学生たちのメンターとなる本について
2024年05月13日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
ゴールデンウィークも終わって、学生たちも再び落ち着いて勉学や学生生活に励む日が戻ってきました。今日はそんな学生たちに向けた図書館の特集(「図書館報54号」)、「わたしの『メンター本』」についてご紹介させていただきます。
メンターとは、ギリシャ神話に登場する賢者「メントール」が語源。賢明で経験豊かな助言者として、メンティ(被支援者)の成長・発達を助ける働きをする人を指します。
さて、特集を手にして、巻頭に掲載されている中村晋吾先生の(日本語日本文化学科)の記事が目に留まりました。中村先生は日本近現代文学が専門です。私とは専門領域は異なりますが、私も学生時代から大好きな領域で、先生の宮沢賢治研究など、授業見学の折にいつも大変興味深く聴講しております。
今回、先生が勧めるメンター本はぜひ学生たちに読んでもらいたいと共感いたしましたので、ここに紹介させていただきます。
『読書の方法 : なにを、どう読むか』 吉本隆明著 光文社 2001年
今の学生は本を読まないとよく言われるし、文学について授業をしている感じからしても、実際にそうだと思う。特に、具体的な情報を調べるのではない、目的を持たない漫然とした読書をする習慣のある人は、かなり減っている。これを若者の怠惰やスマホ依存などの問題などのせいにしてしまうのは簡単だが、どうもそれだけでは割り切れないものも残る。
私が小説とか文学というものに興味を持って読み始めたのは中学生の終わりのころだったと記憶している。この時期の「読書」というのは、それまでのそれとは根本的に異なっていて、「陳腐な日常からは想像もつかない認識や世界が描かれているのではないか」といった期待感、あるいは一種の渇望感によるものだった気がする。これは裏を返せば、日常生活や周囲の大人たちの話に心底飽き飽きし、そういうものから隔たった世界を無意識に求めていたということなのかもしれない。
ということは、現代の学生は現状に満足し、周囲の大人に不満などなくなったのかというと、やっぱりそういう話でもないように思う。ひょっとすると、YouTubeやSNS上にいるような、いわゆる「推し」や「アルファ」の存在の発言が、そういうものの代替役を果たしているのではないかと思えることもある。どうにも、頼りなさげな代替だが......。
とはいえ文学者としての私は、日頃から本や小説を読んでいるようなタイプではない人に向かってこそ、語りかけていかなければならないように思っている。それは表題に挙げた書物の著者・吉本隆明から、自分が受け継いでいこうと思っている態度である。
中村晋吾(日本語日本文化学科 教員)
*なお、ここに記載されていた他の本は次の通りです。併せてご覧いただければ幸いです。
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