そのときに読んだ本を思い出しま した。
『もしも...あなたが外国人に「日本語を教える」としたら』です。授業とはまた違った視点からの説明で、「目から鱗」となること、間違いないです!そもそも、日本語を教える仕事って?と疑問に思った人には「ドク」や『日本人も知らない日本語』がお勧めです!

鈴木真子(生涯就業力)

『世界は貧困を食いものにしている』ヒューシンクレア著 大田直子訳 朝日新聞出版2013

衝撃的なタイトルに、おどろきを感じる方もいらっしゃると思います。
現在SDGsについて議論をする機会がある中で、貧困やジェンダーの問題は環境問題に続いて大事な課題です。
この本は少々古いのですが、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士が創設したグラミン銀行をはじめ、世界の主要な小口融資を実施しているマイクロファイナンスのしくみについて疑問を投げかける著書です。
これらの現場で働いてきた著者=ヒューシンクレア氏が、その悲惨な現状を、豊富な実例をもとに告発した衝撃のノンフィクションです。
巧妙な言葉に踊らされ高金利で貸し付けを受ける各国の貧しい女性たちや、世界の大金持ちが実態を知らずに融資や寄付をしている現状に改めて深く考えさせられる一冊です。

高橋清貴(国際協力論)

恵泉女学園の「花と平和のミュージアム」をおすすめします。
恵泉にミュージアムがあることを知っていましたか?小さいキャンパスのため常設展示は行っていませんが、平和、園芸、そして河井道に関するすぐれたコレクションをたくさん保管しています。特に、観て頂きたいのは武田美通の鉄の造形作品と写真家・福島菊次郎の写真パネルです。概要はこちらに説明があります。
普段は、特別な部屋に保管をしていますが、恵泉の学生はいつでも観ることができます。ぜひ、私(国際社会学科教員・髙橋清貴)まで声をかけてください。

髙橋睦子(福祉政策・北欧地域研究)

カズオ・イシグロ『クララとお日さま』土屋政雄訳、早川書房

AI(人口知能)はますます身近なものになっていますが、この作品はわたしたち自身の人間らしさや成長の意味を問うています。クララというAF(Artificial Friend、お友だちロボット)と少女ジョジーは、皆さんに近い年代の主人公たちです。彼女たちの生きざま、家族・人間関係、試練、挑戦のストーリーは皆さんを「楽しい思索の旅」にいざなうでしょう。ノーベル文学賞受賞作家という肩書きに重い響きを感じるかもしれませんが、読みやすい文章です。先入観にとらわれずぜひ読んでください。

高濱俊幸(イギリス政治思想史)

世界中に多くのファンを持つ『ハリー・ポッター』シリーズと同じく、イギリス発のファンタジー作品に『ロード・オブ・ザ・リング』があります。原作の小説が1950年代に発表されてから、実写版映画が登場するには半世紀近くを要しました。物語の壮大なスケールのため映像化が困難だったとも言われています。
主人公が不思議な力を備えた指輪を手にしたことから始まった冒険の旅は、やがて熾烈な戦いへと発展していきます。一連の戦いを通して、正義は暴力に勝るのかが問われています。
原作者J・R・R・トールキンは自ら戦争を経験していて、そのときのことが作品に暗い影を投げかけているように感じます。伝記的映画『トールキン 旅のはじまり』(2019)も併せて鑑賞してみてください。

谷口稔(日本思想)

映画「ローマの休日」主演:オードリー・ヘプバーン/グレゴリー・ペック

あまりにも有名な古典的名作。ヨーロッパ周遊中の某小国の王女アンが、侍従がつきまとう不自由な生活に耐えきれず、滞在中のローマの大使館から抜け出して、偶然出会ったアメリカ人新聞記者とローマでの生活を楽しむというストーリー。「真実の口」のところでの名演技は映画史に残るものであった。思わず笑ってしまう場面が多々あり、テーマとしても「主体的自由」や「新聞記者としてのスクープよりも大切なものがある」という点は深いものを感じる。映画全体に第二次世界大戦後の明るい人生観、解放感が溢れている。1953年制作で、今年でちょうど70年、映画館でも上映されている。

常葉美穂(教育哲学)

英語リスニングのトレーニングを始めてみる、というのはどうでしょう?私のお勧めは、Kendra's Language SchoolというYouTubeチャンネルの「短いけど聞き取れない、英語のリスニング特訓 - リンキング(音の繋がり)練習」という動画。英語が聞き取れない原因の1つは、前後の単語が繋がって発音される「リンキング」にありますが、リンキングを含む速い音声→1つ1つの単語をはっきり読む音声→日本語訳→再度速い音声、と繰り返し聞いていくうちに、例えば「ライキッ」という音が"like it"だと認識できるようになって行きます。TOEICのスコアを伸ばしたい方にも大変お勧めの動画です。

宇野緑(キリスト教教育学)

私からは「スポーツ観戦」をお勧めします!
この夏は高校野球に始まり、陸上、サッカー、バスケットボール、これからはラグビー、バレーボール!特にチームプレイでは学ばされることが多くあります。勝敗だけが重要ではなく、選手の皆さんが仲間とどうつながっているか、敵対する相手とどう向き合っているか等...。世界レベルの選手たちの顔の表情、動き、言葉かけ、全てをしっかりと見つめてみてください。スポーツを通して見える「つながり」から、私たちが暮らす社会に照らし合わせてみると、生きるヒントが溢れていませんか?自分の良さ、仲間の良さを生かしつつ、受け入れあう。そして応援を通して心を熱くしてみましょう♪

漆畑智靖(アメリカ政治経済)

ピュー研究所(Pew Research Center)のウェブサイト

アメリカ社会のトレンドや人々の意識について具体的なデータや世論調査によって確認したい場合は、アメリカに拠点を置くピュー研究所(Pew Research Center)のウェブサイトの記事をみてみるとよいと思います。特に、移民や人種問題といった各種の社会問題について、所得や人種、性別、宗教などの様々な背景のアメリカ人が何を考えているのか知ることができます。英語のウェブサイトですので、英語の勉強にもなるでしょう。
ピュー研究所(Pew Research Center)

楊 志輝(国際政治)

おすすめの1点(「ふむふむ先生」にふれてみませんか?)
皆さん、「ふむふむ先生」のこと、ご存じでしょうか。昨年の春から登場し、大学の公式SNSアカウント一覧にも顔を出しています。

皆さんの愛する恵泉女学園大学のことを一人でも多くの人々に知ってもらいたく、教職員や在学生の有志が毎週木曜日楊研究室に集い、楽しく交流しつつ様々なトピックを考案し、自らも出演するショート動画を制作して、InstagramなどのSNS(https://lit.link/fumufumusensei)で恵泉教育の魅力を発信し続けています。学生自ら制作したキャラクターは、昨年の恵泉祭にフォトスポットとして登場し、また今年のスプリングフォーラムではプリントクッキーとして人気を博しました。さらに、先般のサマープログラムの日本語授業でも活躍していました。ぜひSNSで検索して恵泉の魅力にふれてみてくださいね。11月の恵泉祭に向けて秋学期もインターナショナルサークル(IC)の皆さんが「ふむふむ先生」と活動を続けていきますので、皆さんも学年・学科・世代・文化などを超えた交流活動の醍醐味にふれてみませんか。

2022年11月恵泉祭でのフォトスポット
2023年5月スプリングフォーラムでの
プリントクッキー