2009年9月
私が最近気になること その5
2009年09月28日
「未曾有」職業柄、「大学」に関する新聞記事には必ず目がいきます。少子化にともない受験者層が減る一方、大学は増えました。その結果、大学進学率は50%を超え、私立大学の約45%は定員割れとのことです。そのような状況の中、大学は受け入れた学生をどのように育てていくのかが問われています。
恵泉は5年前に学部改変を行いました。その第一期生がこの3月に卒業を迎えたのですが、実は私が所属する人間環境学科ではこれまでにない多くの留年者を出してしまいました。改変に伴う定員増加に教職員が対応できる態勢になっていなかったのだと思います。その後入学した学生たちは順調に単位を取っているようなので留年者は激減するだろうと思います。ですが、人間環境学科では毎週のように議論を重ね、学生に能力をつけていくためには教員と学生、学生同士が密接に係わりあう体制づくりの必要性を検討してきました。そして、来年度からは新たな展開を開始することにしました。他者そして自分自身への気づきを養成するマッサージ・ストレッチ・太極拳を中継ぎにした「身体智」、データに基づいて答えを導く力を養成する統計学を中継ぎにした「データ分析力」・活字の羅列から情報を読み取り、他者に伝達する能力を養成する専門分野を中継ぎにした「読み書き力」を学生・教員全員参加型で展開させます。卒論も必修です。論文を書くのは大変なことですが、その過程を経ることで、論理的に筋立てて情報をまとめ・伝える力を養成します。
何が正解なのか分からない問いに対してどのように答えを導き出していくのか、その力を養成することが大学に求められているのだと思います。ひと時「未曾有」という言葉をよく耳にしましたが、大学に限らず社会全体が「未曾有」の状態です。何が正解なのか分からない問題に対して答えを出して行かなければならないのです。大学の教員もまた、未曾有に立ち向かっているのです。
私のゼミで卒論を書いた学生にも留年した学生がいます。その学生もこの秋に卒業を迎えることになりました。先日、彼女からもらったメールのタイトルは「恵泉5年の○○です」でした。苦笑しながらもホッとする思いです。彼女たちもまた、社会の、そして自分の人生の未曾有に立ち向かうことになります。社会人として生きる仲間として、心から声援を送りたい気持ちです。
人間環境学科 講師 喜田安哲
担当科目:人間形成基礎演習、統計学
私が最近気になること その4
2009年09月21日
「中国の交通事情」しばらく前から中国を旅するようになった。これまで直行便のある都市とその周辺は行きやすいが、内陸部の多くは日本からのアクセスが悪く、旅行者が足を踏み入れるのは難しいかった。中国観光ツアーの多くが北京・上海・香港などに集中しているのも、そうした事情があったのだろう。ところが、ここ数年、状況が変わりつつある。高速鉄道の導入があったためである。一般には「動車組」と呼ばれ、時刻表などでは、列車番号の前に動車組「D」の記号を付けている。この高速鉄道、外見は紛れもなく新幹線である。初めて見たときには、何かしら感動のようなものを覚えた。ただし、向こうでは「ひかり」「はやて」ではなく、調和を意味する「和諧号」という名で通っている。
日本の新幹線が専用線を走るのに対して、中国では在来線を通る。両国では在来線の軌道の幅が違っているためである。中国の軌道はもともと広く、そのまま走らせることができる。だから、導入の速度は驚くほど早い。瞬く間に運行路線を拡大している。ただし、在来線を利用している宿命であろうか、速度の遅い列車との兼ね合いが難しいようで、最高速で突っ走るわけにはいかないようだ。時には100キロ程度まで落とし、時には200キロを越える。
最近、面白いことに気付いた。初めて乗ったときには日本の新幹線そのままだったと記憶しているが、路線によっては少しずつ独自仕様が登場しているようなのである。そのことを最初に発見したのは、トイレだった。トイレは食事と並んで、文化の違いが出やすいようである。現在の日本の新幹線には見られなくなった「和式」となっていた。次に「網棚」に気付いた。ずいぶんと頑丈そうに見える。宅配便が発達しておらず、マイカーも日本ほどには普及していないからであろうか、大きな荷物を持ち込む乗客が多い。重量級の荷物を載せたが、ビクともしなかった。
日本から中国へのアクセスが容易になったのであれば、当然のこととして、中国から日本へも来やすくなったはずである。最近、河南省や湖南省など内陸部の留学生をよく見かけるようになったが、これも交通事情の変化と関係しているのかもしれない。最近、そんなことが気になり始めている。
文化学科 准教授 高濱俊幸
担当科目:文化史基礎研究他
私が最近気になること その3
2009年09月14日
「アグリライフ」最近「アグリライフ」という言葉を時々あちこちで耳にするようになった。私が好きな佐藤可士和(アートディレクター)が8月20日の朝日新聞に寄稿した記事によると「畑仕事(アグリカルチャー)をライフスタイルに取り込んだ」生活という意味だそうだ。佐藤可士和さんはお子さまが生まれたのをきっかけに、親子で楽しめることの一つとして、千葉の農園から畑を借り農業体験を楽しんでいるらしい。
さらに、この間テレビを見ていると、マーケティング会社「SGR」の元ギャル社長 藤田志穂さんが秋田に行き、自ら農家と交渉して畑を借り、農業プロジェクトをスタートさせる奮闘ぶりが放映されていた。この企画は「ノギャル・プロジェクト」と呼ばれ、若者が農業に興味を持つきっかけを作り、農業自体を盛り上げることを目標にしているそうだ。
たまに読む若い女性向けの雑誌にも「おしゃれ女子の農業体験レポート」なる記事が掲載されていてびっくりした。その中で「丸の内朝大学」の農業クラスが今人気だと紹介されていた。そこではゲストスピーカーとして招かれた若手農家から、農業に関するいろいろなことを勉強できるという。
最近農業に関心を寄せる若者(特に女性)が増えているということだ。これは最近のブームかもしれないが、恵泉女学園では80年も前から女性のための園芸教育が行われている。現在恵泉女学園大学に入学してくる女子学生はみんな必ず園芸の授業を取り、年間を通して14種類もの野菜を育てるのだ。少なからず、彼女達は園芸の授業を取っている間はアグリライフを実践していると言えそうだ。
私は去年から恵泉女学園大学の教員として教鞭を執らせていただいている。正直、勤める前はあまり園芸に興味がなかったが、学生達がうれしそうに、「今日採れた野菜」と言って、大きなきゅうりを見せてくれたり、学生からもらった野菜を食べているうちに、やはり食や農業に対する意識が高くなった気がする。
恵泉女学園大学入試広報では、オープンキャンパスに来てくれた生徒さんにハーブの種をプレゼントしている。どんなものかと種を小さな庭に植えてみた。あまり面倒はみていないが、たくましく育ち、料理をするときにときどき使ったりしている。恵泉女学園大学での生活を通して、私もぜひアグリライフをもっと実践していきたい。
英語コミュニケーション学科 助教 村岡有香
担当科目:担当科目:英文基礎購読他
私が最近気になること その2
2009年09月07日
「『宮崎アニメ』ラピュタの滅びた理由」ちょうど夏休みということもあって、この夏、宮崎アニメをいくつか鑑賞した。日本語を10分見たら、同じ分だけ外国語のものを見るという贅沢な見方である。
そこで外国語版でちょっと気になるところがあった。ラピュタがなぜ滅びたかである。
原作で、シータは言う。
今、ラピュタがなぜ滅びたのか、私、よくわかる。
ゴンドワの谷の歌にあるの。
土に根をおろし、風とともに生きよう。
種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう。
どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうなロボットを操っても、「土」から離れては生きられないのよ。
である。
英訳ではどうなっているだろう。
No matter how many weapons you have,
no matter how great your technology might be,
the world cannot live without love.
いかなる武器、いかなる偉大な科学技術を所有しようが、世界は愛がなければ存立しないのよ。
とでもなろうか。
ここに作品世界を構成する世界観の差が現れている。
英語版では、ラピュタは、あくまで、人間界側の問題、ムスカの行った所業のように愛なき治世が滅ぼしたのである。しかし、原作はそうではない。
科学技術を駆使し、意志なきロボットたちを使役し、大地からラピュタ人が離れたこと。反自然思想がラピュタ王国を滅ぼしたのである。英語版にはない「かわいそうな」ロボットだというシータの発言はだからこそ発せられる。
ああ、古く、三蔵法師をしてインドへ向かわしめたワケがここにある(^^)。
ゴンドワの谷の歌と主題が齟齬(そご)をきたす英語版ラピュタ。このアニメを見て、不審に思った世界の学生が、ゴンドワの谷の歌の思想を体現する恵泉女学園大学に留学してきてくれることを期待している(^^)。
日本語日本文化学科 准教授 川井章弘
担当科目:日本語研究III(日本語教育)他