恵泉ディクショナリー

ニューヨーク歴史文化学科

[にゅーよーく]  New York

ニューヨークとは

メトロポリタン美術館の創設者のひとり、ウィリアム・ブロジェットの家族を描いた「クリスマス・タイム」(1864)はニューヨークの文化人の動向と当時のアメリカを読み解く格好の絵画である。歴史も文化もないといわれたアメリカがヨーロッパに対抗して美の殿堂を作ろうとしたとき何を選んだのだろう。レオナルド・ダ・ヴィンチもいない。ギリシャやエジプトからの戦利品もない。パリ、ルーブル美術館で打ちのめされる体験をしたブロジェットが選んだのは、フレデリック・チャーチの「アンデスのこころ」(1859)だった。
自然描写でヨーロッパ絵画に対抗する、しかし、南アメリカまでまるで自分の庭のように射程にいれていく発想がそこにある。実はその絵、よく見えないが、この応接間の左上に掛かっている。

真っ先に目にはいるのは、絵の中心に座っている母親だろう。家庭を守る象徴としてあがめられた女性は一見、大切にされ、幸せそうだが、その生気のなさはどうだろう。子供たちは美化され、愛らしい。これが南北戦争中の絵画とはおもえない。しかし、子供の手には当時流行った「黒人」のおもちゃが握られている。背中をみせる躍動感ある所作が導く目線の先。奴隷解放宣言の直後に描かれたこの絵は「黒人」の将来が「白人」の「男」の子供たちに託されていくことを描いているのである。見守る父はリンカーンをニューヨークで支援した共和党の実力者でもあった。東洋の美術品で溢れるクリスマスの応接間をみながら、ニューヨークが担う文化戦略の将来を考えさせられる一枚なのである。

2010年02月24日 筆者: 杉山恵子  筆者プロフィール(教員紹介)

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