私の書棚 その3
2007年10月15日
「読書と記憶」
この文章を書くために、どういう本を読んできたか思い出していました。
小学校の高学年の頃は、吉川英治のファンでした。中学生の頃は、新田次郎や北杜夫。作家を思い出すことで、その頃の自分が甦ります。
読書の原体験として強烈な印象があるのは、小学校2年生のときに読んだ、古田足日の『モグラ原っぱのなかまたち』です。
小学生の4人組は、ある日探検をしていて原っぱを見つけます。そこは子どもたちの聖地となり、様々な遊びや事件が繰り広げられる。しかし、最後に団地の造成のために原っぱが失われてしまいます。子どもたちは、座り込んで必死に抵抗しますが、当然ながら敗れます。
小学校2年生の私は、子どもたちの抵抗は絶対に正しいと思いました。
この作品が書かれたのは、高度経済成長に伴って、乱開発が行われた時代です。私は子どもながらに、私たちにとってかけがえのない世界が、「発展」や「豊かさ」のために失われていく時代の流れを感じていたのだと思います。
でも、たとえ現実の「モグラ原っぱ」が失われても、誰も子どもたちの心から、記憶まで奪うことはできません。
私は、失われた世界の美しさを記憶し続けるために、本を読み続けているのかもしれません。
日本語日本文化学科 准教授 佐谷 眞木人
担当科目;日本文学史I、日本文学研究I(古典文学)他