純血種という病:商品化される犬とペット産業の暗い歴史

マイケル・ブランドー著 白揚社(645.6/B)

犬は人間のよきパートナーのはずなのに、純血種がすぐれているという人間の勝手な思い込みのせいで近親交配などにより身体を作りかえられてきた。股関節に異常のあるラブラドール、呼吸の苦しそうなブルドッグ・・・。個人的には雑種犬のほうが利口だし可愛いと思うのだが。そもそも「雑種」という言い方自体、失礼な感じがする。「純血信仰」イコール異質なものの排除である。ようやくさまざまな場面で多様性が尊重され始めている現代、犬たちの苦痛の叫びにも耳を傾けてみよう。(M)

 

図説ヴィクトリア朝の女性と暮らし:ワーキング・クラスの人びと

川端有子著 河出書房新社(367.23/K)

ホームズがロンドンで活躍し、アリスが不思議の国に迷い込んでいたヴィクトリア朝イギリスは、私たちが今日「イギリスってこんなふう」とあこがれるイメージがつくられた時代といってもいいかもしれない。しかしこの時代、「下層」の人々、その中でも女性や子どもの暮しは悲惨なものだった。ヴィクトリア朝に関する本はたくさんあるが、今まであまり取り上げられなかった当時の女性の仕事や暮らしを豊富な図版とともに紹介している。(M)

 

「市(イチ)」に立つ : 定期市の民俗誌

山本志乃著 創元社(384.37/Y)

千葉の朝市で出会った女性が残した40冊の出店日記、300年以上続く高知の日曜市、東日本大震災から復活した気仙沼朝市・・・著者の長年にわたるフィールドワークから、小さな商いとともにある凛とした生きざまを伝える。売り手とお客の顔が見える、直接手に取り選べる、その土地のものが買える、常連になれば「また来てね」とおまけがもらえる。市の魅力を知る一冊である。(T)

 

団地と移民 : 課題最先端「空間」の闘い

安田浩一著 角川書店(365.3/Y)

高齢化、孤独死、貧困、移民、多文化共生、差別、残留孤児と、団地には社会の中の多くの問題が詰め込まれているようだ。フランスの団地の現状は、日本の近い未来にも思える。問題は政策なのか人々の意識なのか。高度成長期に最先端の存在だった団地が、再び注目されるべき場所となっている。語られる団地の歴史も興味深く、読みやすいのでおすすめしたい。(C)

 

復興から自立への「ものづくり」:福島のおかあさんが作ったくまのぬいぐるみはなぜパリで絶賛されたのか

飛田恵美子著 小学館 (369.3/H)

生活、仕事、人とのつながり。東日本大震災によってその多くが奪われた。「モノづくり」を通じてそれらが新しい形で取り戻された時、人々にも明日を生きる気力が蘇ってきた。一方で「手仕事」を売れる「商品」に成長させる過程は真剣な試行錯誤の連続でもあった。本書は一つ一つに比類のないストーリーを持つ素敵な「もの」たちの楽しいギフトカタログでもある。(A)

 

AI社会の歩き方:人工知能とどう付き合うか

江間有沙著 化学同人(007.1/E)

AIによって本当に仕事は「奪われる」のだろうか。たとえば現場が危険性の高い仕事などはAIにむしろ「奪ってほしい」かもしれない。接待業の場合、AIが感情労働の負担を軽減できる一方、繊細な「おもてなし」は人対人ではじめて成り立つものだ。本書は、様々な立場から楽観論でも悲観論でもない人工知能と社会の関係を検証し、AI社会を迷わず歩くための地図作りを試みる。(A)