「ウクライナを憂う」① 英語コミュニケーション学科

2022年03月15日

地下1500㍍の場所に向かうエレベーターは柵があるだけのものだった。

photo by kazuma MOMOI

ロシアの軍事侵攻によるウクライナへのむき出しの暴力が、連日メディアを埋め尽くしています。ウクライナは、①東西交易の地政学的「要衝国」として、②小麦などの食料生産が可能な「農業大国」として、③また豊富な鉱物資源などを背景にした「工業大国」として、いつの時代でも魅力を放つ場所でした。

国際情勢において、「魅力的な場所」とは、同時に、その魅力を手に入れない者たちによって、常に「狙われる場所」となってしまうのです。

最初に私がこの国を訪れたのは、ソビエト崩壊後にウクライナが独立した直後、1991年のことでした。工業が有名な南部の都市クリボイログを訪ねると、その中心に巨大「鉄鉱脈」の存在があることを知りました。
地下1500メートルの場所にある鉱脈に向かうには、労働者がぎっしり詰められた「鉄枠だけのエレベーター」に乗り、30分間地下に下る必要があります。

薄暗い地下空間では、立っているだけでも汗が噴き出します。そんな劣悪な環境の中で、マスクも付けず、穴を掘り続けていたのです。

鉱山労働者の平均寿命は50歳だと言われました。
多くは、鉄鉱石の粉じんを吸い続けた結果発症する疾病「じん肺」だとも聞きました。
使い捨てられる命。
しかし、それらの命にも、それぞれには名前があり、それぞれには愛する家族があり、幸せがあるのです。

国家のために人々がある(=全体/権威主義)のではなく、人々のために国家はある(=民主主義)。いえ、あって欲しいと願うのです。

担当教員:桃井 和馬

恵泉女学園大学特任教授 写真家、ノンフィクション作家 これまで世界140ヵ国を取材し、「紛争」「地球環境」「宗教」などを基軸に「文明論」を展開している。テレビ・ラジオ出演多数。第32回太陽賞受賞。公益社団法人「日本写真家協会」会員。主要著書に「和解への祈り」(日本キリスト教団出版局)「もう、死なせない!」(フレーベル館)、「すべての生命(いのち)にであえてよかった」(日本キリスト教団出版局)、「妻と最期の十日間」集英社、「希望の大地」(岩波書店)他多数。 大学では、「表現力実践講座」「国際社会論」「国際情勢論」などを担当。

桃井 和馬