卒業式 式辞 「あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい」
学長 木村利人
学部卒業生の皆さん、大学院修了生の皆さん、おめでとうございます。 保証人、ご家族のみなさまにも、恵泉女学園大学の教職員を代表して心からなるお祝いの言葉を申し上げます。
今日卒業式を迎えた皆さん方には、2008年4月2日の入学式で私が式辞を述べました。
覚えていらっしゃる方はおられますか? 実は、私は新入生だった皆さん方に恵泉での大学生活を送るにあたって、次のような質問をしました。
第一に、何故恵泉女学園大学で学ぶことを選んだのでしょうか? 第2に、大学生活4年間で、何を学びたいと思っていますか? 第3に、人生の目的は何でしょうか? 4年間の大学生活を通して、皆さん方はこの三つの質問に直接、間接に答える素晴らしいキャンパスライフを過ごされたということを、昨日の卒業礼拝で、卒業生の皆さんによる感動的なお話によって知ることができまして大変に嬉しく思いました。
それぞれ一生忘れることがないであろう先生方や職員の方々やかけがえのない友人たちとの交わりが数々の真剣な学びの場、教室や農場での講義や作業を通して与えられたとのことでした。また国の内外での体験学習や色々な語学研修と課外授業、サークル活動などにより多摩キャンパスだけでなく大きく世界に花を開いた恵泉ライフを送ることができたことをお伺いして感動しました。
4年間、恵泉で学んだ皆さんはご存知のように、私たちの学園の創立者・河井道先生による教育の理念は、「聖書」「国際」「園芸」の三つの教科を必修とする世界的にみても人文系の女子大学において極めてユニークな人間教育の実践なのです。 私は「いのち」をめぐる倫理的、法的、社会的価値判断についての新しい学問分野であるバイオエシックス(生命倫理)のパイオニアとして、このような河井先生の人間教育の理念を「いのち」に焦点を合わせて新しく統合し、把握し直してみました。 すなわち「いのちのルーツとしての聖書に学び」「いのちを支え合う國際・平和を学び」「いのちを慈しみ育てる園芸を学ぶ」という未来に向けて光り輝く「いのちの教育」の展開として表現してみました。 わたくしたち、河井先生のいのちの教育理念を受け継いだ者たちが、この世の価値観と妥協し、世間的な評価や財産、地位や名誉や社会的名声にこだわり、とらわれてしまったら、塩の味を失った塩、升の下においたランプの灯火になってしまいます。
そのことが先ほど読んでいただいたマタイによる福音書5章13節から16節までの聖書の御言葉の意味するところです。 神様の栄光が現れるように、あなたがたの光を輝かせなさいと聖書は語っています。自分のいのちの光を、他者のために輝かせること、これこそ河井先生が示された恵泉スピリットなのです。 この恵泉スピリットは、昨年の東日本大震災の救援活動に直ちに発揮されました。国内や国外で災害救援活動を経験してこられた本学の先生方や、今日の式に出席している大学院修了生や学部卒業生の何人かの皆さん方は直ちに救援物資の補給のネットワークを恵泉につくり、その輸送や募金などにもイニシアティブをとって大活躍しました。そして、被災地のご家族や救援チームの方々と連携しつつ、交通機関が復旧した時点で直ちに被災地に入って献身的な救援活動に従事しました。 自分で探し出したNGOのチャネルで、現地入りして働いた学生もいましたし、ゼミやキリスト教センターでのワークキャンプも行われ、クリスマスには恵泉園芸センターのシクラメンを被災地に届けるプロジェクトも行われました。 また、従来から有機農業ネットワークを通して深い関わりを持ってきた福島の農家の方々をお招きし、3.11 をおぼえる追悼礼拝とシンポジウムを昨年5月に本学で開催し、今年の2月には、福島の高校生も農家の方々ともどもお招きして、一緒に校舎に泊まり込み、食事もともにしました。この南野校舎での合宿は、恵泉の学生、教職員はもちろん多摩地域地住民の方々にとって忘れられない思い出となったのです。
何といっても、昨年度は、あの状況の中で、卒業式ができなかったのは本当に残念でした。しかし、ここが恵泉の学生のユニークなところですが、その残念な思いをプラスに転化させて、被災地の皆さん方に連帯するということで、恵泉の卒業生自身のアイデアで、世界最初の「ツイッター卒業式」を実現させたそのクリエイティブな実行力には目を見張りました。 今日、さきほどご一緒に歌いました、河井先生愛唱の賛美歌302番に「み神の風をば 帆にはらみて、今日しもわが船 いで行ゆくなり。さからう風にも おおなみにも、みたすけ仰ぎて いとやすけく。」とありますように、今日、未来に向け、神様の風、スピリットをひとりひとりの心の帆に一杯に受けて、希望に胸を膨らませて、恵泉という港から大胆に船出して行ってください。
昨日の卒業礼拝の学生による感話のなかにも、恵泉という港から船出をすると語られていたのが強く印象に残りました。
逆らう風にも大波にも負けないで、沖にでて進んで行きましょう。神様が恵泉スピリットに満ち溢れた皆さん方の行く末を守り導き、光り輝かせてくださることを確信しています。 今日、これから行われる恵泉の伝統の「学灯ゆずり」は、暗闇の中で卒業生から在学生へと光がゆずりわたされるセレモニーです。 「学灯ゆずり」の由来はのちほど読みあげられますが、その学灯の炎の輝きが、河井先生の訳された「光よ」という詩の歌声に乗せて卒業生の皆さん方の一本一本の蝋燭の灯火として大きく広がっていきます。これは暗闇の世界の中でイエスキリストの光輝く愛の灯火が、それを受けた人々によって静かに、しかし大きく広がりをみせていくありさまを象徴しているのです。
光そのものである神を見つめつつ、私たち自身ではなく神の輝きによってのみ輝くことの出来る「光の子」(エフェソの信徒への手紙5章8節)として恵泉で体験した希望と愛の心とを持ってともに歩んでいきましょう。
皆さん方は、どんな暗闇の中にいても、どんなにに小さくても、どんなに取るに足らない自分であっても神様に愛されているのだということを、この恵泉で聖書に学んだからこそ愛の光を輝かせることができるのです。 河井先生はまさに、愛の人でした。そして河井先生がそうであったように國際平和の精神に生きましょう。いのちを慈しみ育てる園芸と花のあるライフスタイルを生活の中で実践しましょう。
河井道先生は、日本の敗戦後の社会的混乱の中で次のように述べられておられます。
「現在、日本の国家、国内、個人間の問題をみてみますと、物質・精神両面に旋風が吹き荒れ、腐敗、破壊が渦巻いています。わたくしたちは、悲観的な絶望の敗北感で世の人々と調子を合わせるべきでしょうか。いいえ、そうであってはなりません。神は愛の犠牲をもって人間を作り直して下さることを信じ、闇の中にも光を見いだしましょう。たとえ不幸のなかにあっても神の恵みを感じとり、勇気をもって生活すべきときが来たのです」 このお言葉は、現在にもぴったりとあてはまるメッセージです。 皆さん方のこれからの人生では様々な冒険をすることになるかも知れませんし、色々な可能性が開けています。新しい出会い、喜びや楽しみもあるでしょう。また、大きな苦難や悲しみに直面することにもなるでしょう。しかし、どのような時、どのような所にいても恵泉で皆さんが学び、体験した神にある平和、平安の心を抱きつつ、「勇気を出しなさい」というキリストの力強いメッセージを心の内にもって、これからの新しい人生を歩んで行って下さい。
卒業式は、英語で「コマンスメント」(Commencement)といいますが、これは「開始する」「始める」(commence)に由来する言葉なのです。 皆さん方は、学業を終え「卒業」し、これから恵泉の港を出て、社会の荒波のなかでの新しい生活が「始まり」ます。
さあ、卒業生の皆さん、あなたがたの光を人々の前に輝かしましょう! 皆さんのご卒業、そして新しい出発おめでとうございます!