1年生の教養基礎演習の中で、毎年実施してきた恒例行事のひとつに多摩ニュータウン・フィールドトリップ(FT)があります(今春学期のみ奥多摩FTと重なるので休止)。
FTは現代社会学科の特徴的なプログラムで、実際に現地に赴いて、そこに存在する重層的な社会―環境の構造を読み解くもの。教養ゼミで行なっているのはその入門編で、入学してまだ間もなく、大学周辺の環境を知らない一年生と一緒に大学から北に向かって歩き、最寄り駅である多摩センター駅を目指します。
いつもであれば学バスで約10分の道のりですが、徒歩でも寄り道せずに行けば30分ぐらい。案外と近いことと、殆ど車道を通らずに公園と遊歩道をつたってゆけることに新入生は驚きます。それこそ多摩ニュータウンだからなのです。
東京の人口が急増した高度成長期に優良な住環境を計画的に提供する目的で計画された多摩ニュータウンでは自動車の走る車道と人びとが暮らす空間の分離を徹底して進め、住民のために遊歩道と公園を多く整備しました。植樹された豊富な樹々の緑の中を縦横に走る遊歩道を通るので近道で駅まで行けるのですが、FTではニュータウンの歴史を実地で確かめながら歩くので、さすがに30分というわけにはゆきません。90分の授業時間をほぼフルに使うかたちで、建設時期ごとに形態の異なる集合住宅様子を確認しながら歩きます。
理想の住環境を目指した多摩ニュータウンですが、初期に作られた集合住宅はエレベータなどバリアフリー設備が不十分で高齢者には住みにくくなっています。一方で少子化が進み、当初計画していた修学年齢児童人口の確保が難しく、小中学校の統廃合が進んでいます。生活環境を充実させるべく、住区ごとに商店街を計画的に誘致、建設しましたが、今では閉じてしまった店も少なくありません。
このように当初の計画はなぜうまくゆかなかったのか。多摩ニュータウンが抱えるようになった問題を解決するにはどうすればいいのか。そんなことを考えながら歩きます。
人間の生活環境を考えるために大学の「近くより」始める多摩ニュータウンFT。実はこれには続編があって、それは大学から南に下って谷戸に自然発生するホタルを鑑賞するものです。
恵泉の多摩キャンパスは多摩ニュータウン地域の南端にあり、都市計画の理想を実現しようとしたニュータウンと、開発から外れて多摩本来の豊かな自然を残している地域のちょうど境界に位置しており、キャンパスから歩いて出るだけで、文明と自然の関係について考えられる恵まれたロケーションにあります。授業は教室の中だけで行われるのではない、それがこの学科の特徴です。ホタル鑑賞FTについてはまた別に機会にご紹介しましょう。