ピエ・ノワール列伝

大嶋えり子著 パブリブ(283/O)

『世界引揚者列伝』の1巻目。かつてこの類いのシリーズがあったろうか。寡聞にして知らない。本書は、アルジェリア独立戦争(1954-1962)の後、植民地であった彼の国から本国フランスに引き揚げてきた人たち(ピエ・ノワール)の列伝である。中には、イヴ・サン=ローランやアルベール・カミュといった著名な人の名前も。当時の歴史を知る上でも興味深い一冊。(Y)

 

子どもの貧困と食格差:お腹いっぱい食べさせたい

阿部彩(他)編著 大月書店(369.4/K)

生活に事欠き、食べ物がなかった戦後の時期ならいざ知らず、この飽食の時代に、貧しさゆえに食事に事欠く子どもたちがいる。この問題はしばしばニュースなどで取り上げられているので、「知らなかった」と驚いているようではいけないのだけれど。本書では、特に学校給食の役割に着目しているが、義務教育での完全給食は当たり前だと思っていたが、小学校はともかく、中学校ではまだ完全に実施していない自治体もあると聞く。まずはここから改善を。(Y)

 

10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか

村中璃子著 平凡社(495.4/M)

ある出来事・事件に対する社会の反応がひとつの方向に向かっているときに、異を唱えることは難しい。子宮頸がんワクチン接種による副反応のために少女たちが苦しんでいるというニュースは衝撃的だった。その後長い間、大勢は「ワクチンが悪い」という流れだったと思う。それに対して本書は科学的根拠を示して反証する。何が真実なのか。簡単にはわからない。だが、情報のあふれる現代において、一定の見方にとらわれず、いろいろな角度から考える態度が必要なのだ。  (M)

 

お隣りのイスラーム:日本に暮らすムスリムに会いにいく

森まゆみ著 紀伊國屋書店(167/Mo45)

日本には10万人以上のムスリムが住んでいるという。それぞれ国も言葉も違うのに東日本大震災のときには迅速に支援活動を立ち上げた。「困っている人がいたら助けなさい」という教えに従って。イスラムに対してはテロなどのニュースからつい怖いというようなイメージを持ってしまいがちで、実際に会うことがないとそれが修正されないままになってしまう。まずは著者と一緒にいろんなムスリムの人たちに会ってみよう。 (M)

 

トマト缶の黒い真実

ジャン=バティスト・マレ著 太田出版(588.9/M)

スーパーに行くとトマト缶が積まれているのは良く見かけるし、災害用や食材が切れた時に何かと便利だと買う事もあった。そんな身近な食材の事だけに気になり選んだこの本の「黒い真実」は、ショッキングだ。消費者の購入の心理を見透かしたような産地の偽装、劣化した原料の使用や大量の添加物の使用、生産現場での過酷な労働。買う際になぜ常にこんなに安いのかという疑問もなかったとは言えない。あるいは他の消費者も同じ思いを抱いてはいたかもしれない。だが人は真実をつきつけられるまで行動をなかなか変えられない。その意味でとても貴重な一冊。(A)

 

文豪たちの友情

石井千湖著 立東舎(910.26/I75)

この本を手にしてまず、表紙や人物相関図に描かれている文豪たちを描いたイラストに目をひきつけられた。どの文豪も皆若々しく、それぞれに少女漫画風「イケメン」。それでいて衣服や髪型に文豪としての個性がちゃんと漂っている。対照的に本文に描き出される文豪たちの友情のエピソードはとても濃い。時に恋愛のような三角関係があったり、断絶や葛藤があり、ときに「文豪たちは言葉で殴り合う」。この「濃さ」と「軽さ」が醸し出すこの本の妙味をじっくり味わってください。(A)