恵泉ディクショナリー
ミュージカル歴史文化学科
[みゅーじかる] Musical
ミュージカルとは
アメリカ礼賛でその多くが終わる軽薄さがきらいだ、と手厳しい人も多いだろう。しかし本格的なミュージカルがミシシッピ河沿岸を巡業する劇場船を舞台にした『ショーボート』(ブロードウェイ初演1927)に始まったことを知ると、そこに本来ストーリー性、社会性、芸術性が要求されていることがわかる。
奴隷制の名残を残すアメリカ南部、異人種間結婚が取り上げられていることにも驚かされる。
そしてなにより大河を歌い上げた楽曲の美しさ。
その後のオスカー・ハマースタインⅡ世の活躍は「ミュージカル」の発祥、発展の地ブロードウェイの代名詞でもある。
2009年、『ナイン』(ブロードウェイ初演1982)の映画化に参加したニコール・キッドマンが心理ミュージカルの誕生と呼んでいるのは特筆に価する。1950年代のミュージカルは人生賛歌だった。1960年代からは社会問題のテーマが色濃く加わり、さらに、登場人物の心理を描く方向へと進化を遂げているというのだ。
そこでは表情がアップされるミュージカル映画も意味を持つ。ソフィア・ローレンやジュディ・ディンチら各国の女優を結集させた国際性もミュージカル映画の進化を象徴している。
しかし、アメリカのローカルな舞台で演じられるミュージカルにこそ真髄がある。小さな町の劇場で、高校の演劇部で、同じニューヨークの小さな実験劇場で、老若男女が日々演じている。これこそミュージカルの原点だろう。
商業主義に振り回されない、野球にたとえれば、大リーグにはない、草野球の魅力がそこにあるからである。
2010年07月30日 筆者: 杉山 恵子 筆者プロフィール(教員紹介)