ゆるやかな共生と他者への関心と
2024年04月15日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
先週から2024年度の春学期がスタートいたしました。その2日目の4月9日、2年生必修科目「生涯就業力STEPⅢ」開始にあたって、学生たちに話をする機会を持ちました。
「生涯就業力STEPⅢ」のテーマは"他者との出会い~他者と学び、分かち合う力をつける~"です。受講生たちは、1年生の時に「STEPⅠとⅡ」で、恵泉で学ぶ意味を考え、そのために、まず"自分を知り、自分の生き方を考える"ことを学んだ学年です。そのうえで、今年度は"他者との出会い"についての学びを始めるにあたって、私は"ゆるやかな共生"と"他者への関心の大切さ"の2点について話をいたしました。
まず1つ目。今、そしてこれからの時代を生きる学生たちにとって、他者との出会いは、多様化の中での出会いであり、"共生"が重要なキーワードとなると考えられます。
でも、「いきなり"共生"ではない。"共生"の前にまず"共存"のステップを踏むことが大切」。これは住民約4500人のうち約6割が外国人という団地に暮らし、人びとの交流に心を砕き、互いに理解しあえる地域づくりに尽くされた岡崎広樹氏(元・芝園団地自治会事務局長)の言葉です。
外国籍の方との関係に限らず、他者との関係には常に文化や価値観等の相違に遭遇します。従って、「いきなり"共生"を求めるのではなく、むしろ、人としての関係をどう築くか、互いに穏やかに暮らしあう"共存"が大切。それはつまりは人間関係の根本的な問題だ」として、"ゆるやかな共生"のあり方を説く岡崎氏の言葉には、長年の現場経験から紡がれた重みが感じられます(『アイユ』 Vol.394 参考)。
"共存"を礎にした他者との"ゆるやかな共生"を築くうえで欠かせないものとして、私は2つ目として、"他者への関心の大切さ"があると思います。
これはこのほど刊行された雑誌『野鳥』(2024 3・4)で、「日本野鳥の会」会長の上田恵介氏との対談から学んだことでした。
上田氏との対談は「NHKラジオ子ども科学電話相談」でご一緒したことがご縁でした。
鳥の生態を子どもたちに実に楽しそうに語っているお姿が印象的で、幼少期からさぞ鳥がお好きだったかと思いましたが、必ずしもそうではなかったとのことです。生き物全般がお好きで、特別、鳥が好きだったわけではなく、大学・大学院時代は虫を研究されていたとのことです。ただ鳥は個性が豊かで、個性が豊かだとそれだけ行動が複雑になって"おもしろい!"このおもしろさが今日まで鳥の研究に没頭してこられた理由だとうかがいました。
私の専門は発達心理学ですが、私も人間や子どもが単純に好きとは言い切れません。
苦手な人もいますし、子どものすべてが純粋無垢とはかぎらないこともあるように思います。それでも人や子どもの行動が"おもしろい"と思って研究を続けてきました。
心理学は「行動を科学する」(Science of Behavior)学問で、人の行動の「なぜ」を問い続けることを旨としています。その点で上田氏ととても共感して、対談を始めることができました。
実は私は鳥が苦手だったのですが、対談に際して上田氏が贈ってくださったご高著『一夫一婦の神話~鳥の結婚社会学』を拝見して、鳥の"おもしろさ"を知り、とても興味深く鳥を見ることができるようになったことも、対談の成果の一つです。
この先、学生たちがいろいろな人と豊かな出会いを重ねることを祈りつつ、以上の2点を、「生涯就業力STEPⅢ」開始の冒頭で学生たちに話をする機会を持ったことをご報告させていただきます。
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