ギリシャは何故破産しないのでしょうか? 第3回 英語コミュニケーション学科
2021年12月22日
ゼミ/授業名:桃井ゼミ
現在の私は「英語コミュニケーション学科」の教員ですが、元々、写真家として、ドキュメンタリー作家として、世界140カ国を訪れ、様々な社会問題の現場【紛争、戦争、環境破壊、飢餓など】を取材してきました。
これらの経験を基に、今「世界はどのように動いているのか?」「地球はどのような状況にあるのか?」を学生たちに伝えています。それが私の担当する「表現力実践講座」や「国際情勢論」などの授業要旨です。
グローバル化した現在の世界では、国や人種、文化や歴史の違いを越えた高度なコミュニケーション能力が求められています。そうした能力の獲得を目指した恵泉の「英語コミュニケーション学科」では、「英語」+「コミュニケーション」というキーワードで、多彩な経歴を持つ教員が、きめの細かい教育を実践しています。
私が担当するこのブログでは、世界の取材の現場で多様な人々と出会い、交流を重ねた経験から見えてきた「コミュニケーション」を改めて考察します。
ギリシャは何故破産しないのでしょうか? 第3回
現在のギリシャには、以下のような特徴があります。
市町村の多くにある「歴史」博物館
ギリシャでは、どこを掘っても、栄光の古代ギリシャを感じさせる壺やタイルなどが出てくるので、展示するモノに困ることはありません。その上、博物館では、特別な国宝級の財宝を除き、フラッシュを使用しない限り写真の撮影が自由なのです。
日本の場合、博物館はほとんどの場合「撮影禁止」が原則ですから、ギリシャを訪れた日本人はまずこのことに驚くのではないでしょうか。
それは世界中からギリシャを目指す観光客も同様なのです。スマホ片手に、人々は皆、文化財に対するギリシャの寛容な態度に心を弾ませ、沢山の写真を撮り、SNSなどにアップするのです。それが結果的に「ギリシャ文化の広報」になり、ギリシャという国のプレゼンスを高めているのです。
ギリシャにある二つの経済
ギリシャには二つの経済が存在しいるのです。
一つは、公表され、統計化される表の経済、そしてもう一つが、公表されることも、統計化もされない裏経済です。
歴史の中で、何度も権力に蹂躙されてきたギリシャの人々は、そもそも国家という存在を信用していないのかもしれません。それが顕著に出ているのが、国民の国家に対しての義務のひとつ「納税」なのです。
ギリシャで日常的に行われているのが、帳簿も付けず、税金も払わない形の「仕事」=「インフォーマルセクター」です。
インフォーマルセクターと呼ばれるのは、非公式の経済活動で、家族間、仲間内で仕事を手配し、支払いはその場での現金払い。日本でも、家族間では、お風呂掃除や簡単なお手伝いに「おこづかい」が用意されることがありますが、ギリシャでは、国家経済を揺るがすほどの規模でこうした非公式の経済活動が行われているいるのです。
表に出てこない仕事ですから、帳簿に記載されることなく、国に税金を納めることもありません。実際、スイス・ジュネーブに本部を置く「ILO(国際労働機関)」も、2016年「ギリシャではインフォーマルセクターがGDPの25%あまりを占める」としてその是正を求めました。
生真面目な日本から見たなら、ギリシャは完全な破綻国家です。国家維持のためには税関が必要だからです。
一方、紀元前5世紀に世界初の民主主義を作ったギリシャにおいては、民、つまり人々が「主」で、国家は「従」。つまり、「国家のために人々が生きている」のではなく、「人々のために国家が存在している」と考えているのです。
ちなみに、人々と国家の間の主従の関係は、将来を担う若者に対しても同様で、OECD(経済協力開発機構)によれば、世界第三位の経済規模を誇るはずの日本では、国公立大学の平均的授業料が53万5800円(2018年度)であるのに対し、経済破綻国家と考えられているギリシャでは、憲法により授業料が「無償」とされているため、基本的にタダなのです。
「国家のために人々が生きている」のではなく、「人々のために国家が存在」し、国家は、他国から借金をしてでも人々に奉仕する義務がある。それが国家の枠組みを規定する「憲法」にも記されている。これこそ「民」が「主」であるという社会システム=「民主主義」が発祥したギリシャという国の矜持なのでしょう。
これは「人々」と「貨幣(お金)」の関係においても同様です。
ギリシャでは、どこまでも「お金のために人々が生きている」のではなく、「人々が生きるためにお金がある」のです。
だから、たとえ国家経済が破綻しようが、国民はお金によって人生が破壊される道は選ばず、お金を払わないで人生を守る道を選ぶのです。
この点でも日本人とは対極の人生観をギリシャ人は持っているのです。
国家経済が破綻していても、人々の生活が案外困っていない理由は、こうした「したたか」な国民性と国家観にあるようです。
担当教員:桃井 和馬
恵泉女学園大学特任教授 写真家、ノンフィクション作家 これまで世界140ヵ国を取材し、「紛争」「地球環境」「宗教」などを基軸に「文明論」を展開している。テレビ・ラジオ出演多数。第32回太陽賞受賞。公益社団法人「日本写真家協会」会員。主要著書に「和解への祈り」(日本キリスト教団出版局)「もう、死なせない!」(フレーベル館)、「すべての生命(いのち)にであえてよかった」(日本キリスト教団出版局)、「妻と最期の十日間」集英社、「希望の大地」(岩波書店)他多数。 大学では、「表現力実践講座」「国際社会論」「国際情勢論」などを担当。