2012年05月18日
前回のヒドコートガーデン(その1)ではガーデンの歴史と6つの構成上の特徴を紹介しましたが、今回はその特徴について、具体的に紹介していきます。
1.最初に取り上げる特徴は庭園が生垣で小庭園に分けられていて、次々と違う構成の小庭園を廻るようになっていることです。
先ず、最初にホワイトガーデンを紹介します。高いセイヨウイチイの生垣で囲まれた10m四方ほどの狭い庭で、中は低いツゲ生垣で4区分され、それぞれの区分にバラやマーガレットなどの白い花が咲きます。生垣の4つの角には鳥のトピアリーが作られています。ホワイトガーデンはケント州にあるシシングハーストガーデンが有名ですが、ヒドコートがそれに先駆けて作られたものです。
2番目はノットガーデンのある庭に入って行きます。庭の中央に道が通り、その両側にツゲの低い生垣で四角形の中に丸形がデザインされています。生垣の間にはオレンジ色やピンクの花のフクシアが植えられていて、「フクシアガーデン」と名付けられています。ノットガーデンは「結び目花壇」と訳され、低い生垣が結び目の様に交錯するところから名付けられています。イギリスでは特に人気がありますが、古代ローマ時代から作られている古典的な庭園様式です。次の庭園の入り口の両側には鳥のトピアリーがあり、その様子は(その1)の3番目の写真で紹介しています。数段の石段を降りると直径10mほどの大きな池が中央にある庭に入ります。池には水が満々とたたえられ、中央には小児の噴水が置かれています。庭の周囲を回って次の庭に移って行きます。
次の庭の入り口はセイヨウイチイの生垣が家の形に刈り込まれ、戸口から入るとその中は高い生垣に囲まれた直径6-7mほどの丸い空間で左右に出口があります。一方の出口からは木立に囲まれた通路が続き、その道の両側にはギボシなどの日陰でよく育つ植物が植えられています。他方は広い庭への出口となっています。ここで小庭園の連続は終りますが、少し離れた位置に、小庭園がレンガ敷きになっていて、ニュウサイランやリュウゼツランの鉢植えなどが置かれた地中海風の庭園もあります。
2.ボーダー花壇のある庭
ガートルード・ジーキルによって始められたボーダー花壇は通路から見て、前の方に丈の低い植物を、後ろの方に高い植物を配置した立体的な花壇ですが、ヒドコートガーデンでは3つの違うタイプのボーダー花壇が作られています。
ひとつは(その1)でも紹介した赤い花を集めたボーダー花壇です。芝生の通路の両側に約40mに渡ってボーダー花壇が続きます。バラ、ダリア、カンナ、ヘメロカリスなどの真紅の花が配置されています。また、花壇の後ろにはスモークツリーの赤い葉が茂っています。ここでは花も葉も赤い植物が選ばれて配置されています。
次のボーダー花壇は赤いボーダー花壇の隣の庭にある、古風な庭園(old garden)と名付けられた庭にあります。中央に長さ20mほどの芝生の道があり、道の正面にヒマラヤシーダが茂っています。その道の両側にピンク、青、白などの淡い色の花を配置したダブルボーダーが作られています。ボーダーの後ろには古風なレンガ造りの館や藁屋根のコテージハウスなどが見えて古いコテージガーデンの雰囲気があります。
三つ目は、ローズボーダーと名付けられたバラと宿根草を組み合わせたボーダー花壇です。幅が2m足らずの舗装された狭い中央の通路が50mほどの長さに伸び、その両側にピンクのバラと宿根フロックス、キャッツミント、など青い花配置されています。
花の配色の美しさを駆使したボーダー花壇は現在の規模の大きなイギリス庭園には必ず置かれていますが、その先駆けとなったのがヒドコートガーデンです。
3.フランス式庭園の様に左右対称に整えられた庭も2ヶ所配置されています。
その一つは(その1)で紹介した「四角く木を刈り込んだ庭」で、アメリカシデを通路の両側に列植して樹冠を方形に刈り込んであります。きちんと左右対称に整えられています。
二つめはその隣にある「円柱のある庭園」と名付けられた庭園で、高さが5mほどの円柱状に刈り込まれたセイヨウイチイが長方形の庭園の前後・左右の生垣沿いに間隔を置いて左右対称に配置されています。
4.ヒドコートガーデンは多くの小庭園で構成された庭園ですが、その中にあって、芝生地が広々と広がる空間も3ヶ所用意されています。一つは(その1)で紹介した幅10mの芝生地が100mほども伸びる「長い散策路」と名付けられた散策路です。この通路は庭園を左右に分ける分離帯にもなっています。
二つめは庭園の入り口から最初に入る「劇場芝生」とよばれる広々とした長方形の芝生地で、奥の正面には丸く土が盛り上がったステージがあり名の通り劇場の様な雰囲気を感じます。現在はステージの周囲は低い生垣で丸く囲まれ中央に大木が茂っています。
三つめは庭園の外に広がる田園風景です。上述のアメリカシデの並木を通り抜けると庭園の端に達し、そこから牧場の向こうに広がるコッツウォールズの田園風景を望むことが出来ます。牧場には羊が草を食み、形のよい樹木が点在していて、そこには美しいイギリスの風景式庭園が展開しています。
5.庭園の館から遠い広い部分は落葉樹が植えられたウッドランドと呼ばれる樹木林になっています。樹木の下は半日陰になり、日陰を好む植物が植えられています。また、樹木の無い開けた場所にはバラの植え込みや、日向を好むサルビアなどの大型の宿根草が植え込まれています。林に中を歩いていると思いがけずシュウメイギクの群生に出会ったりするロマンチックな庭園です。
6.イギリスの庭園は、本来は生活の糧を得るための場所でもありますので、野菜を育てるキッチンガーデンも欠かせません。ヒドコートガーデンでも館の近くに広いキッチンガーデンが用意されています。キャベツ、ニンジン、レタス、ネギ類、支柱をした豆類などおなじみの野菜類が整然と並んで育てられています。キッチンガーデンの一部ではハーブの仲間も育てられています。また、温室もあって、そこではゼラニウム、フクシアなどの鉢花が咲いています。
以上、2回に渡ってヒドコートガーデンについて紹介してきましたが、このように花の美しいボーダー花壇や整形式庭園、風景式庭園など多くの要素を取り入れた庭園は、その後に続々とイギリスの各地に作られていきます。それらの庭園の先駆けとなったヒドコートガーデンは訪英の際はぜひ訪ねてみたい庭園です。
« 4月の主な園芸作業 | メインページ | マント群落。ソデ群落? »
<< 2013年4月 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | |
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 |
28 | 29 | 30 |
ヒドコート・マナーガーデン(Hidcote Manor Garden) その2