犬たちの明治維新:ポチの誕生

仁科邦男著 草思社(645.6/N)

犬は猫と同様、人間とは関わりの深い動物である。その歴史は縄文時代に遡るそうだ。さて、本書は、幕末・明治維新に犬の世界に起こったことを纏めた、珍しい本である。この時代の犬に関連したものといえば、今も上野公園に建っている、犬を連れた西郷隆盛の銅像が思い浮かぶくらいであるが、その他、犬にまつわる話が満載で、犬好きは勿論、猫好き、歴史好きの向きにも楽しんで読んで頂けるものと思う。(Y)

 

シャバはつらいよ

大野更紗著 ポプラ社(916/O67)

24歳で殆ど症例のない難病にかかった著者が、9か月の入院の後退院して「シャバ」で生きてゆく。病を抱えたマンションの一人暮らし。一日一日を生きていく、それがどんなに大変なことかということが文面から伝わってくるが、さりとて湿っぽくもならず、ツイッターやブログを駆使して、自ら積極的に人間関係を広げていくバイタリティは、月並みな言い方だが、凄いと思う。興味のある方は、この本の前編ともいうべき『困った人』を読まれたし(当館にあります)。(Y)

 

どんぐりの森から:原発のない世界を求めて

武藤類子著 緑風出版(543.5/M)

自らを原発への怒りを静かに燃やす「東北の鬼」とたとえる著者は原発から45キロの三春町で喫茶店を営んでいた。何もなかった雑木林を自分の手で開墾して家を建て、自然とともに暮らしていたのだ。しかし原発震災により、その土地は一見、以前と変わらず美しいままだが、放射性物質が存在するところになってしまった。著者は福島原発告訴団の団長を務め、あちこちで講演などを行っている。「鬼」と言いつつもその語り口は穏やかで静かに心にせまってくる。(M)

 

戦場体験キャラバン:元兵士2500人の証言から

戦場体験放映保存の会ほか編著 彩流社(210.7/S)

戦場体験についての本はたくさんあるが、この本を作ったグループのインタビューの手法は独特だろう。聞き手の価値観や解釈を排除し記録の保存に徹する。聞き手は長々としゃべらず、あいづちも極力声に出さないようにする。だから本書には戦争反対という立場からだけではなく、さまざまな証言が記録されている。毎年、年次計画を立て、それに基づきボランティアを募集し、証言してくれる人を探し、依頼の手紙を書きまくり-こうした周到な準備をして1週間くらいの聞き取りの旅に出る。これまでに全国の2500人から証言をもらったそうだ。地道な取り組みに頭が下がる。(M)

 

ひみつの王国:評伝石井桃子

尾崎真理子著  新潮社(910.26/I75)

「いしいももこ やく」「石井桃子さく」と背表紙にある本はいつも楽しく、面白くて、わくわくした。会ったこともないけれど子供の自分を「石井桃子さん」は遠くにいてわかってくれている気がした。しかし実際はどんな大人、女性だったのだろう?ばりばりの若き編集者、「太宰治に恋され、『プーさん』を訳し、『ノンちゃん』を生み出した」児童文学の巨星、そして・・・?重層的で奥深く、多彩な生き方と仕事ぶり、101年などあっという間ではなかったかと思わされるその生涯がついに本格的な活字となった。本の厚みを忘れてしまう一冊。 (A)

 

パンダ:ネコをかぶった珍獣

倉持浩著 岩波書店(489.5/K)

パンダは本来単独生活を好む種の動物なので、飼育係にさえも触れられるのを嫌うとか(ひっかかれたり、かみつかれたりすることも!)。猛獣にして、肉食もあり。「可愛いだけじゃない」パンダの全貌は、これまた、たまたまから、パンダの飼育係はや10年の著者ならではの読みごたえとなっている。でも写真はやはり可愛いです・・・。(A)